コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
大好きな玲伊さんとこうしてひとつになっている。
そのことが、わたしに言葉では表せないほどの至福をもたらした。
「平気……? つらくない?」
そう言って、はじめはわたしを気遣っていた彼の動きが、徐々に余裕のないものになってゆく。
彼の声もたえだえになり……
そして……
「うっ……」と声を漏らした後、彼はわたしの上に体を預けた。
そのずっしりとした重みさえ、そのときのわたしには言いようもなく嬉しかった。
***
ベッドに並んで横たわったまま、玲伊さんは感慨深げにつぶやいた。
「最高に可愛かったよ……俺、夢中になりすぎたかな? つらくなかった?」
「だい……じょうぶです。わたしも嬉しかった。玲伊さんと……その、ひとつになれて」
「ああ、優紀」
彼は汗で額に張り付いていたわたしの髪を丁寧に耳にかけると、腕を回して抱き寄せた。
その腕に包まれて、彼の胸に寄り添いながら、わたしはこれまでに感じたことがないほどの幸せに浸っていた。
「玲伊さんが言ってた意味、わかったかも……」
「ん?」
「愛する人と抱き合うのは恥ずかしいことではなくて、素敵なことだって」
彼はわたしの頭の下になっていた腕を抜いて、肘枕の姿勢になった。
そして、横からわたしの顔を覗き込み、それから唇に軽くキスした。
「そうだね。初恋の相手とこうして愛を交わせたんだ。こんな幸せは他にない」
わたしは乱れ髪の彼をうっとりと見つめながら呟いた。
「ですよね。本当に神様に感謝しなきゃ」
すると彼はちょっと眉を寄せて、確かめるように聞いてきた。
「優紀、今、俺が言った意味、ちゃんとわかってる?」
「えっ? 玲伊さんがわたしの初恋の相手だからじゃなくて」
「違うよ。俺の初恋の相手が優紀だったってこと」
わたしは目を丸くして、玲伊さんを見た。
「わたしが玲伊さんの……初恋の相手?」
「ああ。優紀が小2のとき、俺、優紀が好きで抱きしめたくてたまらなかったんだ。でも、泣き出したら困ると思って、代わりに髪を結んだりしてたんだから」
「わたしも玲伊さんが大好きで。だから、毎晩、同じ絵本を読んで……」
「『しろいうさぎとくろいうさぎ』?」
「そうです。でも、なんで知ってるんですか?」
「忘れちゃったの? 優紀にあの本、読んであげたのは俺だし」
もちろん、覚えている。
『玲伊兄ちゃん、読んで』と絵本をもっていってよくねだっていたことを。
なかでも『しろいうさぎとくろいうさぎ』はお気に入りで、何度も何度も読んでもらっていた。
「ねえ、今度、あれ読んで聞かせてよ。優紀の声を聞きながら眠ったら、いい夢が見られそうだ」
「うん……いいですけど」
「いいの? この間はあんなに嫌がっていたのに」
「だって、あのときは、絶対片思いだと思ってたから」
彼は微笑みながら起き上がり、わたしの髪を撫ではじめた。
「優紀、そういえばハグも嫌だって言ったよな。あの日はショックで眠れなかったんだぞ。どれだけ嫌われているんだって」
わたしは彼を見上げた。
「ううん、あのときは……」
そんなわたしの鼻の頭を、彼はいつものようにつんとつつく。
「嘘だよ。ショックを受けたんじゃなくて、ハートを射抜かれたんだよ。『はじめてハグされたからドキドキして眠れない』とか言うから、もう可愛すぎて。本当はそのまま帰したくなかったぐらいで」
「それなら……それでも良かったんだけど」
「前にも言ったろ? 振られるのが怖かったって。あのころにはもう、どうしても優紀が欲しかったから。男はね、本当に好きな相手には馬鹿みたいに慎重になっちゃうんだよ」
「玲伊さん……」
彼は潤んだ目を向けるわたしの頬を包み、そのまましばらく見つめていた。
焦れたわたしは、彼の首に腕を回し、唇を求めるように上を向いた。
玲伊さんは微笑みを浮かべる。
「ん? キスしてほしい?」
なんて、わかっているくせに、わざと聞いてくる。
でも、なんの抵抗もできずに、わたしはこくっと頷いてしまう。
「ほんとに素直だな」
そう言って、キスをくれる。
「そう……唇、ぎゅっとしないで。もう覚えたね。いい子だ」
そう言いながら、舌でつんと唇をつつかれて、ほんの少しだけ、口を開く。
そしてすぐに、彼の舌は口腔を探り出す。
すでにわたしが感じる場所を把握している玲伊さんはすぐに声を上げさせてしまう。
「ああ……ん、ふぅあ」
「その声……ほんと、たまらないよ」
そのまま、また、覆いかぶさられて、ひとしきり唇を貪られつづけた。
唇を離すと、ふーっと彼は息をつき、それから真剣な眼差しで見つめてきた。
「……この間から考えていたんだけど、俺、もう優紀とひとときも離れられない。一緒に暮らさないか。ここで。もちろん、結婚前提ということで」
「本当に?」
「ああ、俺、なかなか時間が取れないだろう。優紀にも寂しい思いさせるし、俺もあんまり会えない日が続くと、仕事に支障を来たしそうでさ」
彼は体を反転させて、ベッドに寝そべり、顔を横に向けてわたしを見つめる。
「優紀?」
「玲伊さんとずっと一緒にいられるなんて、嬉しすぎて……言葉が出てこなくて」
目を潤ませて、そう答えると玲伊さんも「優紀」と感極まった声でわたしの名を呼び
そして、唇を重ねて……
心が焼き切れてしまいそうなほどの熱情の渦に、ふたりでまた溺れていった。