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それは突然だった。あまりにも突然過ぎて、まだ実感が湧かない。
仕事中にプライベートのスマホが鳴った。見たことのない11桁の番号で、それは何故か胸騒ぎを起こさせた。
「…はい、森下ですが…」
『森下茜さんですか?あの、落ち着いて聞いてください。さっき、お父さんの容態が急変しました。急いで病院へ来てください』
「え?お父さんが?」
つい声が大きくなり、周りにいた人たちが私を振り返り、結城がそばに来た。
『早く、お願いします。〇〇市立病院です』
「え?あ、はい、行きます」
_____えっと、どうしたら?
「チーフ、何かあったんですか?」
「お父さんの容態が…」
「お父さんが?何やってるんですか、行きますよ、早く!」
結城は私のバッグを持つと、私の腕も掴んだ。
「課長!チーフと俺は今から早退します、それから申し訳ありませんが社用車を貸してください、お願いします」
「あー、わかった、総務には連絡しておくから鍵を受け取って行けよ」
ことの成り行きを見ていた課長は、すぐに対応してくれた。でも、私はおろおろしてしまって足がもつれそうになった。
「ありがとうございます!ほら、チーフ行きますよ」
「うん…」
私は結城に手を引かれて、会社の駐車場にある白いバンの社用車に乗せられた。
「俺が運転して行きますから、ナビをセットしてください、チーフ!早く!」
結城に急かされ、急いでナビに行き先を登録しようとしたが、指が震えてうまくいかない。
「俺がやります、どこへ行けばいいんですか?」
「〇〇市立病院」
結城は手際よくセットすると、目的地に向かって走り出した。
_____お父さんの容態が悪いって…
さっきのは看護師さんだろうか、悪いってどれくらい悪いか聞けばよかった、そんなことを考えていた。
「高速に乗ります。チーフ、ほかに誰か身内で連絡した方がいい人は?」
「え?あ、ううん、近しい人はいないんだ」
父には兄弟がいない、母も祖父母ももう他界している。
_____お父さんの家族って、私だけだったんだ…
今頃になってそんなことに気づく。どうしよう?お父さんにもしものことがあったら…。
どうしてもっとちゃんと、お父さんと会ったり話したりしなかったんだろう?頭の中でぐるぐる後悔が渦巻く。
「チーフ、大丈夫ですか?しっかりしてくださいね」
私は無意識に、膝の上で両手を握りしめていて、そして小さく震えていた。結城はそっと私のその手を包んでくれた。
その結城の温もりで、震えがおさまった。
病院に着いたのは、会社を出てから2時間後だった。玄関先で私だけ先に降りる。
「車をとめたら追いかけるから、チーフは先に行ってください」
「うん、ありがとう」
ここまで来る間に、いくらか気持ちは落ち着いていた。受付に入り、ナースステーションを教えてもらって父のところへ案内してもらう。
「こちらです」
ドアを開けて中に入る。
「お父さん!お父さん!」
何人かが父を囲んでいて、その人たちを押し分けて父のもとにたどり着いた。
看護師や医師がいたが、もう何もしてはいなかった。心電図の機械がピーッと鳴っている。
「16時18分、ご臨終です」
腕時計を見ながら医師が言う。
「え…うそ!まだ間に合いますよね?心臓マッサージとかするんですよね?」
医師も看護師も下を向いている。
「うそでしょ…、だって、ほらまだあったかいじゃない、お父さん、ねぇ!」
私は点滴に繋がれた父の腕を掴んだ。まだ体温がある、頬も温もりがあるのに。
「森下さん、落ち着いて、もう…」
医師は頭を下げて出て行った。
入れ替わりに、足音がして結城が入ってきた。
「チーフ?お父さんは?」
「……」
私は何も言えなかった。ベッドに横たわる父の点滴や心電図が外されていくのを見て、状況がわかったようだ。私はまだ、この現実が受け止められない。
「…そんな……」
しばらく無言の時が流れた。
別の看護師が二人、トレイを持って入ってきた。
「これから、エンゼルケアをさせていただきますので、しばらく部屋の外でお待ちいただけますか?」
「行こうか…」
結城に促されて立ち上がった時初めて、あと1人、そこにいたことに気づいた。
「あ、あの…あなたは?」
「先程、お電話させていただきましたもので、高井橙子といいます」
「高井…さん?父とはどのような?」
「はい、あの、お父さんからは何も聞かれてませんか?」
実家にもここ数年帰ってなかったし、最近連絡をしたのも結石で緊急入院したときだけだった。
「すみません、なにも聞いてなくて…」
「そうですか…では、これを。お父さんから預かっていました。茜さんがきたら渡してくれと」
そう言って高井が取り出したのは、私宛の父からの手紙だった。