恋愛短編集
始まり~
ーー幽霊ーー
フーっと息を吐くと白い息
がふわふわと宙を舞った
気分転換で外に出たはいいものの
手先がほんのり赤く染まり
ピリピリとする
『…こんばんはお嬢さん♪』
背後でそう言われてバッと
後ろを振り返ると
通っていた一本道の少し離れた所に
ふんわりと微笑みながら此方を
見詰める彼…いや恋人が居た
透き通った肌や白い髪がどうも
冬景色に溶け込んでいて綺麗だった
「お嬢さんって…僕男だよ」
『まぁまぁ、それは置いといて』
『こんな時間に外なんて珍しいね』
「まぁ、気分転換…」
『俺に会えなくて寂しかった?』
寂しかった所ではない
僕の恋人は急に現れ急に居なくなる
彼自身は気分屋なんだと言っているが
気分屋で済む話ではない程に
神出鬼没だった
「ねぇ、何してたの?」
『最近いい事あった?』
彼は毎回何をしていたか聞くと
僕の声が届いていないかのように
別の話を喋り出す
彼は自分の事を語らない主義であり
何処に住んでいるとか何故急に消える
とか個人情報を言う身動きも感じない
『寒いだろうしマフラーあげる』
そう言うと彼は自分の
身にまとっていたマフラーを外し
器用に僕の首元に 巻き付けた
『よし、これで寒くないね』
僕にマフラーを巻き付けてはうんうん
と微笑み頷きながらそう言った
嗚呼この時間はとても素敵であり
暖かい時間だと思ったが
それと共に僕の心の中で複雑な
気持ちが少し入り交じっていた
だから疑問に思った事を少し質問
してみたのだ
「冬好きなの?」
『好きだよ、冬』
「理由とか…ある?」
『……特にないんじゃない?笑』
あーぁ、やっぱり
君はいつもそうだよね
話を逸らす時は他人事の様に言う
目を合わせてはくれない
僕は知らないフリしてるけど
君の癖は殆どと言っていい程知ってるよ
「呼吸してる?」
『何でそんなこと聞くの?笑』
『俺だって人間だよ?呼吸くら…』
「今日寒いよね」
『そうだね』
「息してたら白い息出るはずだよね」
『出ない人は出ないでしょ笑 』
「僕にまだ隠し事するの?」
『…隠し事嫌い?』
「うん、嫌い」
嫌いだよ…大っ嫌い
右往左往する色素の薄い目も
誤魔化そうとする色付いた口も
同じ季節、同じ日にち、同じ時間帯
同じ場所、同じ見た目、同じセリフ
で突然現れる君も
「この日に思い入れがあるの?」
『あるよ、物凄く大事な日』
「何?何でなの?」
不気味に思ってしまう程
車やバイクのエンジン音は消え失せ
辺りはシーンと静まり返った
外が寒い事もあって背筋が凍った
『…………まぁ…ね』
「何?」
『冬が好きな気紛れ屋さんな子の』
『大切な日なんだって』
そう言うと彼は足元から
スーッと透けていった
それに気づいたのか自分の足元
をまじまじと見た後
『あーぁ、帰る時間だ笑』
「何?帰る時間って」
「まさか居なくならないよね?」
僕の目に溜まった涙を彼は手で拭い
上を向き目を細めた
細めた目には降ってきた雪が
降りかかったが溶けなかった
彼からは冷たくないや…
と言う音が小さく聞こえた
『じゃあね、俺戻らなきゃ』
「何処に戻るの?もっと話そうよ」
「一緒にどっか行こうよ」
『そうだね笑また今度会えたら』
『その時は出掛けよっか笑』
「絶対に会えるの?」
『多分?会えるよ笑』
彼は僕にふわりと笑って見せたが
少し苦しそうな苦笑いに見えた
彼とまた出会えるのか
次は今回よりも長く話せるのか
そういった不安が脳内を横切る
「また来年この場所で会おうね」
『……うん、またね笑』
そう言った瞬間に彼は
スーッと透け消えていってしまった
僕は悲しさも相まって呆然と
只彼と喋っていた筈の 場所に
立っていた 彼が居たはずの場所には
足跡すらも残っていなかった
時間が経ち冷たくなった身体に
彼が僕に巻いてくれたマフラー
だけが暖かさを保っていた
ーー幽霊ーー
また次の話で
なう(2025/10/16 22:20:30)
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