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シルバとトウゴは、ジュリアを追って中に入った。
調理器具を確保した三人は、家の裏の草地に移り、ゆっくりと腰を下ろした。
水を張った三脚付きの鉄鍋の下に、トウゴはたくさん炭を置いた。火打石と鉄片を何度かぶつけて火花を熾し、炭の近くの杉の葉に点火をする。
炭に火が移ってしばらくすると、鍋の水が沸き立ってきた。
トウゴは、木の大皿上に載せておいたベーコンとキャベツを、手で豪快に鍋に入れていった。傍ら、真剣な顔でしゃがむジュリアは、木の棒で炭を動かした。火の強さの調整だった。
(親子の絆ってやつか。俺が、永久に手に入れられないもの。ガキどもを教え導き、ジュリアには己の情熱を注ぎこむ。今の生活に不満があるわけじゃあないが、やっぱり正直、羨ましい、よな)
親子二人の息の合いように、シルバの胸に感慨が訪れた。だが気持ちを切替えて、二つの大皿を脇に避けた。
五分ほど経つと、液体がうっすら色づいてきた。膝立ちのトウゴは小皿の塩を一抓み入れて、レードルでスープを掬った。
ジュリアはすばやく前屈みになった。顔をレードルに近づけ、ふーっとスープを吹いて冷ます。
「ありがと、ジュリア」
トウゴはレードルに口を付け、味見をした。
「素晴らしい夜に相応しい、完璧な味わいだな。二人とももう食えるぞ。母さん直伝、俺が芸術の域にまで高めたスペシャル・スープを、心行くまで堪能せよ」
レードルから顔を上げたトウゴは、芝居がかった口調で勧めてきた。
「ありがとうございます。では、遠慮なく」と、シルバは、真顔のトウゴを直視して丁重に返した。