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4 - 花吐き病【ピンクのガーベラ】

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2025年06月14日

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【花吐き病(もとぱ)】の続き:藤澤ルート綾華END



*W視点*


「ごほっ、ごほっ。」

「涼ちゃん?!」

せき込んだ涼ちゃんの口から、花が零れてきた。

「その花は…。」

涼ちゃんは面白そうに笑った。

「誰だと思う?」


吐き出された花は

ピンクのガーベラ


「え?!…綾華?」

俺の言葉に、涼ちゃんはちょっと照れたように頷いた。確かに綾華は髙氏のことが好きだって噂は聞いたことあるけど、実際はどうか分からないし、もともと何の障害もないんだからアプローチすればいいのに…。

「ふふ。若井、さっさと告白したらいいのにとか思ってる?」

「まぁ当たらずも遠からず…。」

「好きになったのは綾華が脱退した後。いなくなって気付くって最悪のパターンだよ。一生懸命新しい道を進んでる綾華の邪魔はしたくないって思ってたら時間経って、今更元メンバーに告白されても困るの目に見えてるし。」

「だからって、花吐き続けて死ぬかもしれないんだよ?!」

「医療は日進月歩。その内よく効く薬とかできると思うし、今のところ花吐く以外の異常はないから。」

「それでも…。」

すると、涼ちゃんは俺の頭にポンと手を置いた。

「僕は元貴と若井がいてくれたらそれでいいよ。二人が幸せそうに笑っているなら、僕はそれだけでいい。」

優しく微笑む涼ちゃんに胸が熱くなる。

「涼ちゃんも幸せにならないと意味がない!」

「大丈夫。今でも十分幸せだよ。」

帰っていく涼ちゃんを見送る。大切なメンバーに何もしてあげられない自分が悔しい。

「元貴!」

「分かってる。でも、どういう原理か分かんないけど、嘘で両想いになっても完治しないんだろ?なにより、そんなの涼ちゃんが可哀そうだし、綾華にも失礼だ。」

「でも…。」

「まぁそれとなく涼ちゃんと綾華誘って二人にする、ぐらいが関の山なんじゃない?」

「涼ちゃん…。」




*F視点*

若井が花吐き病というのはなんとなく気づいていた。

それはきっと俺と同じだったから。相手もまぁ元貴だろうなって言うのはなんとなく。

元貴も若井のことは大切にしていたけど、まさか花吐き病になる程だったとは思わなかった。

すごく遠回りした二人がやっとお互いの想いに気づいて幸せになる。

とても素敵なこと。だけどやっぱり

「羨ましいな…。」

臆病な自分はきっとこの先も花を吐き続けていくんだろう。

手に持っていたピンクのガーベラを見る。流石に置いてくるわけにはいかなかったから持ってきたけど、街中で男がピンクのガーベラ持ってるとか違和感でしかない。そっとポケットに花をしまった。その瞬間


「涼ちゃん?」


一瞬聞き間違いかと思った。だって、タイミング神がかってない?

「綾華…?!」

振り返ると、あの頃より大人になった、でもあの頃と変わらない笑顔の綾華がいた。

「やっぱ涼ちゃんだ!」

「綾華…久しぶりだね!」

「本当、久しぶり!」

「スーツってことは、仕事中?」

「今日はもう終わりで直帰予定。涼ちゃんは今日オフ?」

「うん。服見に行こうかなって。」

「一人?」

「若井と行く予定だったんだけどね、急に用事ができたみたいで。」

「ドタキャンされたんだ(笑)」

「そう、かわいそうでしょ?(笑)」

「あはは。じゃぁさ、ちょっと私に付き合ってよ。」

「いいよー。どこ行く?」

「着いてからのお楽しみ♡」


綾華に連れられてやって来たのは、初期に僕らが練習していたような小さくて最低限の機材しかない貸しスタジオだった。

「ここボロいけど、防音だけはしっかりしてるから。」

「綾華ここで練習してるの?」

「ベースは違うところだけど、たまにめちゃくちゃに叩きたい時はここに来る。」

「メスg…。」

「誰がメスゴリラや。」

顔を見合わせて笑った。

「綾華、仕事どう?楽しい?」

「うーん。楽しいとはまたちょっと違うかもだけど、やりがいあるし毎日充実してる。」

「そっか。」

「涼ちゃんは?Mrs.の名前見ない日はないって感じだけど。」

「まぁ、忙しいのは主に元貴と若井だね。」

「涼ちゃんもでしょ?」

「僕は二人に比べたらそうでもないよ。」

「涼ちゃんのその謙虚なところいいと思う。」

「ふふ、ありがと。」

「でも、私の前では自分を抑えなくていいよ。」

「綾華は優しいね。」

やっぱり、好きだな。

「うっ?!ごほっ、ごほっ!」

「涼ちゃん?!」

「大丈夫、だからっ。」

バレないように綾華に背を向け、バッグの中に花を吐く。

「ふー。ごめん、唾液が気管支に入っちゃった。」

「おっちょこちょいは30過ぎても変わんないのかー。」

「綾華だってもう30でしょ。」

「女性に年のこと言うなんてデリカシーないんじゃない?」

「うっ、ごめんなさい…。」

「冗談だよ。それよりさ、涼ちゃん。」

綾華は持っていたバッグからドラムスティックを取り出した。

そして、野球選手のホームラン宣言の様にドラムスティックで僕を指した。

「私と付き合って。」

綾華は悪戯っぽい笑顔で言った。

「….え?」

いきなりのことに呆気にとられてる僕に気にせず綾華は続ける。

「あのままチームにいてもきっと私は自分に自信が持てないままだった。元貴がすごいんだ、周りがすごいんだって…。だから私は私の足で立って、好きな人の隣に立ちたかった。」

「え?え?あ、綾華?」

「優しい涼ちゃんが好き、人一倍臆病な涼ちゃんも好き、気配り上手な涼ちゃんも、ムードメーカーの涼ちゃんも、でもたまにネガティブ沼に嵌る涼ちゃんも。電源オフにしたら全然笑わないくせに、私の冗談では笑ってくれる涼ちゃんも好き。全部ひっくるめた藤澤涼架が大好きです!」

真っ赤になった綾華は、いつも力強くドラムを叩いてた面影はない。

「断ってくれて構わないよ。チームを辞めたのはもちろんそれだけの為じゃない。今私は私らしく生きてるから。」


それでもやっぱり、貴女はどこまでも僕の心を震わせる響きを放っている。


「”俺”も綾華が好き!」


「!?」

「頑固で素直じゃなくて頑張り屋で自分に自信がなかった綾華も好きだけど、自信に満ち溢れてる今の綾華もすっげー好き!」

その瞬間、再び咳き込む。しかし、いつもの胃からせり上がってくる違和感はなく。

「…あ。」

吐き出されたのは花吐き病完治のお知らせである白銀の百合。

「え?花?え?涼ちゃん花吐いた?!」

驚く綾華。まぁ普通はそういう反応になるよな。

「綾華!」

「?!」

百合を持っていない方の手で綾華の持つドラムスティックを握る。

「俺要領悪いし、鈍感だから気づかずに綾華悲しませちゃうことあるかもしれない。でも、些細なことでも言って、俺を頼って。絶対呆れたりそれで嫌いになったりしないから!」

「涼ちゃん…。」

綾華はぽろぽろと涙を流し始めた。

「ちょっと、泣き虫は俺のキャラなんだから取らないでよ(笑)」

「今は”涼ちゃん”じゃなくて”藤澤涼架”でしょ?ちょっとくらい涙キャラ貸してよ。」

「しょうがないなぁ。」

優しく抱きしめると、きつく抱きしめ返してくれた。ドラムスティックが背中に当たってちょっと痛かったけど、でもそれ以上に幸せで痛みなんてどうでもよかった。




「花吐き病?」

綾華に白銀の百合の説明をする。

「え…ってことは涼ちゃん…。」

「ずっと綾華のこと好きだった。」

「えぇ?!言ってよ…。でも、あと一歩遅ければ私も花吐き病になってたかも…。」

「綾華はならないでしょ。」

「なんでよ。」

「拗らせるんじゃなくて糧にして常に前進してる。そういう人はならないよ。」

「そんなもんかな。」

「そんなもんだよ。」

顔を見合わせて笑った。

「綾華。」

「何?」

「大切にします。」

「うん。大切にしてください。」






若井「元貴!これ見た?!」

元貴「若井!これ見た?!」

大森・若井・藤澤のグループLINEに、一枚の写真が貼られた。

【ドラムスティックと白銀の百合】




【終】

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