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瑠璃
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―――ひとつ、波紋がひろがって
見上げた先には、何処までも続く青い空。雲一つない晴天の下、四人は一歩を踏み出した。先に通っているのはひとつの道。何処まで続くかなど、誰にもわからない。しかし四人は進むことにした。それが、自分達の選んだものなのだから。
「さーて、出発だー!」
「なんか威勢が良すぎない?」
「元気な方がいいよ」
「そうそう」
ふうはやの音頭に何時もの調子で言うりもこんに、落ち着いたテンションで返すしゅうととかざね。とは言うものの、りもこんも高揚感を隠すことは難しい。何だって今日は、彼等にとって新たな旅の始まりなのだから。
歩みを進める四人の後ろにも道はある。それは決して平坦ではなく、ゴツゴツとしていてアップダウンも存在している。振り返るだけで、楽な道を歩いてないことなど明白だ。
目の前の道は、左右にうねることはあるものの現時点で何かしらの表情を変えることはない。しかし彼等は知っている。道は、決して楽なものだけではないと。
「天気よくて助かるな」
「そうだね。雨とか降ったら大変だもん」
「この前の雨のときは傘で防ぐのもやっとな程の量が降ったもんな。あれは大変だった…」
「しかも結構長く振り続けてたよね。ま、あの長雨は水が足りなくなることの懸念から、俺が祈祷をした結果なんだけどさ」
「いや、お前そんなことしてねぇじゃん!」
過去のことを振り返りながら、彼等は足を先へと進める。目の前に伸びている道をゆったりと。
草原を吹く風が心地いい。何処までも続く青い空。遠くには真っ白な雲が見える。行く先を現しているかのような、そんな空。
「真っすぐ、真っすぐ進んで行こうな!」
「って言ってる間に分かれ道があるけど」
「まじかよ?!」
分岐が、ひとつ。右か左か。四人で考えて行く方向を決めた。誰かが別の道を歩むことはない。皆で決めて、共に歩くのだ。
草原に現れる、幾つもの花。赤、青、黄色と様々な色と種類が彼等を出迎える。思わず道から逸れて、花を観賞することにした。
「気持ちいいねぇ」
「ちょっと立ち止まってみるのもありかもな」
草原に腰を下ろして、空を見上げて。空を眺めていると鳥の囀りが聞こえた。虫が足元の草の上をせわしなく歩いていた。
「何かこの先に別の分岐があるんだけど」
「まじ?」
「ちょっと休憩しすぎちゃったかな。そろそろ行こうよ」
かざねの呼び声に彼等は立ち上がる。歩みよれば確かに視界の先には新たな分岐。どちらに進むのかを、また四人で決めた。
―――ふたつ、波紋がひろがって
「段々陽が暮れてきたな。どうする?」
空が脈動する。青は段々と色を変え、赤が混じってくる。グラデーションを描くように、じんわりと空の色が変化する。
一本道は相変わらず続いている。しかし夜が近付いてきていることから、一度足を止めると決めた。
「昼間、綺麗だったね」
りもこんがそう言えば、歩いてきた草原の話になった。何処までも続く青い空。色とりどりの花が咲き誇り、歩いていてとても楽しかった。見たことのない種類の植物もあった。そこに根付く、様々な者たちに触れることが出来た。
「色んなもの、見れたよな。どれも全部綺麗だった」
「こうして歩いてみないと出会わないものばっかだったと思うよ」
どんな見た目だったのか、どんな香りだったのか。そして、どんな色だったのか。
それらひとつひとつを大切に語り合っていく。自分達の記憶に刻まれたものを。
「ねえねえ見て、空の色が変わってきたよ」
しゅうとが空を指さす。腰を下ろしたのは平原の一角。背凭れになりそうな、大きな岩があるそんな場所。思い思いの場所に座って、そして空を見上げた。
「ほんとだ」
青から赤へ、そして黒へ。
空の色が移り変わっていく。陽が落ちていくことで急速にその表情は変わっていって。
「こんなにも変化って早いもんなんだな」
かざねが呟く。昼間からの移り変わりはあっという間だった。認知しているとはいえ、驚く程の。それ程までに、変化は速い。
「ちょっと見える世界も変わるよな。ほら、見てみろよ」
ふうはやの指す先にあったのは、昼間は数多の色彩を描いていた花たち。そのどれもが夕陽に照らされて赤く染まり、そして段々と黒に浸食されていく。
あれだけ存在を主張していた、傍らにあったものが黒に紛れて影を濃くして見えなくなっていく。
「全部、吞み込まれてしまったらどうなるんだろう?」
「でも、それでも世界は変わらないよ」
りもこんが言う。見えているものだけが全てではないと。そして、変化が訪れたからこそ見えるものもあると。
「見てご覧よ。ほら、一番星!」
りもこんが指さした空の一角。夕暮れの空に輝く、ひとつの星。それは、昼間では見ることの叶わないもの。
「見方を変えるってこと?」
「そうそう」
「なんか、突然らしくないこと言うなぁ」
「え、俺に厳しくない?!」
四人は思わず笑いを零す。それは世界が変化しても不変のもの。信じ続けている、大きなカタチ。
―――ひとつ、波紋がひろがって
「こんなにも沢山あったんだな」
何時しか空はすっかり暗くなる。同じように四人を取り巻く全ても黒へと塗り潰された。周囲を彩っていた花々の姿は黒に塗り潰される。しかし、その中で彼等は気付いた。
背凭れにしていた岩を避け、柔らかい草へと並んで寝転ぶ。互いの顔も見にくいくらい暗い中、ふうはやは静かに空を指さした。
「昼間だと気付けない光景だよな」
晴れの空に広がる、満天の星。キラキラと瞬く数多のそれらが四人の瞳に映しだされる。
周囲を照らす程の光量はない。しかし空の黒を裂くには充分で。
「あの星もさ、昼間見た花みたいに身近にあって、でもちょっと視点を変えてみないと気付きにくいものだよね」
「確かにね。でもさ、それに気付けたのは大きいかも。ちょっと、俺達には手が届かない代物ではあるけどさ」
「だとしても、掴みたいって願うのはありなんじゃね?」
「ロケットでも開発してもぎ取りに行く?」
「ははっ、ふうはやらしい発想かも、それ。でもリーダーがそう言ってくれるのいいと思う」
星を狙いに飛び出すのもいい。花を大切に寄り添うのもいい。そして、どちらも願っていい。
可能性は無限大なのだから。
数多の星々に思いを馳せ、四人は夜のひと時を堪能する。
―――そして、波紋は重なり合う
「…夜明けだ」
地平の先。空と陸の境目。一筋の光が全てを照らし、黒を劈く。
「しっかりと休憩出来たね」
「そうだな。これでまた、歩いて行ける」
「そういえば道の先、何処に繋がってるのか昨日確認してなかったっけ」
「ま、何処でもいいんじゃね? どんな場所に繋がっていたって、俺達なら大丈夫だろ」
ふうはやが立ち上がる。それを合図にしたように、他の三人も彼に倣うように立ち上がった。
空には太陽の光が照らし始め、明るい中に星々が隠れていく。しかし彼等は知っている。星は消えてしまうのではない。明るい空の中にも存在し続ける。それは、夜の闇にとけ込んでいる花と同じ。
「……後ろを振り返ることも大切だけどさ、先を見ることももっと大切だよな」
「でも同じくらい、周りも見ないといけない」
「そうそう。思っている以上に、俺達の周りに溢れているものは多いよ」
「沢山の色に満ちてる。それを忘れちゃダメだよな」
星が空へととけていく。草原を覆う花達が再び鮮やかさを露わにする。
そしてそれら全てに、四人は囲まれて―――
「全部が重なってさ、今があるんだよな」
ふうはやの言葉に全員は静かに頷く。例え、何が欠落しようと今は存在しなかっただろう。
そのどれもが一瞬の瞬きだったとしても、全ては廻って今になる。ひとつのモノでは描きだせない。
世界を揺さぶるのは、たったひとつの雫なのかもしれない。
「さて、そろそろ出発しよう!」
「「「ああ!」」」
再び、四人は道を歩き始める。
数多の分岐に、時には迷い、時には立ち止まりながら。
それでも彼等は進み続ける。ひとつひとつ重ねてきた色が、無限に繋がると知っているから。
――――― 彼等の旅路に、幸多からんことを ―――――
コメント
2件
久しぶりの瑠璃さんの作品!! 読んでいていんくえすとさを感じました。4人の冒険者、数多くの分岐点…いんくの皆さんが数多くの決断と困難を乗り越えてきたんだなって感じました!そして相変わらず瑠璃さんの言語化スキルが素晴らしすぎる!イメージがつきやすくて読みやすい!! 今回もありがとうございました☺️ いんく3周年おめでたい!!
うわあ……第1話からめっちゃ綺麗な作品だね! 朝昼夜の時間の流れと一緒に、見える景色とか気付きが変わっていく構成がすごく情緒的だった。特に夜になって“昼間だと気付けない光景”=満天の星が出てくる流れ、すごく好きだな。花も星も、視点を変えればどっちも宝物なんだよな。 四人の掛け合いも軽やかで温かくて、読んでてこっちまで一緒に旅してる気分になったよ。続きすごく気になる!