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格安生姜
1,230
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レッスン終わりのスタジオ。
心地よい疲労感と共に、メンバーたちがタオルで汗を拭いながら引き上げていく。俺も自分の荷物をまとめようと、ペットボトルを手に取った。
けれど、視線の端に映る“ある光景”に、俺の手がピタリと止まる。
少し離れた場所で、舜太が別のグループの後輩と楽しそうに話していた。
相変わらずの、太陽みたいに眩しい笑顔。誰の懐にもスッと入り込む舜太は、後輩の肩をポンと叩き、クシャッと目を細めて、何気ないことで声を出して笑っている。
「……ねえ、舜太くんってさ、本当に人懐っこくて可愛いよね」
近くにいたスタッフが、何気ない褒め言葉を口にした瞬間、
舜太に言ったはずの言葉が、何故か俺の胸を刺した。
胸の底に、ドロドロとした黒い泥のようなものが、ふつふつと、嫌な音を立てて湧き上がってくるのが分かる。
いつもなら、「仲良くて微笑ましいな」なんて他人事のように流せるはずだった。
なのに今日に限っては、その笑顔のすべてが視界の端でざらついて、
仕方のないイライラが内側から俺の理性を蝕んでいく。 気がつけば、持っていたペットボトルのキャップを、指先が白くなるほど強く握りしめていた。
舜太にいつものような顔で話しかけようとした。
だけど、どうしても顔が引きつるのを止められなかった。
「……お疲れ。さっき、楽しそうだったじゃん」
「…!あ、あの子さ!優しくて、いい子なんよぉ!今度、ご飯一緒に行こうって言ってて…」
「……へえ。俺以外のやつの誘いに、ホイホイ乗るんだ」
自分でも驚くほど、低く冷たい声が出た。
なんで、?心の中で秘めようとした声が、なぜか表に出てくる。
いつもなら笑って「嫉妬?」なんて返してくるはずの舜太が、ピクリと動きを止める。
舜太は初めて見る俺の顔を見たのだろう。じっと俺の目を覗き込み、そして、わずかに背筋を震わせた。
「ま、待って、柔…?なに急に、怖いんやけど」
怯えたように一歩、後ずさる。
その小さな一歩を見た瞬間、頭の中でプツリと、何か決定的な糸が切れた。
……あ、俺、舜太のこういう顔が見たかったんだ
他のやつには見せない、俺だけに向けられた恐怖と動揺。
それが愛おしくて、同時に狂おしく腹立たしかった。
「怖くないよ。……ねえ、舜太」
バタン、と乱暴に閉まった扉の音が、やけに耳に残る。
逃げられた背中を見つめながら、俺は自分の胸に手を当てた。
――胸を焦がすこのドロドロした衝動の名前を、俺はもう、「嫉妬」以外の言葉で誤魔化すことはできなかった。
明日から、もう逃がさない。
そう心の中で冷たく微笑みながら、俺は静かにスマホを取り出し、スケジュールを確認した。
❤️side
「お疲れっしたー!」
いつものように元気よく声を張り上げて、レッスン終わりのスタジオを後にしようとしたときだった。 理由は分からない。 ただ、 肌の表面を強く撫でるような、鋭い視線を感じて、俺は自然と足を止めて振り返っていた。
少し離れた場所。
いつもならミラーに映る自分の汗を拭いながら、
メンバーやスタッフと軽口を叩いているはずの柔がそこに立っていた。
……目が合った。
けれど、いつもの、あの綺麗に弧を描く柔らかい笑みはそこになかった。
「……ッ」
思わず、声が漏れそうになる。
柔はペットボトルのキャップに指をかけ、まるでそれを粉々にでもするかのように、指先が真っ白になるほど強く握りしめていた。
その瞳の奥に浮かんでいたのは、今まで一度も向けられたことのない、どす黒く凍てついた光だった。
ゾクリ、と、背筋のあたりからいやな汗が這い上がる。
俺、なんか怒らせるようなことした、?
頭の中で必死に記憶を巻き戻すけれど、心当たりなんて何もない。
さっきまで後輩のくだらない冗談に笑って、肩を叩き合ったことくらいだ。でも、そんなのいつだって事務所の楽屋やスタジオじゃ日常茶飯事じゃないか。
みんなでわちゃわちゃするのは、このグループの当たり前の空気だったはずなのに。
「……ねえ、舜太くんってさ、本当に人懐っこくて可愛いよね」
数秒前、近くにいたスタッフがそんな風に笑って俺の頭をポンと撫でた。
その言葉が頭をよぎった瞬間、遠くにいる柔の眉間に、 微かに険しいシワが寄ったのが見えた気がした。
まさか、ね。
そんなわけない。柔はいつだって俺に優しくしてくれるし、メンバーの誰に対しても均等にスマートで、適度な距離感を保つ人だ。誰かに嫉妬したり、そんな感情を剥き出しにしたりするような人じゃない。……はずなのに。
柔はそんな人じゃない、俺の勘違いだ。そう言い聞かせて、
足を踏み出そうとした瞬間、いつの間にか、柔が 俺の目の前まで歩いてきていた。
「……お疲れ。さっき、楽しそうだったじゃん」
いつものふにゃふにゃとした可愛いらしい声とは違う、低く掠れた声でそう言った。
驚いて顔を上げると、綺麗に整った顔立ちが、どこか不気味に歪んでいるように見えた。
「…!あ、あの子さ!優しくて、いい子なんよぉ!今度、ご飯一緒に行こうって言ってて…」
「……へえ。俺以外のやつの誘いに、そんなにホイホイ乗るんだ」
冗談でも言っているのかと、最初は笑い飛ばそうとした。
だけど、その声の低さと、逃げ場を塞ぐような冷たい視線に、俺の喉の奥がカラカラに乾いていくのが分かった。
いつもなら、「なにそれ、嫉妬?」なんて笑って返せるはずの軽口が、
なぜか唇の端で凍りついて出てこない。
「ま、待って、柔…? なに急に、怖いんやけど」
無意識に、一歩、後ろへ足が下がった。 俺が恐怖の色を浮かべたのを確認した瞬間、
柔の瞳が、奇妙な熱を帯びて光った気がした。
その狂気じみた光を見たとき、心臓がバクバクと暴れ出す。
「怖くないよ。……じゃあね、舜太」
それ以上何も言わず、背筋を凍らせるような微笑みを残して、柔はすれ違っていった。
バタン、とスタジオの扉が閉まる音を聞きながら、俺はその場から一歩も動けなかった。
胸の奥で、ドロドロとした得体の知れない不安が、黒い泡を立てて膨らみ始めている。
――あのときの柔の目を思い出すと、どうしようもなく息が詰まった。
コメント
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まず、二人の視点で語られる構成に引き込まれました。柔の「俺だけに向けられた恐怖と動揺が愛おしい」という歪んだ愛の自覚と、舜太の「そんな人じゃない」という戸惑いが対照的で、関係性の危うさが鮮明です。嫉妬というより所有欲に近い執着が、今後の展開をどう転がすのか気になります。設定の練り込みがしっかりしていて、続きが楽しみです。