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《ステージ 鬼石坊主地獄》
足場は荒々しく割れた岩盤。
無数の裂け目から灰色のマグマが、ぐつぐつと煮え立つように息を吐き、白い蒸気を噴き上げる。
「ほらほら!逃げるだけか?奴隷なら奴隷らしく死ねと言ったらすぐ死ね!」
白い天使の羽。黒い嘴。手足に生えた鉤爪。――奴隷商《女神の翼》の大マスターが、化け物の姿で笑った。
「はぁぁ!」
攻撃を身をひねってかわし、跳躍と同時に《稲妻ハンマー》を振り下ろす。狙うは大マスター――その頭上。
「ぐっ!」
轟音とともに衝撃が走り、地響きが岩盤を揺らす。
しかし咄嗟に受け身を取られたのか、私の一撃は大マスターを地へ叩き伏せるには至らなかった。
「やりますねぇ、34番……メソメソしていたあの時とは大違いだ」
「アナタこそ……上から私たちを見て楽しんでる鬼畜野郎じゃなかったんですね」
「鬼畜?ふふ、そう見えましたか?」
「私はリュウトさんに拾われて、他の奴隷商を知りました。その中には、私たちと違い奴隷との間に信頼関係を築いてるところだってあったんです!」
「だから?」
「だから!あなたのやり方は間違ってる! あんなの、ただの暴力と支配じゃないですか!」
「それで?」
「どうしてあんな事をしたんです! あんな……ひどい方法を」
「その奴隷は……お前みたいに親が居なかったか? 世の中に絶望していたか? 頭が悪かったか?」
「それは……」
「お前が見てきたのは、仕事として奴隷になった者たちだ。貴様らみたいに、後は飢えて死ぬだけの連中とは――世界が違うんですよ!」
「人攫いを使ったあなたが、それを言うんですか!」
怒りに任せ、私はハンマーを振り抜いた。
鋼鉄の衝撃がぶつかる音を響かせながら、相手の声が私を突き刺す。
「人攫いに頼む時の条件は“行方不明になっても誰も探さない奴”だ! お前は――世の中から捨てられた存在なんだよ!」
「くっ!」
違う、私は……!
「親に捨てられ、世界に捨てられ……残る道は死ぬことだけ! それすらできない臆病者の命を使って何が悪い!」
「なに、がっ……!」
「死ぬ勇気もなく、ただ生き延びて! 焼印を押される時には子供みたいに泣いて! その時、思わなかったのか? 悪いのは私たちをこんな目に合わせている奴らだって!」
「!」
「思っただろう! だが甘い! その微かな生きる気力すら徹底的に奪い取るのが――あのカリキュラムだ!」
「アナタは……人の命を、何だと思ってるんですか!」
「その言葉を口にできるのは、一度も命を投げ出さなかった者だけだ!」
「だけど!生きていたらリュウトさんに会えた!!!!」
「っ!」
「生きていたら良いことがあるって、リュウトさんが……いや!私が証明したんです!」
「それは偶然だ!そもそもお前がアオイ様と同じ部屋でなければ!」
「偶然でも――結果です!そうです!私は……妹ちゃんに出会って、人生を変えてもらった!だからこそ……そのお返しに!今の妹ちゃんの中にいる女神を、私が倒す!」
私と大マスターの激しい攻防が続き、岩は次々と砕け散り、灰色のマグマが噴き出す。
地鳴りと共に、戦場そのものが崩れ落ちていく。
「お前ごときが、あの方の前に行けると思うのか!」
「行くんです!私は……妹ちゃんのお姉ちゃんだから!」
「理屈になってませんね――死になさい、34番!【ブラックヴォルケーノ】!」
「死にません!もう……私の、この“アカネ”という獣人の命は、一人だけのものじゃない!【紫電稲槌】!」
轟音。
大マスターの漆黒の炎と、私の紫電を帯びた魔力が正面からぶつかり合い、天地を揺るがす大爆発を起こす。
――今だ!
「はぁぁぁぁぁっ!」
「なに……!?」
私は爆炎をものともせず突っ込み、大マスターを捉えた。
雷をまとったハンマーを大きく振り上げ――
「これで終わりです!【ハンマーダウン】!!」
雷光と轟音を伴い、振り下ろされた一撃が大マスターを直撃し、その身体を下方のマグマへ叩き落とす。
「…………」
先程までの戦闘音は無くなりポコポコとマグマが鳴るだけだ。
やったか?____そう思ったが
「がぁぁぁあ!」
「っ!」
全身が溶け出している大マスターが出てきた!
「しつこいですよ!もう一度……っ!」
もう一度叩きつけようとしたがハンマーが持ち上がらない!?
「っ!これは!?」
ハンマーが重いんじゃない、私は腕の上がらない様に“ツボを針で突かれた”のだ!
そして____この攻撃は私はよく知っている。
「まさか!」
「ごめんねっ、アカネっ……」
気がついた瞬間。
私は仲間____家族の『みや』さんに蹴飛ばされていた……