コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その後の事はうっすらとしか覚えていない。
私は救急車が来るまでずっとカズヤを呼び続け、救急車と共に病院に運ばれたらしい。
その後の処理は高橋さん達が全てやってくれたらしい。
病院の椅子の上で、手術が終わるのをずっと待っていると夫のマコトが汗をかきながら駆けつけた。
「ユウコ!カズヤは!!」
「あなた…カズヤは今…」
手術中と、言おうとすると手術中の赤い明かりが消える。
息を止めて手を取り合い、扉が開くのを待っていると汗をびっしょりかいている先生が沈痛な面持ちで扉から出てきた。
その顔を見た瞬間、否定する言葉しか浮かんでこなかった。
嫌だ嫌だ!先生が何か話そうとするが聞きたくない!
「残念ですが…」
「いやあぁぁぁぁー!」
私の記憶はここで途切れた。
気がつくと私は家に帰っていた。
カズヤが居なくなった家は明かりが消えたように静かだった。
居なくなってカズヤの存在の大きさに改めて気がついた。
あの後警察が来てユウジの家に事情を聞き、現場検証をしていたらしい。
カズヤとユウジはギリギリ届く窓の距離に配線を延ばしお互いのゲーム機を繋いでいたらしい。
カズヤが線をユウジに渡そうと手を伸ばした時に足が滑りそのまま落ちたそうだ。
警察は事故と判断した。
しかしそんなのどうでもよかった、だってカズヤはどうやったってかえってこない。
なんでもっとよく話を聞かなかったんだろう。
なんでもっとよく注意をしなかったんだろう。
なんで…なんで…
後悔がいくつも押し寄せてくる。
そして後悔し続けてある疑問がわいた。
なんでカズヤが落ちなければいけなかったんだろう……?
人間てどれだけ涙が出るんだろう?
泣いても泣いても涙は止まらない。
目の下が赤く爛れて涙の流しすぎて脱水症状がおきた。
どんなに悲しくても次の日がやってくる。
カズヤにはもうそれも訪れないのに。
毎日が、いつもの何倍も長く感じた。
泣いては疲れて気絶するように眠り、悪夢にうなされて起きては泣き暮れる日々を送った。
そんな地獄のような終わらない日々を過ごしていた。
いつもどうしてたんだっけ?
何をしていたんだっけ?
ある時なんでこんな苦しんでいるのかわからなくなった。
チラッと時計を見るとカズヤが学校から帰ってくる午後四時を指していた。
「そうだ、またユウジの家に遊びに行くかも…お菓子を用意しないと…」
ガタッと椅子を引いて立ち上がり、カズヤがもう居ないことを思い出したがそれは夢かもしれないと思った。
もしかしたら本当に夢でカズヤはユウジの家に行ってるのかも!
きっとそうだ!そうに違いない!
私は急いで玄関を飛び出した。
ピンポーン…
ユウジの母ナツキは玄関のチャイムにのそのそと玄関に向かう。
ガチャッと扉を開けるとそこにはやつれた様子のカズヤのママ、ユウコが笑顔で立っていた。
「ナッちゃん、こんにちは~カズヤお邪魔してない? 家に居ないんだよねー」
「ユ、ユウちゃん…」
私はかける言葉が見つからなかった。
カズヤが亡くなって、お葬式が終わってからユウコ達になんて声をかければいいのかわからずにズルズルと時間が過ぎてしまい家に行く機会を失っていた。
そんなユウコが死んだはずのカズヤが遊びに来ていないか聞いてきたのだ。
「ユウちゃん、久しぶりだね…えっと……」
私はかける言葉が見つからずに黙ってしまう。
「ね! なんか久しぶり。ナッちゃん少し痩せた?」
いつもと変わらない様子で話しかけてくるユウコが痛々しくて仕方なかった。
ユウコの事も心配だったが私もあの日から息子ユウジの事で頭を悩ませていた。
「カズヤのお母さん?」
するとユウジがユウコの声に反応して家の奥から出てきてしまった。
「あっユウジ、ねぇカズヤ来てない?」
ユウコがユウジにいつものように話しかける。
「見てないよ、学校もずっと休んでたし…どうしたの、風邪引いた?」
ユウジはあの日の記憶がすっぽりとぬけていた。
事故直後はカズヤの事を心配して無事に帰ってくることを願っていた。
しかし亡くなったと連絡が入った時ユウジは叫声をあげて気を失った。
次の日目を覚ました時には事故の事を忘れていたのだ。
そして普通に学校にいくとカズヤが学校に来ない事を心配し元気をなくしていた。
カズヤの家に何度も行こうとするユウジをどうにか止めると家族で話し合った。そしてもう二度と学校には行けない、亡くなったと話をすると拒否するように耳を塞ぎ聞こうとしないので、まともに説明する事も出来ないでいた。
そんな2人はカズヤがまだ生きていると思いながら話を続けている。
「えー風邪? あっ風邪なんだっけ?じゃ家で寝てるのかな?ごめんねーお邪魔しました」
ユウコが恥ずかしそうに家を出ようとするのを私は覚悟を決めて止めた。
「待ってユウちゃん! カズヤくんは…カズヤくんはその、もう居ないんだよ…」
そう発するだけで涙がこぼれた、だが泣きながらユウコ達に語りかける。
「ユウジもだよ!カズヤくんは死んじゃったの!二階の窓から落ちちゃったでしょ!二人共目を覚まして…もう寂しいけどカズヤくんには会えないんだよ…」
2人はわけがわからないと困惑する。
「ナッちゃん…何言ってるの? 酷いよ、いくら仲が良くても言っていい事と悪い事があるよ」
ユウコが私を睨みつけた。
私は彼女に恨まれる資格がある、罵倒を受け入れる覚悟をした。
するとユウジが声をかけてきた。
「ママ、カズヤはいるよ。いつもうちでゲームを一緒にしてるじゃん」
「ユウジ…」
その顔は感情がなくのっぺらぼうの様に張り付いたような顔をしている。
あの日からユウジは笑わなくなってしまった…いや、笑えなくなったのだ。
喋ったりご飯を食べたりゲームをしたり…普通にしてるが顔は笑ってないのだ。
その事を本人も気がついていないようだった。
本人は笑っているつもりらしいが時折沈んだようにぼーっとしている事があった。
ドンドンドン!
「高橋さん!うちのユウコがそちらにお邪魔してませんか?」
するとカズヤのパパ、佐藤さんが家の扉を叩いて声をかけてきた。
急いで扉を開くと、ユウコが迎えにきた自分の夫に怪訝な顔をした。
「あなた、どうしたの?」
「家に帰ったらお前が居ないから心配で、高橋さんすみませんね。すぐに連れ帰りますんで…」
「いえ…」
私は申し訳なくて首を振った。
「ユウジくんも悪かったね」
そう言ってユウジに声をかけて家を出ようとするとユウジが佐藤さんに声をかけた。
「カズヤのお父さん、カズヤの様子はどう?いつになったら学校来れそう?」
「ユウジ!!」
私は大声でたしなめるように叫ぶとユウジの口を塞いだ。
「佐藤さん…すみません、すみません…」
私は何度も何度も頭を下げた。
「高橋さん…」
佐藤さんは悲しげな顔で私達を見つめる。
「ユウコを寝かせて来ます。また夜にちょっと伺ってもいいですか?」
「はい…」
佐藤さんはそう言うとユウコを連れて帰っていった。