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一ノ瀬との会話を終えると、鳴海は駆け足で鬼國隊の2人が乗って来た黒鳥の元へ向かう。
先に乗り込んでいた矢颪が何か言いたそうな顔をしていたが、それには気づかないフリをして、鳴海は背中に上がるため黒鳥の体に触れた。
「(相変わらず大きい!)」
「大丈夫?上がれそう?」
「大丈…あ、ちょ…ヘルプ…」
「ふふっ。俺の手掴んで?引き上げてあげる。」
「あざっす」
思っていた以上に黒鳥のサイズが大きくまごついていた鳴海に、鳥飼がすかさず声をかける。
笑顔で差し出された手を握れば、ひょいと軽く鳴海を持ち上げて、黒鳥の背中に着地させた。
お礼を伝える鳴海に “どういたしまして” と返す鳥飼は、とても過激な思想を持っているとは思えないほど穏やかだった。
鳴海に手を貸した後、鳥飼は等々力と何やら話し始める。
その合間にメイクをしている鳴海(海月のため)を、矢颪は何とも複雑な表情で見つめていた。
聞きたいことがあり過ぎてウズウズしていた彼は、ついに耐えきれなくなって声をかけた。
「…おい。」
「ん〜?なぁに?」
「 “なぁに?” じゃねぇよ…何でお前まで来てんだよ。」
「だって教育係だも〜ん」
「は?何だよそれ…んなの聞いてねぇ!」
「そりゃそうだよ。俺が勝手に決めたんだから。」
「勝手に…って、何言ってんだよ。お前戦えないんだよな?危ねぇとこ行っちゃダメなんだろ?」
「うん、怒られちゃう。」
「だったら何で…!」
「……もう碇ちゃんを1人にしないって決めたからさ。」
「!」
「教育係は嘘だけどさ、見守りたいっていう気持ちは本当だよ。碇ちゃん、危なっかしいんだもん。ほっとけないよ。」
そう言って向けられた明るい笑顔に、矢颪は言葉を失う。
言われていることは自分勝手で無茶苦茶なのに、不思議と嫌な感情が湧いてこない。
いつだって笑顔で、今も茶化して言っていた部分はあった。
でも “1人にしない” と言い切った時の鳴海の顔はいつになく真剣で、自分のことを本気で考えてくれていると本能的に分かった。
それを心のどこかで喜んでいる自分がいることに、矢颪自身が一番驚いていた。
どんな感情でどんな言葉を伝えれば良いのか分からず、矢颪は鳴海から視線を外した。
と、そのタイミングで黒鳥が羽ばたき始める。
次に矢颪が顔を上げた時、グラウンドに捨て置いたジャージはもう見えなくなっていた。
「いいのか?あんな別れ方で。仲間だったんじゃねぇの?」
「仲間じゃねぇよ。」
「一緒に来てくれた鳴海も?」
「こいつは…!勝手に…そんなことより、どこ行くんだ?」
「栃木県の華厳の滝跡地。仕入れた情報だと、桃太郎機関の研究所があるらしい。」
「あー…あそこかぁ」
「うん。何かそこで色々やってるみたい…おい!颯!お前絶対吐くなよ!」
鳴海の問いかけに答えていた鳥飼は、大将がまた口をパンパンにしているのを見つけすぐさま声を張り上げる。
「…颯ちゃん」
「んーんーんん!」
「え、何て?」
「あー呼び方のことだと思う。昔は大将呼びだっただろーって」
「呼べってか?」
「ん!」
「え、やだよ。颯ちゃんは颯ちゃんだし。てか、ちょっと手出して?」
指示に素直に従った等々力は、サッと右手を差し出す。
鳴海はその手を取ると、掌に小さな傷をつけそこへ自身の血(菌を混ぜ込んだ)を送り込んだ。
以前皇后崎が似た状態になった時、新鮮な血を造り出すことで回復したのを思い出しての行動だった。
数分後…
等々力の顔色はみるみる回復し、口の中の諸々もどこかへ消えていた。
鳴海に手を握っていてもらえば気持ち悪くならないことも判明し、等々力はご機嫌である。
「すごいな!何かに乗ってこんなに快適に過ごしたことはない!礼を言う!」
「どういたしまして。一応、ゲロ袋持っといて」
「…風の噂で聞いたんだけどさ、”斑鳩鳴海” から “無陀野鳴海” に変わったって本当?」
「知ってたの?」
「何!?鳴海お前結婚したのか…!?」
「そんな、俺以外の奴と結婚したのか的なノリで言われても」
「結婚おめでとう!!!」
「話聞けやこの爆裂方向音痴」
言うが早いか、等々力は満面の笑みで鳴海を抱き締めた。
彼の力強いハグに呆れ顔を見せながらも、鳴海は頭に浮かんでくる疑問を聞かずにはいられなかった。
何故自分の結婚の事を知っているのか。
鳴海から自身の大将を引き剥がしながら、鳥飼は彼の問いかけに答えを与える。
「答えは簡単だよ。出身とか色々君は意外と有名なんだ。体の部位を造れる能力ってなかなか特殊だからね。それが理由で桃に狙われてることも知ってるし、だからこそ鬼國隊としては保護しようって方向で話がまとまったわけなんだけど…」
「あ、俺が結婚して無人くんが守るからその必要が無くなった感じ?」
「生け捕りにするなんて言語道断だ!」
「話聞けっつってんだろこの馬鹿」
「ここにいる時から大将は君に目星をつけてたからね。鬼機関に属してなかったら是非来て欲しいところだよ」
「絶対やだ」
黒鳥に乗ること30分、一行はとある森の中に降り立った。
どこでどう桃太郎が監視しているか分からないため、ここから拠点までは徒歩移動である。
等々力を先頭に、鳴海・鳥飼・矢颪と続く。
治療の名残で、等々力は引き続き鳴海と手を繋いで歩いていた。
「ねーえー颯ちゃーん…もう黒鳥から降りたし、手離して大丈夫じゃねー?」
「離すわけないだろ!途中で襲われたらどうする!」
「俺強いの知ってるでしょ」
「もう大将は保護モードなのよ。」
「保護って、さっき話してやつ?」
「そう。鳴海の話を風の噂で聞いた時、大将めちゃくちゃ怒ってさ。生け捕りなんて、捕まえた後何されるか分かったもんじゃない!って。だから必ず保護して、その後は自分が絶対守るって決めてたんだ。ね、大将?」
「そうだ!鳴海に近づく桃は全部始末するから、何も心配せず安心して過ごすといい!」
「あ、ありがとう、…?(これ絶対過去の事なんか話せねぇよ…)」(※生け捕りどころか人体実験に使われていた)
「強引でごめんね。鳴海を思っての行動だから、悪いんだけど付き合ってあげてくれる?」
最後の言葉は等々力に聞こえないよう、小声で鳴海に伝える鳥飼。
苦笑する表情とは裏腹に、鳴海はその声に大将への信頼と尊敬が溢れているように思えた。
過激な思想の団体ということで警戒していた鳴海だったが、移動中のやり取りも含めて、少し警戒レベルを下げてもいいのではと思い始めていた。
「てか華厳の滝周辺て、有毒ガスの発生とかで立ち入り禁止じゃなかったか?」
「あ、確かに…そういう話聞いたことあるかも。」
「だよな?」
「表向きはね。けど俺らが入手した情報だと桃の研究所になってるよ。一般人がいると不都合なのか、まぁ桃太郎機関の権力はすごいねぇ。さぁ着いた。男体山にポツンとあった小さな廃墟。ここがとりあえずの拠点。」
5分程歩いて到着した拠点は、廃墟の王道のような場所だった。
割れた窓ガラスに壊れた鉄柵、壁面に無数に絡みつく蔦…
拠点だと言われなければ近づきたくないなと、鳴海は心の中で呟いた。
予想に違わない屋内には、3人の人物がいた。
「あれ、鳴海じゃん。」
「鳴海、この中なら安全だからのんびり過ごしていいぞ。」
「はいどーも…って離れろ!!馬鹿!!!」
「(あれが鳴海…?前見た時は女の子だったはず…??)」(※潜入調査中だったので変装)
「懐かしい人が来てますね」
目元が潰れたように黒い男、少し髪の長い若い男性、そして唯一の女性メンバー。
後に等々力の紹介で、それぞれが百目鬼剛・乙原響太郎・海月巳代という名だと判明した。
ひとしきり鳴海に関する話題で盛り上がると、次はもう1人の新顔へと興味が移った。
ここに来てようやく名を名乗った矢颪は、早速海月とバチバチやり合い、鳴海を不安にさせる。
「つーか…鬼神の子とか特殊能力持ってる鳴海ならまだしも、そいつ戦力になんのかよ?」
「確かめるか?」
「はいはいストップストップ。すぐ喧嘩しないの」
「だから男はこっち見んな。ちんこと喉ちんこ入れ替えんぞ。」
「おいおい…喧嘩すんなよ…」
「でも重要じゃない?役割分担も考慮しなきゃだし。」
「矢颪の能力はなんだ!?」
そうして自身の能力を明かした矢颪は、大将から改めて隊への加入に対する感謝を伝えられた。
しかし当の本人はそれを受け入れず、あくまで仲間ではなく同盟なのだと言い張る。
「うひゃー生意気!入りたての海月みてぇだな!」
「男はこっち見んな。目潰すぞ。」
「はは!もう潰れてるっつーの!つか、鳴海また胸デカくなったんじゃねーの?揉ませろよ」
「揉むな揉むな。あ、海月ちゃん、ごめんね。でも悪い子じゃないから…!」
「あいつのことはいいよ。それより、あんたは自分のことを心配しな。…まぁ私が絶対守ってやるけどさ。」
「男嫌いの海月ちゃんが成長してる…!」
見守り役というより保護者のような立場で、鳴海は矢颪の周りをちょこちょこと動き回る。
そうして鳴海が鬼國隊メンバーと一通り挨拶を交わしている間に、矢颪は渡された隊服に身を包んでいた。
羅刹学園の制服にはないアイテムばかりで、着替え終わった矢颪は何だか別人になったようだった。
「(さっきまでの碇ちゃんと全然違う…何か寂しいな…)」
「何だよ、鳴海。」
「ん?別に何でもないけど。碇ちゃん背高いし、似合うなーって思ってただけ。」
「本当か?何か怒ってね?」
「怒ってないよ。」
「…ならいいけど。」
「鳴海はどーする?矢颪の付き添いで来た感じだから…帽子だけとかにする?」
「いや、鳴海もフル装備だ!鬼國隊メンバーと思われた方が、桃に手を出されにくい!前に残していったものがあるだろう!」
等々力の鶴の一声で、鳴海も矢颪と同じように鬼國隊の隊服に着替えることになった。
自分自身に置き換えてみても、やはり慣れ親しんだジャージを脱ぐのは寂しい感じがする鳴海なのだった。
海月達の手を借りながら、複雑な隊服を何とか身につけた鳴海。(主な原因は育ち過ぎた筋肉共)
黒歴史時代に身を包んでいた服を懐かしんでいると、新たに2人の人物が拠点へと戻って来た。
「お!帰ってきたな。」
「戻ったでー。お!鳴海やん!元気か?ん?男の方は一ノ瀬か?」
「新しい仲間…じゃなくて同盟の矢颪だ!鳴海は付き添いだ!」
「 “同盟” に “付き添い” ?なんやそれ。」
「鳴海だ。なんか…服パツパツじゃない?」
「ボタン閉まんなくて…今3つ開けてる」
「前より胸デカくなってんじゃん…ちょ触らして」
「あ”!触んの禁止!俺のたわわなマシュマロ雄っぱい触っていいのは無人くんだけだから!」
「そんないけずなこと言わんとってや〜」
顔に痣のある関西弁の不破真一と、小柄でクールな印象の囲岬。。
“また一緒に行動出来るとか嬉しいわ” と鳴海の頭を撫でようとした不破だったが、それを遮るように矢颪が間に入ってくる。
そしてキッと睨みつけると、またも喧嘩腰で話しかけた。
「お前誰だよ?」
「碇ちゃん!その感じで話しかけるのダメだって言ったでしょ!」
「彼は不破真一!彼が囲岬!」
「こっわぁ。んな睨まんといてぇや。…頭撃ち抜かれんで?」
「危な」
「男で生意気とか最悪じゃん。生意気な人妻熟女なら最高なのに。あ、大丈夫だよ。鳴海には当てないから。」
「は?当てたらぶち殺すよ?俺の生徒なんですけど」
「何急にババアの話してんだよ?」
「あ…アカン。」
「ババア…?」
ババア発言が逆鱗に触れたようで、囲は何の躊躇いもなく構えていた弓を引いた。
矢颪の頬を掠った矢は2回軌道を変え、再び彼に向かって来る。
意志を持ったように勢いを増して飛んでくる矢を、不破は左手1本で簡単に止めて見せた。
「あかんわ新人君、ババアとか言うたら。」
「(あちゃ〜…やっちゃったかぁ)」
「ほんで岬も、人妻に手ぇ出したらあかんやろ。あと鳴海をあんま怖がらせんように。」
「ごめんごめん。でも40歳以下は射程範囲外だよ。」
「年齢より横幅やろ。体重3桁から恋は始まんねん。」
「(こいつら…強い…!)」
「デブ専の言うことは理解できないよ。ね、鳴海?」
「俺旦那様一筋だから。性癖バトルは他所でやれ」
「お互い様や。なぁ?新人君。」
「はは!触った感じ、矢颪は童貞だぞ!鳴海は…人妻だな!」
「え?自分、童貞なん?」
「人妻?」
「おいコラ。人の個人情報流すな」
突然の “人妻” ワードに目を輝かせた囲に鳴海は身構えた。
しかし、いつまでたっても襲ってくる様子はなくなんならブツブツと独り言を話す囲。
5分程そうしていただろうか。
囲は鳴海に頭を下げて “ごめん。人妻なのはいいけど40から下は射程範囲外なんだ” と謝った。
そして、思わず囲をぶっ叩いた鳴海
「活気づいてるな!」
「やかましいのが増えたんだよ…」
「なんで俺がフラれたみたいになってんだよ!?」
「ツッコミ癖も健在みたいだね」
「好きでやってるんじゃね〜!!!」
「…んで?研究所はあったの?」
「うん。立派な研究所が、華厳の滝があった場所に建ってたよ。」
「偵察結果はどう?」
「あー…あの研究所なぁ…あっこに突入する日が、俺らの命日になるんかもしれんなぁ。」
不破から発せられた不穏な言葉に、鳴海の心臓は一瞬だけキュッと苦しくなった。