「失礼しま…あれ?」
今日は彩さんと魔法の練習をすると聞いて、練習場にやってきたのだけれど、そこには誰もいなかった。
いや…誰かいた。見知らぬ男性。でも遠目で見たら女性に見えそう。なんか、そんな感じ。
「えーと…新人の子かな?」
「あ、はい…えっと、失礼ですが、あなたは誰ですか?」
「僕は西園寺都月。見えないかもだけど、マジカルシークレットのトップをやっています。こう見えて、結構偉い人なんだ。自分で言うのもなんだけど」
「へ、へぇ…」
なんだかすごい人だった。トップってことは、一番強いのだろうか…?
「俺、ここでいつも魔法の練習をしているんですけど…」
「みたいだね。僕もよく使っていたなぁ。今の教官たちにもいろいろ教えてた」
「そうなんですか…あ、で、俺。彩さん…誘惑科教官を待っていて。教えてもらう予定だったんですけど…」
「ああ。彼女は急な仕事が入ってしまったんだ。ごめんね。あの子も残念がっていたんだけど…」
「あー…」
で、この人が代わりって感じ…?
大丈夫なのだろうか…というかこの人一番偉い人でしょ!?恐れ多い…?
「でも僕が教えられることなんてあんまりないから…そうだなぁ、お話でもしようか」
「お話…?」
「じゃあ、あの子…彩のことなんだけどね。どうしてあの子がこの組織に入ったかと言うと…」
今から…そうだなぁ。200年ほど前のこと。
当時の、江戸、吉原遊廓に立ち寄った時があったんだ。別に、変な意味はないんだけどね。たまたま。なんだか出会いがありそうだと思って。僕、未来予知の力があるんだけど。
で、たまたま立ち寄った見世には、吉原一の花魁がいたんだよ。名を…えーと、なんだっけ。紅みたいな名前の、まるで人間じゃないくらい美しい女。僕はその女に会ってみたいと思った。そして、ようやく会えたんだ。
「えっと…初めまして。あなたの噂を聞いたときから、あなたに会ってみたいと思っていました。僕は西園寺都月といいます」
「そう…噂。外ではそんなことを。まぁ、わちきを選んでくれたこと、礼を言います」
「いえいえ…あなたは、吉原一の花魁なのでしょう?毎夜毎夜、忙しいのでは?」
「ふふふ…けれど、今夜のわちきはあなただけのものです」
初めて見た彼女の姿は、まるで悪魔のように美しく、そして…想像より幼かった。
けれど、その幼さが…まるで歳を取らない不老不死のようで、ぞっとした。
彼女は、影では彼女の客が行方不明になっている…などの悪い噂が流れているらしい。彼女の客は、一度しか来客できていない。そこがまた謎に包まれていた。
そして僕は、気づいてしまった。
「紅花魁。あなた、人間じゃないのでしょう?」
「…?なんのことで…」
「いや、気配でわかります。隠しているのでしょう、妖の部分を」
僕の予想だと彼女は悪魔の類のなにか。きっと角や尾を隠しているに違いない。
「面白い冗談をいうのですね。嫌いじゃないですよ、わちきは。…知りたいですが、本当のわちきを…」
「…!」
僕は、次の瞬間見事に魂を抜かれた。
ああ、やはり彼女…紅花魁は…悪魔…だ。こうやって何人もを手に取ってきたのだろう。
「待ってくれ…おまえ、ここから出たくないか?」
「…え?…まさか、身請けしてくれるとでも?ただの人間に興味はないわ」
彼女は僕を嘲笑う。
「ただの人間じゃないんだ、僕は。未来予知の力がある。そして、僕はとある組織を作ろうと思っているんだ。普通の人間じゃない、妖たちの組織を。どうかな?」
「興味ないわ。どうせ、私はこの廓からは出られない運命よ」
「僕が身請けする。君を自由にする」
「吉原一の花魁であるこのわちきを身請けなんて、いくらかかると思…」
「関係ない。出世払いで返してくれれば。どう?」
「…そこまでいうなら、いいわ。あなたのものになってあげましょう。魂も返すし…あ、一つ条件」
「何?」
「私に本物の愛を教えてくれること。いい?悪魔は感情がないだのなんだの…そうね。永遠を共にする、素敵な男を探してくれるなら。いいわ」
「約束しよう」
と、言う流れで、僕は彼女を身請けし、新しく“甘愛彩”という名を与えた。
そして、これまでも、働いてくれているんだ…
「へぇ…勉強になりました」
「そう?よかった」
結構興味深い話だったなー…というか、彩さん何歳なんだ一体…?
「あ、凪野くん仕事終わったよー!あ、都月様」
「久しぶりだね」
「あ、あの、ひとつ聞きたいことがあるんですけど…彩さんは永遠を共にする、男の人を見つけてもらえたんですか?」
「えっ?」
なんか、動揺してね?まさかこの人…
「あぁその話…懐かしいわね。今でも見つけてもらってないわ。こんなに一生懸命働いてるのに」
「ゔっ…忘れてなかったんだ…君…」
「もちろん。忘れるわけないでしょう?さ、凪野くん始めるよー!」
「あ、はい!」
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