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「ふふん、勝ったよ」
首筋に滴る汗を手で拭いながら、そいつは勝ち誇った表情をする。
「黙れ、一回勝ったくらいでほざくな」
「まあね、凛ちゃんマジですごい。本当に“かいぶつ”だ」
蜂楽は息を切らせながらも、どこか興奮した様子を見せる。
「でも、楽しくなってきたでしょ?」
蜂楽は問いかけるかのように言ったが、その表情は確信に満ちていた。
凛は小さく舌打ちをする。
あの試合では一滴も出なかった汗が、いつの間にか全身を濡らしていた。
「もう一回だ」
「にゃはは! やろうやろう!」
二人は時間も忘れ、夢中になってボールを蹴った。
蜂楽の脚がボールを空振りしたとき、ようやく周りが暗くなっていることに気づいた。
「今日はもう終わりかあ」
名残惜しそうに蜂楽が呟く。
「もう少しで、五分五分くらいには持ち込めそうだったのにな」
「いってろ、明日の練習後に覚えてろよ。完全勝利してやる」
凛がそう言うと、蜂楽は少し驚いた表情を浮かべ、目を見開いた。
「え、また明日も一緒にしてくれるの……?」
「……っ」
凛は、これから当然のように、蜂楽と練習をすると考えていた自分に驚く。嬉しそうに顔を綻ばせて見せた蜂楽に居心地が悪くなって、目を逸らした。
「楽しかった?」
その問いには、舌打ちをすることで返事をした。
「凛ちゃんのこと、いつも見てたんだよね」
帰りが同じ方向だと言われ、凛は仕方なく一緒に歩くことにした。今にもスキップし始めそうなそいつは、無視を決め込む凛にも構わず、ずっと楽しげに話し続けている。
「今日もさ、待ってたら来るかなって」
その声は、先程までとは違い、少し沈んでいるように聞こえた。
「来てよかった」
静かな夜の街を走り抜けるように、その声は響いた。視線を下に向けると、そこには綻ぶように笑う蜂楽がいた。
「でもそっか、これから部活に行ったら凛ちゃんがいるのかあ」
「お前、またサボるつもりかよ」
「『また』じゃないよ、サボったのは今日が初めてだし」
「は?」
「俺ね、これからずーっとサボろうかなって思ってたんだけど、やっぱりやめた!」
「……そうかよ」
「辞めなくてよかった——だって凛ちゃんに会えたから」
そう言った彼の眼は、月の光が反射して蜜のような輝きを放って揺らめいている。
「……でも明日って土曜日かあ。俺、起きれないかも」
「はっ、子供かよ。ママにでも起こしてもらえ」
「うーん、学校がある日はそうしてるけど、土日だとそれができないんですよねえ」
「結局サボりじゃねえか」
「サボってないよ! だってわざとじゃないもん」
わざとだろうが、わざとじゃなかろうが、するべきことをしてないのだからそれは「サボり」だろう。そう言ってやろうとした凛を、蜂楽が遮る。
「あっそうだ! 凛ちゃん明日の朝、俺に電話してよ!」
「頭沸いてんのか……?」
彼は鞄から取り出したノートに番号を書き、手早くページの端をちぎり取った。
「これ、俺の電話番号だから」
紙切れがポケットに突っ込まれるのを見て、凛は大きくため息をついた。ただ、わざわざその紙切れを取り出して捨てるのも億劫に思えて、小さく舌を打つ。
蜂楽の邪気のない笑い声を聞いていていると、ますますそう感じた。
next.
♡…500
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、、、特になんもいうことないわ
♡よろしくねっ