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<瞳>
凌太に電話をすると楽しい会話のはずなのになんとなく引っかかるものがあった。
昔の凌太のようで、つい「大丈夫?」と聞いてしまった。
凌太が話してくれるまで待つ?
それとも・・・
ダメだ。まずは寝て明日考えよう。
社内はあいかわらずザワザワとしている。
宇座課長が抜けたからと言って、すぐに誰かが課長になるわけでもなく。
ただ、幸いなのは宇座課長が抜ける事でむしろ仕事が捗る。
「アイツいつかやらかすと思っていたけど、やってた事がエグいわ」
「そう言えば、辞めた人が何人かいたけどそのうちの誰かが毒牙にかかっていたってことだよね」
「奥山さん、めっちゃ絡まれていたけど危なかったですね」
チーム内でのミーティングで当然のことながら宇座の話題はでてしまう。
というか、解雇の理由がもうバレている。
私が襲われて未遂に終わったことは知らていないと思うが、ロックオンされていたのはバレバレだからこんな風に言われるのも仕方がないのかもしれない。
そして、里中くんは今回のプロジェクトが終わるまでは普通に単にデキる新人くんの仮面を被り続けることになる。あの年であれだから後々経営に携わっていった時は良いリーダーになりそうだ。
「セクハラモラハラから解放されて、いちいち難癖つけられることもなく、スムーズに仕事が進むようになったのである意味結果オーライですよ」
「「「確かに」」」
里中くんの一言にみんなが納得して、何より安心して仕事ができるのは本当に良かった。
宇座のことが終わった今となっても、未だにボイスレコーダーを手放せずにいる。
プロジェクトも順調に進んでいるためミーティングも1時間ほどで終わった。
デスクに戻ろうとしたところで里中くんに呼び止められる。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう。今は神経をすり減らすことがなくなってホッとしてるかな。ただ、後始末が大変かも。3時から他の部署の上長達とのミーティングで引き継ぎとか振り分けとかがあるみたいだから」
里中くんは少し遠い目になりつつ「あーお疲れ様です」と言って自分の席に戻って行った。
ランチのチキンとブロッコリーのトマトソースパスタを食べている時、着信を知らせるバイブが鳴り、どうしようかと思いつつ相手を見ると弁護士先生からだ。
一瞬周りを見渡して知ってる顔がないのを確認してから電話に出た。
凌太に話をした方がいいよね。
アドレス帳から凌太の番号をタップしようとして思いとどまる。
昼休憩はもう終わるし、夜にゆっくり話をした方がいい。
セクハラモラハラを訴えるとなると証拠はあるとしても時間がかかる。だから、強制性交未遂罪のみに絞ること、ただ未遂ということで示談金はそれほど取れないというのがざっくりとした話だった。
私としても早く終わらせたいから交渉にも応じてもらっていいと返事をした。
弁護士費用に足が出なければそれでいい。
あの日のことは本当に怖いと思ったけど、もう宇座はいないし、脅されて関係を強要されている人がいることを考えれば私は運がよかったと思うしかない。
それに今は、凌太がいてくれる。
すっかり依存してしまいそうだ。
デスクに戻ると会議で使用する書類をまとめるとバイブでも音が鳴るといけないからスマホの電源を落としてから会議室に向かった。
今まで陰で嫌がらせや邪魔をしていた宇座がいなくなったことでむしろスムーズに進んでますと報告したかったがぐっと抑えた。
上長達とのやり取りは精神をゴッソリと削がれる。
デスクに戻ってグッタリしていると、里中くんが「お疲れさまです」と言ってアイスラテを手渡してくれた。
本当に気が利く!ずっとこの部署に居てもらいたいけど、彼には彼の仕事があるのよね。
まさか、倫理委員会の調査をしてるとは思わなかったけど。
「ありがとう」
「長かったですね」
「宇座課長が関係している仕事の確認もあったけど私も含めてほかのチーフもみんな丸投げされていてその実情説明に時間がかかった感じかな」
「本当にお疲れ様です」
そう言うと里中くんは出て行ったが、きっと総務の方に顔を出しているのかも知れない。
終業時間は過ぎてしまったが、今日は全くと言って仕事ができなかった。
ラテを飲みながらメールのチェックをして必要なものに返信をしてから大きく伸びをする。
残業になっても安心していられるのって本当にありがたい。
パソコンの時計を見ると6時24分
結構早く会社を出られるからどこかで適当に食べて帰ろうかなと考えながらパソコンの電源を落として、書類を引き出しに入れて鍵をかけた。
会社をでてからスマホの電源を落としていたことを思い出して電源を入れるといくつかのメッセージと留守電が入っていた。
凌太からの留守電?
再生ボタンを押したとき背後から女性の声が聞こえた。