テラーノベル
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次に目が覚めると私は自分の部屋のベッドに居た。
やはり、長い悪夢を見ていたのかと思ってみるが違和感が拭えない。
ここはまだ現実の世界ではない。
「誰か…」
そうだ、電車で居眠りをして以来悪夢から目覚めないでいたので家族はどうしているだろう。
何だかすごく久しぶりに感じる我が家はやはりホッとする。
「春奈、春奈は…」
春奈は私の12歳になる娘だ。
中学生になったとはいえ、反抗期とはいえ、まだまだ子供だ。
心配に決まっている。
体感では2日くらい、あの夢の中であの不気味な女の会社で働いていた気がする。
私はすぐに殺されてしまっていたが。
私のこの身体は生身なのだろうか?
それとも…。
「春奈…」
今は考えることをやめ、とにかく娘を探す。
娘の部屋に行くが、姿は見当たらない。
時計を見ると8時過ぎだった。
いつも娘が学校に行くのは7時半くらいだ。
もう家を出ていってしまったのか。
リビングに行ってみる。
主人も居ない。
そうだ、スマホ。
スマホで家族に連絡を取ろう。
スマホも久しぶりに触る気がする。
充電が切れたのか、画面が真っ暗だ。
電源ボタンを長押ししても画面が開かない。
「充電しないと…」
とにかく無事な春奈の声が聞きたい。
主人もだが、彼は大人だ。
母親の子供に対する愛情は過度なものだ。
自分の命より娘が無事でさえあればいい。
私のような目に遭っていないだろうか不安だ。
充電器に差し込んだ途端、スマホの真っ暗な画面に文字が流れ出した。
゛電車脱線事故、死傷者100人を超える゛
いつもは通知音とともにネットニュースが流れてくるが、真っ暗な画面に赤字の文面のみ。
その下にも文が続いている。
不気味だった。
充電は切れているはずなのに、何故ニュースが流れてくる?
しかも、この電車…
「私が乗っていた電車だ…」
脱線事故?
私は。私はどうなったのだろう。
何だかこの世界の違和感と、私が置かれている状況が一致しそうだ。
私は脱線事故で死んだ。
そしてここは死後の世界?
いや、死後の世界ならこんなにのんびりと自宅に居られるのだろうか。
生きるか死ぬかの瀬戸際?
それで私の魂だけが彷徨っているとか。
もはやオカルトだ。
およそ生粋のリアリストだった私が考えるようなことじゃない。
それくらいに不思議な空間なのだ。
今いる世界は。
脱線事故の衝撃で、違う世界に迷い込んだ?
漫画や小説にあるような…。
「ははは」
思わず笑ってしまう。
頭がおかしくなりそうだ。
この悪夢が長過ぎて。
スマホはこのニュースの文面以外、何も映し出さない。
スクロールしても動かない。
充電器も使えない。
娘に電話することも出来なかった。
「そうだ、家の電話なら」
使えるかもしれない。
私はリビングにある電話の受話器を手に取り、娘の携帯番号を押す。
「春奈…お願い…出て…」
呼び出し音が鳴る。繋がった!
春奈、春奈の声を聞かせて、お願い。
何回目かのコールで通話になった。
「春奈!?」
しかし、受話器からはジジッ…ジジッ…といった雑音しか聞こえない。
「春奈?春奈!」
私は娘の名前を呼び続ける。
するとかすかに受話器の向こうから
「マ…マ…?」
という声が聞こえた。
「春奈?春奈なの?大丈夫?」
「ママ…ど…うして…」
その言葉だけ何とか聞き取ると電話は切れた。
確かに春奈の声だった。
この異常な世界で、春奈の声だけは微かに聞こえただけではあったがハッキリと現実と呼べるものだった。
もう一度確かめたくて、娘に電話をかけるも聞こえてくるのは話し中のツーツーという音だけ。
゛ママ、どうして゛
と春奈は言っていた。
何が起こっているのかは未だわからない。
だが、娘は、春奈は生きている。
会いたい、もう一度…。
娘と一緒に居ることが当たり前過ぎてわかっていなかった。
いや、忘れていた。
娘の存在が私に力を与え、安らぎを与える尊い存在だったということを。
絶対にこの世界から抜け出し、春奈に会う。
私は決意すると、2階の自分の部屋へ向かう。
パジャマで寝ていたので服に着替える。
とにかく外に出よう。
娘に会える方法を必ず見つけ出す。
準備を整えたこところで、スマホの通知音が鳴る。
あれ、使えるようになったのか?
もしかしたら春奈かも…と淡い期待を抱きスマホの画面を見る。
「何これ…」
また真っ黒なスマホの画面に赤字で書かれた文章におののく。
゛震度7首都直下地震 津波に注意゛
今度は地震。
日本に何が起こっている?
春奈は生意気な口を聞くが、怖がりな子だった。
地震や雷が鳴る時だけは私にしがみついて離れなかった。
あの温もりが恋しい。
春奈は泣いていないだろうか。
不安になっていないだろうか。
地震も津波もなんでも構いはしない。
春奈に会う。
その気持ちだけで、足が勝手に走り出していた。
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