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というのも、バンド仲間だった光貴と青春の二十代後半まで全てを自身のバンド活動に注いだから、相当な音楽好きでそれが尾を引いている。
自身のバンドはがむしゃらに活動していたけれど、鳴かず飛ばずでメンバーが一人辞め、二人辞め、結局私も光貴も音(ね)を上げた。
プロを目指して頑張ったけれどオリジナル曲の音楽配信をして稼ぐことは叶わなかった。年齢を重ねるごとに色々焦って、なし崩しに光貴とつき合って、愛し合って、今に至る。
残念ながらバンドはもうやってないけれど、たまにこうやって浮かんだメロディーや歌詞を書いてストックして楽しんでいる。完全に自己満足の世界に浸っているわけで…。華々しく活躍しているならともかく、どこにも発表の場がないからただの根暗な趣味と化している。
人見知りの私が音楽を好きになったきっかけは、十五歳の時に、RB――『RedBLUE(レッドブル―)』にハマってしまったのが原因。RBは四人組のビジュアル系バンドで、彼らがデビューをした時の雑誌を見て、特にボーカルの白斗(ハクト)に一目ぼれしてしまい、熱を上げた。
追っかけもした。出待ちもした。ファンレター何百通も書いた。慣れないお菓子作りをして事務所へファンレターと共に送りつけた。それを彼らがデビューしてから、ひたすら繰り返した。
部屋中にRBや白斗のポスターを貼りまくり、RBの曲を延々リピートして聴いていた青春時代。あまり人には言えない私の黒歴史。
RBのCD発売日には予約して三枚買った。聴く用、保存用、予備用の計三枚。最低でもその枚数。お気に入りのアルバムは五枚持っている。バイト代やお小遣いは全てRBにつぎ込んだ。
そんな私と仲良くなったCDショップの店員が、いつもRBのポスターを余分に置いておいてくれた。ポップや非売品のグッズ、余ったものだからと私に沢山譲ってくれた。そのCD兼本屋のショップ店員が光貴だった。その店は彼の両親が経営する自宅兼店舗で、私は彼の店の優良顧客。
――バンドやらない? RBのコピーから。ヴォーカルやってみない?
確か二十歳くらいの時だった。光貴がやっていたバンドが空中分解で解散して、メンバーを探しているところだったから、私に声がかかった。
未経験の自分がバンドで歌うなんて思いもしなかった。
本が好きで歌詞を書くのは好きだったから、今思うとかなり恥ずかしい愛のフレーズ満載の歌詞をいっぱい書いて、光貴に次々渡した。するとそれに曲がついてきた。
自分の歌詞に初めてメロディーが付いたあの時の感動は今も忘れていない。思い出しただけで興奮する。
光貴は『いい歌詞やん』と、つたない私が書いた歌詞を認めてくれた。
但しそれが売れるものではないという結果を見極める才能は無かったけれど。
私が書く歌詞は殆ど白斗の盗作みたいな歌詞だった。いいと思ったフレーズがどうしても似てしまう。ルーツがRBで白斗だから、ここから脱することができなかった。
私を誘わずに別のボーカルを誘ってたら、光貴はもしかしたらメジャーで活躍できたかもしれないのに。
光貴のギターは最高に巧いから。
お世辞じゃなく本当に、心から素晴らしいと思う。
それなのに残念な女に声掛けてしまったせいで、メジャーのチャンスを棒に振らせてしまった負い目がある。
だからプロポーズが微妙ということくらい、目をつぶらなくては。
光貴の面倒は私が見なきゃ。年寄りになるまで。ううん、死ぬまで一生。
シャイで、音楽バカ。ギターオタクで、ギターの話をしたら長い熱弁を振るう。ちょっと抜けている所もあるから彼の面倒を見られる女は、私しかいないと思う。そしてこの私も然り。根暗のオタク部分があって人見知りするし男性苦手だし、やっぱり光貴じゃないと。
スマホを取り出し、光貴にメッセージ送ろうと思って溜まっていたメッセージを読んだ。
――ゴメン
――本当にゴメン
――期限なおして
期限って…字、間違えてる。慌てて打ったのだろうけど。
思わず笑ってしまった。光貴は表も裏もない素直な男性だから。
――電話でて
――おねがい
沢山メッセージが入って来ていたけど、どれも短い謝罪文だったり、電話に出て欲しい旨のメッセージばかりだった。今頃焦っているだろう。彼が泣きそうになりながら必死でメッセージを送る姿が目に浮かぶ。
ちょっと可哀想かな? もう許してあげよう。