テラーノベル
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沈黙が、庭に落ちた。禪院家の庭は広いはずなのに、
今は二人分の気配しかないみたいで、
直哉はそれが少しだけ、落ち着かなかった。
直「なあ、甚爾くん」
名前を呼ぶとき、
自分の声が妙に柔らかくなるのが分かる。
直「ここに用が残っとる言うたけどさ」
甚爾は空を見たまま、返事をしない。
それでも直哉は、続けた。
直「それ、家のことなん」
「それとも…俺のこと?」
言った瞬間、後悔した。
踏み込みすぎた、と頭では分かっているのに、 口は止まらなかった。
直「俺やったら、 今さら戻ってくる理由としては 一番、面倒やと思うけど」
冗談めかした言い方をしたつもりだった。
けれど、声の奥に混じった緊張までは隠せなかった。
甚爾は、ゆっくりと視線を下ろした。
庭石に落ちた影を見つめて、
少しだけ眉をひそめる。
甚「……自意識過剰だろ」
短い言葉。
突き放すみたいで、でも、否定しきれていない。
直哉は小さく笑った。
直「そう言うと思ったわ」
それでも、胸の奥が少しだけ痛んだ。
直「せやけどな、甚爾くん。 あんた昔からそうやったやろ」
直哉は甚爾の正面に立つ。
視線が、自然と合う距離。
直「一番大事なとこ、 いつも言わんと逃げる」
責める声ではなかった。
どちらかといえば、確かめるみたいな響きだった。
甚爾は、しばらく黙って直哉を見ていた。
その目は読めなくて、
直哉は無意識に、拳を握りしめる。
甚「……言葉にしたら、 面倒になることもあるだろ」
ぽつりと、甚爾が言う。
甚「それに、 理由がはっきりしてるほど、
人は簡単に離れられなくなる」
その言葉に、直哉は息を呑んだ。
直「それって……」
続きを聞こうとした直哉を、
甚爾は片手で制した。
甚「深読みすんな」
視線が逸らされる。
いつもの癖だ。
甚「俺は、ただ戻ってきただけだ。
それ以上でも、それ以下でもねぇ」
直哉は、それ以上追及しなかった。
できなかった、のほうが近い。
嬉しいのか、悔しいのか、
分からない感情が胸に溜まっていく。
直「……ほんま、ずるいわ」
小さく、呟く。
甚爾は聞こえないふりをしたまま、
立ち上がった。
甚「今日は、顔出しただけだ」
直「また来るん?」
問いは、反射だった。
甚爾は一瞬だけ足を止め、
振り返らずに言った。
甚「さぁな。 それも、曖昧でいいだろ」
その背中を見送りながら、
直哉は、はっきりしない感情を抱えたまま立ち尽くす。
——答えがないほうが、
期待してしまう。
それが分かっているからこそ、
直哉は、この曖昧さを手放せなかった。
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