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朝陽が静かに広がる中、サッカー部の練習は準備運動から始まる。
俺がグラウンドに着いた頃には、既に数人の部員がいて、その中には、昨日、部内を騒がせた糸師もいた。
ヒソヒソと話す声が聞こえる中、誰もその本人に直接声をかけることはしない。
そんな微妙な空気が漂う中、突然快活な声が響き渡った。
「凛ちゃん!」
俺は内心で首を傾げた。
自分たちのマネージャーの中に、そんな名前の人物はいただろうか。もしかしたら新入生で新しく入ったのかもしれない。そもそも、その声を発したのが誰なのか。そんな疑問が頭を過ぎる。
「おはよ、さっきはありがとね」
そう言いながら糸師に駆け寄ったのは、蜂楽だった。
「凛ちゃんのモーニングコールのおかげで、無事、到着いたしやした」
「うるせえ、朝から騒ぐな」
「あっ、このスパイク、ナイギの新モデルじゃん。俺も気になってたんだよね〜」
「話聞けよ……」
親しげに話す二人を見て、『凛ちゃん』って糸師凛のことか、と俺はようやく理解した。
彼らはまるで数年来の友人かのように、蜂楽は笑顔を絶やさずに言葉を交わしている。
「あれほんとに蜂楽廻か?」
振り返ると、そこにはいつの間にか、多田が近くに立っていた。
「昨日、部活休んでたのは宇宙人にさらわれてたからで、あそこにいるのは蜂楽に成り代わった人間じゃない別の生命体……だったりしないよな?」
多田のいい加減な言葉に、俺は肩をすくめた。
ただ、目の前の光景に、信じられない気持ちを抱いているのは俺も同じだった。
「あいつ、笑えるのか」
多田の言葉に頷きながら、俺は蜂楽の姿を見つめた。
一年も同じチームにいて、笑っている蜂楽を見るのは初めてだと思った。
「凛ちゃん、今日こそ負けないから」
「ほざいてないでさっさと着替えろ」
「ほーい、いい子にして待っててねー」
「殺すぞ」
糸師と別れ、グラウンドからロッカールームに向かって蜂楽が歩いてきた。距離が近づくにつれ、蜂楽の鼻歌らしき声が聞こえて、思わず凝視してしまう。
「蜂楽」
名前を呼びかけると、蜂楽は静かにこちらへと視線を向けた。
糸師と仲がいいのか、距離近くないか、なんか態度も違くないか、聞きたいことは山ほどあった。
しかしその瞳は、先程までの陽気さから一変して無感情になっており、その落差に俺は思わずたじろいでしまった。
「糸師と、知り合いだったのか」
「……いとし?」
「いや、呼び名とか、なんか親しそうだし……」
「ああ、凛ちゃんって『糸師』って名前なんだ」
いとし、いとしりん——そう小さく呟いて、蜂楽はなにかが溢れ出るように笑みを浮かべた。
その表情に思わず見とれてしまう。俺は慌てて次の言葉を口にした。
「えっと、中学が一緒、とか?」
「え?」
「ほら、昨日の部活にお前いなかったのに、妙に親しげだから……」
「ううん、昨日が初めてだよ」
蜂楽はそれだけ言って、スっと俺から目をそらした。そして、そのまま俺の横を通り過ぎる。
俺はそれを、ただ、眺めていた。
next.
♡…500
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投稿遅くなってごめんね💦
じゃ(え?)