おっと、肝心な事を忘れてた。俺の名前は遠野雄二。母ちゃんは遠野美紀子。俺自身は学校の成績は中ぐらいのごく普通の中学三年生。もっかの悩みは彼女が出来ない事と受験。誰に似たのか、俺はあんまり頭良くないんだよな。
俺がトーストをかじりながらテレビのニュースを見ていると、母ちゃんがコーヒーメーカーの容器を持ったまま、食い入るようにテレビの画面をのぞきこんできた。なんか、変に真剣な目つきをしている。
「母さん、何をそんなに真剣な顔して見てんだよ?」
「これ、例の事件の三件目よね?被害者の名前言ってた?」
俺はちょっと考えて答えた。
「いや……東京近郊の中学三年生としか言ってなかったと思うけど。未成年だから名前伏せてんだろ」
母ちゃんは「そう」と言ったきり、黙り込んでしまった。
「なに、母さん、犯罪プロファイリングにでも転職すんの?俺としちゃそっちの方が世間受けがよくなって助かるんだけどな」
母ちゃんは俺の頭をこぶしでこつんとたたいて言った。
「ナマ言ってんじゃないの。それよりさっさとご飯食べなさい。片付かないでしょ」
へいへい。俺は残りのトーストをコーヒーで流し込むと鞄をつかんで玄関に向かった。
「じゃあ、お勤めに行ってめえりやーす」
靴を履いている俺の背中に母ちゃんが声をかけた。
「ああ、今夜はあたし帰りが遅くなると思うから。悪いけど夕飯はどっかその辺で済ましてくれる?」
「了解。じゃあ、行って来まーす」
で、放課後。俺が校門を出ると同じクラスの松田絹子に呼び止められた。
「おーい、雄二。ちょっと来―い」
こいつとは中学三年間同じクラスだが、はっきり言って女の子とか異性と意識しないで付き合える悪友だ。俺は絹子の方に歩きながらいつものように毒舌を吐いてやった。
「ねえ、雄二くーん、来てくれなーい、とか、もっと女らしく言えんのか?おまえは。だからいつまで経っても彼氏できねえんだよ」
「はん! 彼女いない歴イコール人生の長さのあんたにだけは言われたくないわよ!」
絹子が毒づき返す。俺たちの会話はいつもこんな調子だ。と、俺は絹子の横に見慣れない女の子がいる事に気付いた。夏服のセーラー服だが、この辺では見た事のない、妙にクラシックなデザインの制服だ。背中まで伸びた長いストレートの黒い髪。頭一つ俺より背が小さいし、雰囲気的に年下のチューボーだろ。
異様なのは富士山でも登れるんじゃないかってぐらい馬鹿でかいリュックサックを背負っていた事だ。手にはメモ用紙一枚。絹子がそれをのぞきこんで俺の方に顔を向け直して言う。
「ねえ、あんたのお母さんの下の名前何だっけ?」
「え、美紀子だけど」
「じゃあ、やっぱりあんたの家よ、この子が探してるのは」
「へ?」






