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次の日の朝、俺が体を起こすと其の音で起きたのか、芥川は眠そうに瞼を擦った。
「御早う御座います」
「ふぁあ…。ああ、おはよう」
芥川は頭が覚醒するのが早い。善く寝れたか?と訊くと、はい、と返ってきた。昨日の訓練で負った擦り傷はもう瘡蓋ができ始めており、動くのに支障はないようだ。
朝御飯の用意をしながら今日の予定を確認する。芥川は夜に首領との食事会が有る位で、他は特に予定はない。俺も芥川に必要な物を用意しなければならない、と有休をとっていた。
そうだ。服を買いに行こう。
芥川の仕事着は既に買ってあるから、休日に着る為の私服を買おう。
────と、いう訳で芥川を乗せ、ショッピングモールへと車を走らせた。
思っていたよりも人が多い。年が明けて間もないからなのか、どこもかしこも煌びやかで、眩しい。
丁度見つけた服屋に入る。此処ならラフな格好の服がいっぱいあって善いだろう。芥川に好きな服を選べ、買ってやる、と伝えた。其のまま近くに在った椅子に座ろうとすると、きゅっ、と服の袖を掴まれた。
「如何した?」
「…何が好きか、判らぬのです」
「好き、とはどのようなものなのですか?」
「そう云われると難しいな」
そうか、此奴は「好き」という感情を知らないのだ。そんなこと教えて貰っていないから。
かと云って、俺が「好き」を完璧に教えられるかと云ったらそうでもない。俺にとっての「好き」というのは衝動的に感じるものであって、感覚的なものであって、具体的なものではない。
そうやって説明したって抽象的すぎて判らないだろう。実際、自分でも善く判っていないのだから。
判っていないが、俺はワインが好きだし、車が好きだ。仲間も好きだし、此の組織も、首領も、俺に色々教えてくれた姐さんも。そして、────芥川も。自信を持って好きだと云える。
芥川も、何時かはそう思えるようになって欲しい。思えるように、俺が感情を教えられるようになりたいと思う。
「まあ何時かは判るようになるさ。自然にな」
「なら、今日は中也さんが、僕の服を選んで下さいませんか」
「……俺が、?」
こくり、と芥川が頷く。
「中也さんの「好き」を教えて下さい」
嗚呼、敵わない。此れが無自覚だなんて。何れだけ俺を惚れ直させるのだろうか。
「はああ~~~~っ、疲れたなあ、」
「何れだけ買うのですか……、中也さん」
あれから2時間。様々な店を見て回った。散々着せ替え人形のようにされた芥川はげっそりしている。悪ィな、と謝るとふい、とそっぽを向かれた。
「だって、あんまり楽しかったからよ」
と呟くと、芥川の耳が少しだけ朱く染まった。肌の色が白いから善く判る。照れ隠しに、早く行きますよ、と急かされ、ポートマフィアに帰るために車に乗った。