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優しく笑った水咲は、悲しい。
自分だって女の子なのに。少女漫画みたいに、運命の相手に大事にされて、お互い愛し合うために生まれてきた、世界でたった一人の女の子なのに。
「くそみたい」
「え、く、? え?」
ハムスターが私を二度見した。
私の口から、そんな言葉が飛び出したことに驚いていたようだった。
「こんな、水咲を苦しめる法律、クソだ。くそみたい。くそだ」
「うああああ。落ち着け。小鳥のさえずりのように可愛い流伽の唇と声から、うんこなんて、駄目だ」
「くそー! くそだもん。うあわああああああん」
「こ、ここ音声カット。綺麗な川のせせらぎ音を流してあげて。仲人さん、仲人さーん」
パニックで部屋中を走り回るハムスターとわんわん泣く私と、唇を噛みしめる水咲。
水咲が泣くのを我慢するのなら、私が泣いてやる。大声で泣いてやる。
国の法律でお見合いなんて、最低だ。国の法律で苦しんで好きでもない相手と結婚なんて馬鹿みたい。
消えてなくなれ。最低だ。
「どうしたの? 落ち着いて」
「ブザー鳴ってないから、やばい状況じゃないの?」
ひょこっと保健室を覗いたのは、亜里沙先輩と森苺先輩だった。
そして次の瞬間、森苺先輩が空をも割りそうなほど甲高く叫んだ。
「ちょ――――っ ちょ! ちょー! ちょちょと、ちょーっ 一慶だ。花巻一慶だ! やっば、やっばーい」
窓を開けて大声で叫ぶ森苺先輩を、亜里沙先輩が抑えている。
きっと保険医の佐々木先生に言われてフォローしに来てくれたはずなのに余計に悪化した。
「やっばー。え、? えええー? 孔一くんが流伽ちゃんに不貞をしたって聞いて飛んできたのに」
「私は水咲ちゃんと流伽ちゃんの気持ちは女の子の方が分かるからって一河くんから」
困惑する亜里沙先輩が、森苺先輩を廊下に放り投げる。
近くで見たことなかったけど、お人形みたいに綺麗だ。
ウェーブ掛かった長い髪が、背中でしなやかに揺れていて、美しい。
唇なんて艶々のピンクだし、少し困っている顔も庇護欲をそそりたくなるほど儚い。
「私ね、流伽ちゃんは何も悪くないと思うけど、水咲ちゃんの国の法律に従う潔さも悪いとは思わないわ」
「亜里沙先輩……」
「私は恋とか恋愛とかより、お互い大切にしあえる関係ならば結婚してもいいかなって思う。平穏は素敵だわ」
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かんな
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ひより
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鷹槻れん

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優しい言葉だけど、じゃあ亜里沙先輩は平穏がほしくて一河を指名したの?
一河は亜里沙先輩が好きなのに。
ずっと片思いしていたのに。
一河の家が裕福で、一河は自分の妹を助けてくれて、一河が国の法律上、地位もしっかりしているから。
そこに愛はいらないと。
「……一慶さん、帰ろう」
「え?」
「もうわかんない。意味わかんない。皆、信じられないよ」
「え、え? あ、じゃあ俺、良い場所知ってるから、そっち行こう」
「流伽」
我慢する水咲も達観している亜里沙先輩にも、発狂している一慶さんファンの森苺先輩にも私の気持ちはきっと伝わらない。
普通の恋がしたいだけ。
ただそれだけなの。
難しいことは分からないし、知らない。
分からないことだらけだし、法律に従った方が手当ても補助もいいのは分かる。
じゃあ今までできていた普通の恋愛は、人口増加のために捨て去らなければいけない文化だったの。
人の気持ちを大事にできないなんて、そんな国、滅んでしまえばいいのに。
「あの、さ。流伽」
私は今、信じられない状況を目のあたりにしている。
ハムスターが外国車を運転しているのだ。
私にはハンドルにへばりつくハムスターにしか見えない。
ブレーキやアクセルに足が届いていないのに、運転している。
私の恋愛結婚憧憬症候群は全く改善の傾向には至っていないようだ。
「流伽が望むなら、お見合い辞めてもいいよ、俺」
「……え?」
「自分の力でプロポーズを一からするって、こと。なんかさっきの女の子たちが、お見合いのシステムに洗脳されてて俺、悲しかったんだ」