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「死んじゃったのかと思った…」
「疲れさせちゃったかもしれない。それに、ひ孫の顔を見れたし、胸につかえていた物も取れたから安心したのかもしれないね」
胸につかえていた物?
何だそれ?
「瑛太、おばあちゃん寝ちゃったから行こう」
「そうだね」
そして、僕らは寝ているまさおばあちゃんを尻目に部屋を出ようとした。
「瑛太…あの子に饅頭を渡したから、みんなで食べておくれ」
饅頭?
突然目を覚ましたと思えば訳のわからない事を言っていた。
それだけ言うと、再び眠りに入った。
「寝ぼけてるみたいだ」
「そうじゃないと思う…」
葵は、まさおばあちゃんの言葉には何らかの意味があると思ってるみたいだけど、僕には寝ぼけてるとしか思えなかった。
それから4日後…まさおばあちゃんは息を引き取った。
もっと沢山話をしたかったし、してあげたい事もあった。
只、最後に葵の力を借りて僕らの娘の姿を見てもらう事が出来た事は本当に良かったと思う。
…あれから数ヵ月
とうとう今日、卒業式の日を迎えてしまった。
僕は高校卒業後、地方のA銀行で働く事が決まっていたが、葵は進学する訳でも就職する訳でもなく、進路が何も決まっていない状況で卒業する事となった。
と言うよりも、葵は何処の短大、大学、専門学校にも受験しなかったし、就職活動もしていなかった。
能力者とは言えど、さすがに心配になる。
そこで僕は「進路の事はどうするの?」と聞いた事があった。
葵は「考えてるよ。考えているから進学も就職もしないんだよ」と答えていた。
葵は僕が心配しなくても、しっかりと自分の未来が見えていた。
僕以上に未来の事を考え、悩み、苦しみ、行動しているに違いなかった。
僕のため…娘の遥香のための決断だったに違いない。
10時ちょうどに卒業式が開始されたが、去年の式典とは違い静粛な雰囲気で進行されていた。
3年間お世話になった先生方や両親に感謝し、楽しかった思い出、苦しかった思い出を振り返る、集大成とも言えるこの卒業式を、たった数名の愚かな生徒によって台無しにされる事がないよう願った。
お調子者の千葉も危ないが、2組の岩崎も目立ちたがり屋で悪ノリするので、先生方は十分に目を光らせているようだった。
そして式典は終盤に差し掛かろうとしているが、何とかここまでは何事もなく来る事が出来た。
しかし問題はこれからだった。
卒業証書授与式が残されていた。
あいつらは絶対ここで何かを仕掛けてくるに違いなかった。
でも、いざ始まってみると何の動きもなく授与式は終了した。
千葉と岩崎…何故何もしない?