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さて、レイブラン達が見せてくれたように、エネルギーの事象には法則があると分かった。
法則があるということは、それを踏まえて適切な形にエネルギーを操作して必要なエネルギーを注いでやれば、誰でも同じ事象を発生させるということか。
いや、全く同じということは無いんだろうな。
エネルギーには量だけでなく密度や色がある。
私に仕えてくれるようになった子達にもエネルギーの色が複数見て取れたが、この色の数によっても事象の効果に差が出るようなのだ。フレミーやホーディは3色のエネルギー色が視えたが、他の子達は2色だった。
ラビックとホーディに稽古を着けていて分かったことだが、どうも二体の攻撃の威力に差があるのは、身体能力や体格の違いだけではないらしい。
というのも、ラビックの繰り出す技の威力ですら、私が最初に検証していた時の拳の威力に迫るほどだったのだ。
あの子の身体能力だけでそこまでの威力が出るとは思えない。そして、ホーディの繰り出す技の威力はラビックのそれをさらに上回る威力だったのだ。
込められていたエネルギー量は二体ともあまり変わらなかったし、密度でいえばラビックの方が大きかった。後で確認を取ってみようと思うが、おそらくはエネルギーの色が多いほど効果や威力が上昇するのだろう。
ならば、私がレイブラン達と同じ図形で、同じエネルギー量使用した場合、威力に相当な差が出るのではないだろうか?
「ねぇ、レイブラン、ヤタール。私が君達と全く同じ『空刃』を使用した場合、どの程度の威力になりそうだと思う?」
〈どんなことになるか想像がつかないわ!絶対に森に向けて撃っちゃだめよ!?〉〈密度も桁違いだし数も沢山なのよ!?森の木が沢山切り裂かれてしまうのよ!〉
二羽が驚愕した表情でこちらを見て、慌てて私を止める。
まぁ、そうなるよな。それでは、森に被害を出さないためにも上に向けて事象を発生させてみようか。
今日はいい天気だ。空を見上げれば雲一つない、とまではいかないが、青い空が視界を埋める。白く大きな雲が景観に深みを与えているように見えた。
確かヤタール曰く、扱うモノ、大きさ、量、勢い、向きを意味する形があり、それを綺麗に組み立てる、だったな。
うん。これ、他にも色々と”意味を持った形”が大量にあるな。もしかしたら、それすらも何らかの法則性を持って存在しているのかもしれない。
いや、余計なことを考えるのは後にしよう。今は『空刃』の図形を私が作ることに集中するのだ。
レイブランとヤタールの描いた図形の形状は覚えている。
私が一呼吸するくらいの早さで図形を完成させていたが、それは彼女達が何度も『空刃』を使い続けて研鑽を重ね続けてきたからだろう。エネルギーで意味を持つ形を作ること自体、なかなかに手間がかかる。
これは、日課の訓練に追加しておこう。いや、ここまでくると最早修業か。
エネルギーで形を作ったら、今度はこれらを綺麗に組み立てる、と。
何がどうなると綺麗なのかはいまいち分からないが、今は見せてもらった図形の通りに組み立てよう。これも、なかなか手間が掛かる。
図形を組み立て終わったので、エネルギーを図形に注いでいく。私のエネルギー量だとあっという間だな。一瞬で図形にエネルギーが満たされた。
最後に図形の中心にエネルギーをぶつけてやれば、『空刃』が発動するというわけだ。
改めて図形を見て思ったのだが、発動するためにエネルギーをぶつける部分が、意味を持った形になっているんじゃないだろうか?差し詰め、『発動』を意味する形といったところか。
知ってか知らずか、レイブランとヤタールは綺麗に意味を持った形を組み立て、その過程で中心にこの『発動』の形ができるように組み立てたのだろう。見事なものだ。
さて、それではエネルギーを図形の中心にぶつけてみようか。かなり少量のエネルギーで発動が可能だったので、可能な限りエネルギー量を絞って中心に放つ。
白くて大きな雲に、縦の線が入った。
……レイブラン達の『空刃』と比べて、射程も範囲も勢いも跳ね上がりすぎじゃないだろうか?
〈雲まで届いちゃったわ!?やっぱりノア様って規格外ね!〉〈雲が縦に割れたのよ!?雲まで届く距離になっても威力が減衰しないのよ!〉
このままでは碌に森で『空刃』を放つことなどできないな。
私が問題無く使えるように威力を落とした図形を作る必要がある。それに、訓練用に周囲に被害が出ないような安全な事象を発生させる図形も知りたい。2羽は何か知らないだろうか?
「便利なものだとは思うけど、私が使うには威力がありすぎるね。何かこう、狭い範囲で風を起こすような、周囲に被害が出ない図形は無い?」
〈良いのがあるわ!急に止まったりするのに使う図形よ!〉〈あるのよ!姿勢を整えるのに使ったりするのよ!〉
それは朗報だ。早速教えてもらうとしよう。聞くに、彼女達の機動力を裏付けする要因の一つなのだろう。
教えてもらった図形の効果は、端的に言えば指向性を持った空気の爆発である。
私が空中で移動する際に行った空気の破裂に指向性を持たせた事象と考えればいいか。指向性を持っている分、ただ空気を爆発させるよりも、無駄なく勢いを得ることができるだろう。
これは良い。相変わらず威力が大きいが、そこは”意味を持った形”を精査して、威力を抑えた図形を作れるようにしよう。しっかりと使えるようなれば、今後の移動に大いに役立ってくれる筈だ。
「ところでこれ、威力や規模の大きさはどうやって変更するの?適切な意味を持つ形が必要になったりするのかな?」
〈変な形にすると事象が起きなくなるわ!〉〈そうなのよ!いろんな形があるのよ!〉
ということは、使われている図形の一部は数字を意味する形になるのか。それはつまり、この図形は何らかの文字によって作られているということか。
そうなると、この”意味を持った形”、つまりはこの文字に疑問が出てくるな。
文字、というからには自然にできたものでは無い筈だ。方法は分からないが、何者か起こしたものであることは間違いないだろう。
それがいったい何者なのか。何故こういった文字を作り上げたのか。そもそも、今もまだ存命しているのか。疑問は尽きない。もしも存命しているというのなら、会って話を聞いてみるのも面白いかもしれないな。
それはさておきだ。今はできることをやろう。レイブランとヤタールが知る限りの”意味を持った形”を教えてもらうのだ。
日が沈み、皆が家の中に帰ってきたところで確認を取ってみることにしよう。
ちなみに、彼らは自分の食事は基本的に自分達で調達して必要な分食べている。というのも、私が食事の必要が無いからか、食事以上に興味のあるものを見つけてしまうと、食事を蔑ろにしてしまうからだ。
彼らと一緒に美味いものを食べたいし、食べる様を眺めたいのも事実ではあるのだ。その辺り、しっかりと折り合いをつけていかないとな。
「今日は一日中レイブランとヤタールに頼んで、皆が事象を発生させる方法を教えてもらってね。もしよければ、皆の知っている”意味を持つ形”を教えてほしいんだ」
〈勿論、構いませんぞ?儂が知る全ての形をお教えいたしましょう〉
〈私も構いません。皆の知識を共有することで新しい形の使い方が分かるかもしれません〉
〈教え合う、というのは良いな。我らはこの森でも有数の強者ではあるが、少なくとも我は、今が頂点だと考えたことは無い。より上を目指せる機会だ。喜んで教えよう〉
〈私も知ってはいるけれど、あまり数は多くないよ?私の力の使い方は、どちらかというとノア様の使い方に近いからね〉
〈ご主人、形を作らなくてもボク達よりいろいろなことができるのに、それでも知りたいの?〉
皆が私の要望に肯定的である中、ウルミラが疑問の声を出した。私には図形を用いて事象を発生させずとも、十分なことができるからだろう。
それは分かる。しかしだ。
「この方法でないとできないこともあるだろうし、できることは増やしていきたいからね。何より、私だけ使えないのは、仲間外れみたいで嫌だ。ウルミラ、教えてもらえない?」
〈否定するつもりじゃなかったの。ただ、ご主人って勤勉だなぁって思ってさ。ボクは自分の今できることが上手にできるようになれば、それでいいと思ってたからさ〉
そう言ってウルミラも形を教えてくれることに異存はないことを伝えてくれた。全員の意見が一致したみたいで良かった。
それでは、明日の予定も決まったことだし、今日はもう寝るとしよう。
「そうと決まれば、今日はもう寝よう。明日は皆で勉強会だ。レイブラン、ヤタール。明日はちょっと早めに起こしてくれる?」
〈もう自分で起きる気は無いのね。ノア様〉〈なんだか締まらないのよ〉
既に自力での起床を諦め、起床を2羽に頼り切っている私の態度に、彼女達は私に殺されると思っていた時以来少しも見せていなかった気落ちした様子になっていた。
そこまで落胆すること?