テラーノベル
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直哉は、しばらく黙って甚爾を見ていた。禪院家の庭に立つその姿は、場違いなくらい自然で、
それがかえって腹立たしい。
直「……で」
間を詰めるみたいに、直哉は一歩だけ近づく。
声は、思っていたより軽かった。
直「なんで戻ってきたん。 この家、嫌いやったやろ」
問いかけながら、直哉は自分の口元がわずかに緩んでいるのに気づいて
すぐに視線を逸らした。
嬉しい、なんて。
そんな単純な感情で済ませていい話じゃない。
甚爾は庭の奥に目を向けたまま
枯れ枝の先をぼんやりと眺めている。
甚「理由が欲しいのか」
直「当たり前やろ」
即答だった。
間髪入れず、強めの声音で。
直「何も言わんと消えて、 何年も経ってから、急に戻ってきてやで。 それで“なんとなく”は通らへん」
甚爾は、ほんの一瞬だけ直哉を見た。
その目が、昔と同じ温度をしているのを見て
直哉の胸が、きゅっと詰まる。
甚「……さぁな」
やっぱり、それだけだった。
甚「金でもねぇし、仕事でもねぇ。 帰るつもりも、正直ねぇよ」
直「ほな、なんで」
食い下がる声が、少しだけ上ずる。
直哉は、それを誤魔化すみたいに鼻で笑った。
直「気まぐれ? それとも、懐かしなったん?」
甚爾は小さく息を吐いて
庭石に腰を下ろした。
甚「理由をつけるなら…… ここに、まだ用が残ってたってとこだな」
直「用?」
聞き返す直哉の声は
期待と警戒が混ざって、曖昧だった。
直「誰の」
答えは、返ってこない。
甚爾はただ、空を見上げている。
冬の雲が、ゆっくり流れていく。
直哉はその横顔を見ながら
胸の奥で、何かが静かに灯るのを感じていた。
——用が残っとる。
それだけで、十分やと思ってしまう自分が、
どうしようもなく禪院家の人間で。
そして
甚爾くんが戻ってきた理由が分からないままでいることを
どこかで望んでいる自分がいた。
曖昧なままのほうが
この距離は、壊れずに済む気がしたから。
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