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𝓗𝓪𝓶𝓾
809
#アイドル
ゲスト
26
彼の腕まくらにもたれていたら、
「……別れたら、付き合うのか?」
ふと、そう問いかけられて、
間を開けて「はい……」と、ややかしこまって返事をした。
「そうか。じゃあ、予約のキスな」
前髪がふわりと撫で上げられて、額にちゅっと唇で触れられた。
「予約とか……しないでいいですから」
そんな甘いセリフをてらいもなく目の前で言われたことと、面と向かっておでこを見られたこととが、どうしようもなく気恥ずかしくなって、片手で懸命に前髪を元に戻しながら言う。
「予約しとかないと、他の男におまえが奪われるかもしれないだろ」
せっかく撫でつけた前髪が彼の大きな手でぐしゃりと捕まれて、
「隠すな、可愛いから」
耳元に囁きかけられる。
吐息がかかり、一気にぶわっと熱くなる耳を手で押さえる。
「……奪われませんから、私なんて」
(そんなにモテるわけないし……)と、火照った顔を横にうつむける。
「おまえさぁ……」
片手で顎が捕まれて、
「もっと自信持てって。いい女だよ、おまえは」
うつむいた顔が、手の平でグッと押し上げるようにして仰のかされる。
言われたこともないようなストレートな甘いセリフに、「あっ、へ?」と、思わず変な声が出てしまう。
「なんだよ、それ」くっ……と短く彼が笑って、
「……あの初めて会った雨の日にも、おまえに声をかけずにいられなかったんだしな……」
ふと思い出したようにも口にした。
「……え?」
思わぬセリフに、驚きに口をぽかんと開けて、
「嘘……だってあんなにつっけんどんに、声をかけてきたのに……」
頭に浮かんだままのあの日の出来事を、信じられないような気持ちで口に出した。
「そんなに無愛想な感じだったか? 俺は……」
一瞬、記憶にはないような言い方をして、それから、
「……バカだな。……照れ隠しだろ」
彼が口先でぼそりと低く呟く。
「……濡れて歩いていたおまえのことがどうにも気になって声をかけたはいいが、女を傘に入れたようなことはなくて、こっちも焦ってたんだよ……。だから気のない素振りぐらい、したっていいだろうが」
そうして、ふっと顔を崩して苦笑を浮かべた……。
「……ずるい、今になってそんなこと言うなんて……」
「なんでだよ?」と、首が傾げられる。
「だってなんだか初めから気になってたみたいなことを言われたら、どうしたらいいのかわからなくなるじゃない……」
彼から不意討ちで告げられたことが、すぐには自分の中で受け止められなくて、目の前にあるその顔を上目にじっと見つめた。
「……俺と付き合うのを、迷ってるのか?」
訊かれて、無言で首を横に振る。
「……そうじゃなくて、そんな風に言われたら……どう応えたらいいのかって。それに私は、振られたって自覚したのがついさっきで……まだ、自分の気持ちをちょっと持て余してるっていうか……」
私の話を黙って聴き終えてから、
「俺に気持ちを伝えるべきじゃなかったと、おまえは思ってるのか?」
そう核心を突く一言を尋ねてきて、「ううん……」と、また首を横に振った。
「伝えてよかったって……。……あなたを好きになって、よかったと思ってる……。……だけど、違うの……好きなのに、なんだかすぐには気持ちを切り替えては考えられないっていうか……」
自分の思っていることを上手く言葉にはできずにいると、
「……そんなのは当たり前だろう」
と、彼が私の首筋を片手で引き寄せて、両腕で頭を抱え込んだ。
「……別れたばっかりで、すぐに切り替えができる方がおかしいだろ。だからおまえが受け入れられるまでは、俺は待ってるから……」
そう言い聞かせるように話して、抱えた私の頭を、自らの胸に強く押しあてた。
「うん……」
心地のいい温もりに抱き締められて、胸がドキリと高鳴る。
「……さっきは少し気持ちが先走ったが、俺もしっかり別れるまでは、なんにもしないから心配すんな」
「うん……ごめんなさい。なんか気持ちを削ぐみたいになって……」
触れた彼の胸から早まる鼓動が聞こえると、抱きたい衝動を全力で抑えてくれているのが知れた。
「ごめんね……ありがとう……」
言いながら身体ごと擦り寄ると、「あんまりくっつくなって……」と、腕で軽く引き離された。
「……あっ、」下半身があたっているのに気づいて、「……ごめん」とだけ、彼へ謝る。
「謝んなよ。そう簡単には収まらないってだけだから」
胸に抱いた私の頭を撫でて、「多少仕事寄りな話をして、気は逸らしたから大丈夫だ」そう口にする彼に、
さっき急に、『会社を経営してると、即断即決がカギになってくるから』だなんて、仕事に関連づけた話をしたのってそういうことだったんだと思ったら、ふふっと小さく笑いが漏れた。
「笑うな……」その場をはぐらかそうと彼がぐしゃぐしゃと私の髪を乱すのに、つい笑いが止まらなくなる。
「だってなんか、意外とかわいいとこあるんだなって」
「かわいいとか言うなよ」私の語尾にかぶせるように、彼がやや食い気味に口にする。
「いいか、出会いの件も気になったっていうだけで、初めから気があったっていうわけでもないからな」
なんだかいいわけがましいその言葉に、さらにくすくすと笑い続けていると、「笑うな、だから」と、いたずらに髪を両手でぐちゃぐちゃにされた。
そのあとに、乱した私の髪を「悪い……」と気づかって、撫で付けてくれるその手のあたたかみを感じながら、
さっきはまだ消化し切れてない気持ちもあると言ったけれど、(この人と出会えて本当によかった)と、今度こそ、素直に思えた……。
コメント
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あおいさん、こんにちは!第4章の10話、読ませていただきました〜! もう、もうもうもう!待ってください、この甘さ!!「予約のキス」って……額にちゅっ、とか反則ですよ蒼乃さん!!しかも「隠すな、可愛いから」って耳元で囁くとか、私、編集者としてではなく一人の読者として悶えました(笑) 初めて会った雨の日の話もズルいですよね。あの時から気になってたって、そんなの後から言われたら主人公ちゃんが戸惑うの、すごくわかります。でも彼が「待ってるから」って言ってくれるところ、本当に優しくて。仕事の話で気を逸らそうとする可愛さも最高でした。 主人公ちゃんが「この人と出会えてよかった」って思えるまでの流れ、すごく丁寧で胸が温かくなりました🌷