【花吐き病(もとぱ)】の続き:藤澤ルート髙野END
*O視点*
「ごほっ、ごほっ。」
「涼ちゃん?!」
せき込んだ涼ちゃんの口から、花が零れてきた。
「その花は…。」
涼ちゃんは面白そうに笑った。
「誰だと思う?」
吐き出された花は
スミレ
菫色という言葉もあるくらいだからそれはもちろん紫色。
紫…。思い当たる人物は二人いるが、多分涼ちゃん片方は知らないと思う。
だから
「涼ちゃん、高野のこと好きなの?」
ドストレートに聞いたもんだから、涼ちゃんは頬を染めつつ
「え、まぁ…。」
もにょもにょと口ごもる。若井は驚いて
「そうだったんだ…。全然気づかなかった。」
「二人にうまく隠せてたんなら、僕の演技力結構高いんじゃない?」
ピースして笑う涼ちゃん。なんか、全力で幸せにしてあげたい。若井に向ける気持ちとは別の、なんというか母性のような、一生懸命走るちびっこを見てると『がんばれー!』と応援したくなるような。
「涼ちゃんの病気がいつかなくなるといいね。」
俺の言葉に涼ちゃんは少し悲しそうに笑った。今の涼ちゃんにとっては少し残酷な言葉だったかもしれない。
「ありがと。元貴、若井、改めて完治おめでとう。」
涼ちゃんは帰って行った。
「…マジか。髙野だったのか…。」
「どうかした?元貴。」
「いや…。」
俺はスマホを手に取り、高野にラインする。
大森:たーかーのーくーん。あっそびましょー☆
すぐに髙野から返事が来た。
髙野:怖い怖い。俺なんかした?
大森:普通に飲みの誘い
髙野:行く
大森:いつ空いてる?
髙野:夜は大体空いてる。元貴に合わせるよ
大森:じゃ、明後日の20時くらいにココの前集合ね→【地図】
髙野:OK【スタンプ】
「元貴、何する気?」
「”ポンコツ”を熨斗付けてお返しすんだよ。」
「?」
飲み会当日
「おー久しぶり!元貴。」
以前と変わらない笑顔で髙野が待ち合わせ場所にやって来た。
「髙野ちょっと太った?」
「一言目それ?」
「あ、もう一人呼んでるから。」
「誰?若井?」
「涼ちゃん。」
「え”。」
「涼ちゃん少し遅れるから先中入っておこう。」
「ちょ、待って!涼ちゃん来るの?!」
「そうだけど?」
「元貴とサシ飲みかと思ってラフな格好で来ちゃったじゃん!」
「いや、変に気合入ってない今の方がいいよ、マジで。」
まだ何か言いたそうな髙野を無視して店に入った。
個室に案内され、とりあえずビールを頼む。
「髙野、最近どう?」
「まぁまぁ充実した日々を過ごさせてもらってますよ。元貴は?超忙しそうだね。」
「ありがたいことにね。」
「よかったよ、本当に…。」
「….。」
「綾華は目標があってのことだったけど俺は…。」
当時のことを思い出す。責任感の強い、高野らしい選択だったと今でも思う。
「ビールお持ちしましたー。」
スタッフの元気な声と共に、しんみりとした空気は吹き飛んでいった。
乾杯して飲んでいると、
「お連れの方来られましたよー。」
スタッフに案内されて涼ちゃんがやって来た。
「え…?髙野?!」
「久しぶり!」
「久しぶり!えー?なんで?どうして?」
「元貴から飲みに誘われて。てか、涼ちゃんも俺来るの知らなかったんだ?俺も直前に聞かされたんだけど。」
「知らないよ!3人で飲もうって言うからてっきり若井が珍しくいるのかと思ってた。」
「ごめん、俺で…。」
「全然!むしろ髙野に会いたかったよ。」
「俺も涼ちゃんに会いたかったー💛」
「あははは。ありがと。」
涼ちゃんのビールも来て、改めて乾杯して飲む。
「だからあの時のは―――。」
「いや、それだと―――。」
しばらく経つといい感じに二人は酔っぱらって饒舌になって来た。
(さて、そろそろ作戦決行と行きますか。)
俺は一つ咳払いをした。何事かと涼ちゃんと髙野が話を止めて俺を見る。
「髙野。」
「何?」
「涼ちゃんのこと好き?」
「な、なにいきなり。」
髙野と涼ちゃんが同時に驚いた表情で俺を見る。
「いや、仲いいなって思って。好き?」
「いや、そりゃまぁ…。」
「好き?」
多分必要なのは明確な”言葉”。
「…好きだよ。」
涼ちゃんに気付かれないように俺を睨む髙野。
そうだよね
高野ずっと涼ちゃん好きだったもんね
涼ちゃんと仲いいってだけで年下の俺に相談するくらい
涼ちゃんのこと大好きだったもんね
「だってさ。涼ちゃんは髙野のこと好き?」
「え?えっと…。」
「え…嫌いなの?」
俺の言葉に涼ちゃんは慌てて
「違っ!好きだよ!!….うっげほっ、げほっ。」
咳き込む涼ちゃんに高野が驚いて駆け寄る。
「涼ちゃん?!大丈夫?」
「…!?」
涼ちゃんの手には白銀の百合が乗っていた。
「え?花?」
髙野がぽかんとする中、涼ちゃんは驚いた表情で百合と髙野と俺の間で視線をせわしなく動かしていた。そして徐々に顔が赤くなる涼ちゃん。
「元貴、これって…。」
「俺と若井にバレないくらい演技力あるのに、なんでそんなにポンコツなの?」
「!」
「演技力高くなかったら発病しなかったんじゃない?」
絶句する涼ちゃんと訳が分からないといった様子の高野。
「俺もう帰るから、高野にはちゃんと涼ちゃんから説明するんだよ?」
「僕から?!」
白銀の百合が出たということは髙野の気持ちを涼ちゃんは分かったけれど、高野はまだ涼ちゃんの気持ちを知らない。つまり、
「メンバーが愛の告白するのむず痒くて見てらんないし。」
俺はさっさと会計だけ済ませて店を出た。
流石に大人なんだからここまでお膳立てすれば後はどうとでもなるだろ。
「さー帰るか。」
愛しい恋人の元へ
数時間後、満面の笑みで手を繋いだ髙野と涼ちゃんの写真が送られてきた。
「若井、見て。」
「ん?え?!髙野と涼ちゃん?!」
「涼ちゃんの手の上見て。」
「手の上?あ、白銀の百合?!」
髙野と手を繋いでない方の手に白銀の百合を乗せていた。
「ってことは、涼ちゃん…。」
「無事完治。無事両想い。」
「よかったぁ…。」
長年患っていた者同士、戦友のような気持ちが芽生えていたんだろう。それを先に自分はハッピーエンドを迎えたもんだから、負い目を感じていたのかもしれない。
「元貴。髙野ってもともと涼ちゃん好きだったの?」
「うん。チームいる時から相談…ていうか涼ちゃんの話聞かされてた。」
でも花吐き病知らなかったっぽいから、拗らせてたわけじゃなさそう。多分、あいつのことだから真っすぐにただ”涼ちゃんが好き”ってことだったんだろう。対する涼ちゃんはというと、無駄なところで演技の才能を発揮して、病気にまでなって..。
「やっぱ涼ちゃんポンコツだわ。」
かなり遠回りした分、二人には幸せになってもらいたい。
「元貴、嬉しそうだね。」
「ポンコツの汚名返上したからね。」
「ふふ。素直じゃないなぁ。」
【終】
高氏は日本的な花がよかったので最初は紫陽花にしてましたが、吐き出すのが大変そうだったのでスミレにしました。