突然だが少し話をしようか。
あいつは昔っから泣き虫でなぁ、私を盾に虫を観察したり人と話したり。とにかくビビりで泣き虫で小6になってもそれは変わらなかった。でもな、中1であいつは変わった。
私はずっとやってみたかったパソコン部に入部したんだ。そっから私はあいつと自然と話さなくなったよ、パソコンのことばかりだからな。
1ヶ月ほどだったかな、話しかけてみたら態度も話し方も、一人称すらも変わってた。今までは控えめだけど目がキラキラしてて。子犬みたいに尻尾振ってるように見えてな。他の人とは小声で話すのに私とのときだけ普通よりもちょっと小さいトーンで話すんだ。一人称も”僕”だったな。
でも今ではクール系男子みたいに落ち着いてて目もそこまでキラキラしていなくて尻尾も見えなくなった、声も他人と同じトーンで話すようになった。他人との会話は至って普通の声のトーンで話すな。一人称は”俺”に変わって、すごくびっくりしたよ、今まで大人しくて静かだったやつが急にテンション100%になったみたいでな、見ててとても楽しかったよ。
でも、それとは対照的に少し寂しかったんだ。私の知らないあいつを他の人が知っている、あいつは前とは違うってな。
そこからだ、私の世界が変わったのは。
あいつにその気持ちを抱き、だんだん拗れていったんだ。その時に同じ部の友人にこの気持ちは何なのだろうと相談したら言われたんだ。
「それはね、恋だよ。彼に恋してるんだ」
そっから1日は記憶が無かったな、友人によると顔が真っ赤でしばらくフリーズしてたみたいだ。
そこから私は沢山努力をしたんだ、面倒くさくて定期的に切っていた髪の毛を伸ばして苦手だったメイクもやり始めた。他にも美容マッサージとかもな。
これがその前の私だ、眼鏡をかけててボブでそばかすも沢山、瞼も奥二重だったんだ。
夏休みに入ってからはファッションを自分なりに考えて写真を撮っていたな、そしてそれを雑誌とかと見ながら改善点を見つけていた。もちろんファッションだけじゃあないぞ他のこともやったさ。髪の毛はセミロングになりヘアアイロンではなく三つ編みで自然とカールを作っていた。奥二重だった瞼も自分なりに二重にできるように努力して奥二重が少し二重に近くなった。
校則は緩い学校だったから多少のメイクをして始業式の日に登校した。
皆驚いていたよ、一体誰なんだ!?ってな。教室に入って一直線にあいつに向かった。
「なぁ、私のこと、分かるか?」
少し不安を抱えながら質問したんだ。そしたら何と返ってきたと思う?
「もちろんだよ、唄(うた)でしょ?美人さんだね。」
その返しが私はすごく嬉しかったんだ。私が変わっても分かってくれたんだ。そこで勇気を出して私は
「なぁ、今日の部活後にあの公園に来てくれないか?」
そう言ったんだ。返事にOKを貰って自分の席に戻った。部活後私は一足先に公園に向かおうとした。
途中で信号を渡ろうとしたんだ、そしたら街灯はなく、少し橙色に染まった世界にいた私に2つの光が真横から迫ってきたんだ。信号無視した車が視界の端にうつったんだ。
あぁ、私は死ぬのかと思った。
その刹那、私は誰かに押されたんだ。地面に倒れ込んだ私は目を開けると赤黒く染まったあいつと目が合った。あいつの瞳は綺麗なコーヒーブラウンじゃなく、濁った茶色になっていた。
あいつの返り血で所々赤黒くなっていた私の身体は無意識に携帯を取り出して電話をかけたんだ。そこからは記憶が無いんだ。気がついたのは手術室のランプが丁度消えたところからだった。
あいつの両親は共働きで家にいないことが多くその時もいなかった。代わりに私が先生の話を聞いたんだ。
先生から告げられたんだいつ目を覚ますか分からない、もしかしたらずっと寝たままなのかもしれない、もしかしたら最悪の場合そのまま亡くなるのかもしれない、その覚悟はした方がいいとな。それから今もずっと後悔してる、なんで誘ったんだ、誘わなかったら元気に生きているのに、てな。
だから、なぁ、お願いだから
目を、覚ましてくれよ____。
開かれた窓から桜の花びらがやって来る。白で統一された部屋に機械と人が2人。そのうちの1人はとても端正な顔を焦げ茶色の艶のある前髪が覆っていた。陰で見えない目には雨が降っていて、目元が赤く腫れていた。
「なぁ、なぁ、起きてくれよ」
そう悲願する彼女の瞳に降っている雨は止むことを知らない。
「私が悪かったんだ、お前が起きてからでもいいから、私に罪を償わせてくれ、なぁ」
嗚咽しながらベッドに寝ている彼に向かって話す彼女。
「…なぁ、もう私もお前も、大人なんだ、だから、起きた暁には、先生の許可を貰って、お酒でも呑まないか?」
そう零した彼女。白のタイルには透明な雫が落ちていく。
「私が昔抱えていた感情は、今でもずっと変わっていないんだ」
だから、だから目を覚ましてくれ。
あの日からもう20年。未だにあいつは、ベッドで横たわっている。
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