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都比のスマホの着信音がなった。何度もならせることはなく、電話に出た。相手は令夏。
令夏「もしもし、都比」
都比「はーい、令夏。どうした?」
令夏「今日は物語に入れないっぽいから、何であんな本に入れるのか一緒に調べてもらおうと思ってたんだけど… お父さんとお母さんの積読を倉庫に運ばないとで」
都比「手伝ってほしいと?」
令夏「ありがとう、お願い」
都比にとってはもう学校の図書室より来ている魁図書館。皮を剥ぐように上着を脱いでカバンに詰め込む。いつものようにドアを開けて入る。
都比「来たよー」
令夏「上着は脱いで…るね。じゃあ 手、洗って」
都比「ん」
入り口からは見えない手洗いの場所も今は知っている。
令夏「クリームあるから塗って」
都比「あ、りんごの匂いだ… 次は塩でも塗り込む?」
令夏「あ、気づいてた?」
都比「自分でも色々読むようになったからね。でも注文の多い料理店は随分と前に読んでたかも。積読を倉庫に運ぶ、だったね」
令夏の部屋へ行き、すでに箱詰めはされていた積読を手に取り、いざ、倉庫。
やって来た倉庫。かつて使われていた、これから使われるであろう本が番号を割り振られ、箱に詰まっていた。持って来た積読は使うものではないのですみっこへ。そんなことを繰り返しているうちに全ての積読が倉庫へ運ばれた。
令夏「ふう。ありがとう、助かった」
都比「うっし。じゃああの中に入れる本について調べて…」
令夏「そういえば…!まさか…!」
突然、令夏がごそごそと運んだ積読を漁り始める。うろたえる都比のことは本当にアウトオブ眼中。
令夏 都比「おっ明らかにヒントになりそうな古書発見!」
そう。入っていたのはいつのものかも誰が書いたのかも分からない古書。古書というにはあまりに新しすぎる気もするが…書いてあったのは以下のとおり。「ねえ、知ってる?と彼女は言った。ある本の影響を受けた本があり、またその本に影響を受けた本がある。そうやって無限に本の世界は繋がっている。でも、本の世界はただの偶像じゃない。作者の思いがこもったもう一つのリアルなんだ」
令夏「“かつての魁家の先祖たちは言霊の力を理解し、文学を楽しんでいた”…だから私も知らぬ間に本と関わることが当たり前になってたのね」
都比「令夏は本、好き?」
令夏「うーん…なんか好きだからって感じあんまりないかなぁ。 本はずっとそばにあるものだったから好きだからっていうより、もう、食べる、寝る、本読むみたいなそんな感じね」
都比「へー。 そっかー」
令夏「人が言葉を知らずに育つとどうなるか知ってる?」
都比「どうなる…?」
令夏「フリードリヒ2世は赤ちゃんを50人集めて乳母たちに命じた。生命維持のスキンシップ以外取るなと。目を見るな、コミュニケーションを取るな、そして…」
都比「…言葉をかけるな?」
令夏「これは人間が赤ちゃんの内に言語情報を一切与えられないと何語を喋り出すのかっていう実験だったんだけど…」
都比「…結果は?」
令夏「喋り出す前に全員死んでしまった。衣食住の確保はされていたはずなのに」
都比「そんな…」
令夏「アメリカでルネ・スピッツも55人の戦争孤児で同じような実験をしたんだけど…みんなすぐ、あるいは成人前に死に、残りは精神疾患に…」
令夏「言葉は生きる上で必ずしも必要なものではない。そういう人もいるけど、本や人を通して言葉と触れ合うという経験は生きていく上で大切なの」
都比「つまり人は言葉を感じられないと死ぬってこと?」
令夏「そう。…続き、読もうか。“彼らは本の世界に入り込むことができた。私もその秘密を見つけ出したい”…書いた人は…あ、すみに書いてある。魁叶馬(さきがけ かなめ)⁉︎おじいちゃん⁉︎えー!で、“彼女”って…正華(せいか)?」
都比「せいか…せいか…ああヤバい、胃酸上がってきた」
令夏「いきなり⁉︎」
都比「実は…俺の死んだばあちゃんも正華って名前だったんだ」
令夏「貴方のおばあちゃん、私のおじいちゃんの何なの?」
本の中にヒントがないか血眼になって探す。落書きと見間違えそうな一つの答えを見つけた。
都比「妹…だってさ。 どうやら俺のばあちゃんは元々、魁家の人間で、俺のじいちゃん家、一ノ木家に嫁いだらしい。 はとこってやつなのか…俺たち」
令夏「うん。 そうなる。 おじいちゃん、おばあちゃんの兄弟姉妹の孫のこと、そういうんだよね…今まで知らなかったなんて…」
都比「マジでそれな」
そういえばと二人で思う。本の中で会ったあの二人の女性について一つの仮説ができた。同一人物なのではないかと。そしてその正体こそ魁正華改め一ノ木正華なのではないかと。そうであれば…
都比「俺のばあちゃん、死んでなんかなかったってこと⁉︎」
令夏「死んだことにされちゃったって方が正しいかもね」