テラーノベル
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nmmn・名前伏せ無し・捏造
山積みの書類を前に、リゼ・ヘルエスタは小さくため息をついた。
皇女としての公務に追われる、静かな王宮の執務室。ペンを走らせる音だけが響く部屋で、リゼがこめかみを揉んだその時ー。
「リ〜ゼ〜さ〜ま〜〜〜!!!会いに来ちゃいましたあ!」
大きな足音と同時に、勢いよく扉が開け放たれた。
現れたのは、コーヴァス帝国の女騎士、フレン・E・ルスタリオだ。彼女はトレードマークの満面の笑みを浮かべ、両手を広げてリゼに突進してくる。
「うわっと!?ちょっとフレン、急に抱きつかないでください!暑苦しい!」
「え〜っ!邪険にされてもフレンはめげません!
ほらほら、リゼ様不足で死んじゃいそうだったんですから、ハグしてください!」
「拒否します。私は今、ものすごく忙しいんです。」
「大体、あなたはどうして我が国のをすり抜けてここまで来られるんですか……」
リゼは書類をフレンの顔面に押してて突進を止めると、深く椅子の背もたれに体を預けた。
呆れつつも、フレンのいつものペースに巻き込まれ、張り詰めていた肩の力が少し抜けるのを感じる。
「へへ、リゼ様に会いたいっていう強い気持ちが、門番さんの心を動かしたんですよお」
「絶対に嘘ですね。後で厳重に注意しておきます」
フレンは「そんなことより~」と、リゼの机の端に置かれた豪奢な箱に目を輝かせた。中には、ヘルエスタ王室御用達の、色鮮やかな高級焼き菓子が並んでいる。
「わあ、美味しそうなお菓子!ちょうどお腹空いてたんですよね。リゼ様、これ食べていいですか?」
「あ、待ちなさいフレン、それはー」
リゼの制止の声よりも早く、フレンの細い指がサクサクのクッキーを摘み、大きな口へと放り込んでいた。
「んん〜〜っ!サクサクで甘くて超美味しいです!さすがヘルエスタ、いいもの食べてますね!」
「……そこにあるお菓子は、これから来る他国の使節団への『来客用』ですって、言おうとしたのですが……」
「あ。」
フレンの手がピタリと止まる。リスのように口をモグモグさせながら、フレンは大きな目をパチくりとさせた。
「…….ご、ごめんなさいリゼ様あ!悪気はなかったんです、本当に!」
「はあ……。まあ、食べてしまったものは仕方がありません。使節団の分は別室の予備から補填させます」
頭を抱えるリゼに、フレンは申し訳なさそうに眉を下げて、両手を合わせてペコペコと頭を下げている。
その様子があまりに分かりやすく落ち込んでいるので、リゼはそれ以上強く怒る気も失せてしまった。
「次からはちゃんと聞いてからにしてくださいね。…….それで?今日は本当に、ただ私の邪魔をしに我が国へ不法侵入したのですか?」
「不法侵入なんて人聞きが悪いですよ!ちゃんと正当な理由があります!」
フレンは「ハッ!」と思い出したように顔を上げると、背負っていた鞄をごそごそと漁り始めた。
「これです、これ!リゼ様にこれを届けたくて、私、コーヴァスから急いで走ってきたんですから!」
フレンが机の上にトン、と置いた『あるもの』。それは、高級な王宮の調度品にはお世辞にも似合わない、少し傷のついた実用的な保温ボトルだった。
「……ボトル?中身は何ですか?」
「ふふん、聞いて驚かないでください。リゼ様が好きな、ブラックコーヒーです!」
「えっ、あなたが……?」
リゼは驚いて目を丸くした。フレンは満面の笑みで胸を張る。
「はい!リゼ様、最近ずっとお仕事忙しそうだったから。煮詰まった時にこれが欲しくなるって前に言ってたの、私覚えてたんですよお。」
「慣れない手つきで豆をガリガリ挽いて、淹れてきたんです!」
フレンの手元を見ると、不器用な彼女が頑張った証拠なのか、指先に小さく火傷の跡のような赤みが残っていた。
「……バカですね、フレンは。
そんなに慌てて持ってこなくても、王宮のメイドに頼めばいくらでも用意されますの
に」
「えっ、そんな……..。
やっぱり、私のが淹れたのなんて、王宮の高級なコーヒーに比べたら美味しくないですよね……」
急に自信をなくしたように、フレンがシュンと肩を落とす。リゼはそれを見て、ふっと柔らかく微笑んだ。
急に自信をなくしたように、フレンがシュンと肩を落とす。リゼはそれを見て、ふっと柔らかく微笑んだ。
「誰もそんなこと言っていません。…….いただきますね」
ボトルから備え付けのコップへと注ぎ、リゼはそれを口に運んだ。
少しお湯の温度が高すぎたのか苦味が強く、決して完璧な淹れ方ではなかったけれど、驚くほど芯から体が温まる、優しい味がした。
「……うん、美味しいです。少し苦いですけど、今の私には丁度いい」
「本当ですか!?やったあああ!リゼ様大好きです!」
一瞬で笑顔を取り戻したフレンが、今度こそリゼの体に抱きつく。
「ちょっと、本当に暑苦しいですってば!」と口では文句を言いながらも、リゼがフレンを突き放す手には、さっきのような力は入っていなかった。
「よし!じゃあリゼ様が残りのお仕事を終わらせるまで、私、ここで応援してまね!」
「応援はいいので、静かにしていてください。」
結局、フレンは部屋のソファにゴロゴロと寝転がり、数分もしないうちに健やかな寝息を立て始めた。
静けさを取り戻した執務室。しかし、リゼの机の上には、先ほどまでなかった温かいコーヒーのボトルがある。
「……全く、調子が狂いますね。」
リゼは残ったコーヒーをゆっくりと飲み干すと、今度はため息ではなく、満ち足りた微笑みを浮かべて、再びペンを握り直した。
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