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一歳違いの兄詩音は、とても優しい兄だった。
その優しさは誰にでも向けられていて、友達も多かった。
私には時々わざといじわるを言って、私が目を潤ませると
『バーカ。翔音は素直すぎるんだよ』
そう言って大きな手で頭を押さえ、髪をくしゃっとしてきた。
その頭をくしゃっとしてくるのが
兄の私への癖で、小さい時からそうされることは、イヤじゃなかった。
兄は秘密主義でもあった。
中学のころから彼女がいたけど、聞いても決して教えてはくれない。
だけど、ある時見てしまった。
我が家の近所にある大きな公園
その公園の中の林の奥で、
兄が女の子とキスをしていた。
その夜、兄の部屋でそれをからかうと
絶対に自分だとは、認めなかった。
逆ギレしたり、ふざけたり
そういった分かりやすいリアクションもせずに
『さぁ?それ俺じゃないよ』
淡々と言うだけ。
もしかしたら兄は
平気で嘘をつけるタイプだったのかもしれない。
それか、自分のことを晒すのが怖いだけだったのか。
兄の性格を、私はちゃんとは把握できていなかった。
ある日、珍しく兄が学校で問題を起こした。
母が先生に呼び出された。
クラスメイトの男子と喧嘩になって、相手を殴ってしまったらしい。
温厚な兄が喧嘩するなんて、珍しいことだった。
だけど、兄は絶対に理由を言わなかった。
後から、兄のクラスに姉がいる同級生から聞かされた。
兄は、前から虐めの標的にされていた男子が
あまりにも酷いやり方でイタズラをされてるのを見て、それをやっていた連中を怒鳴ったそうだ。
それに腹を立てた相手に先に手を出され、口論が激しくなり
ついに手が出てしまったらしい。
兄が誰かを殴った話はこの一つしか知らない。
兄が優しいのは
――本物だったと、今でも思っている。