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「お見事ねぇ」ベルモットは電話口で言う。「どうも」とバーボン。
運転しながらの電話じゃ、とちらちら周囲を見回した。覆面がいないことを祈る。
「でもちょっと気になったんだけど」
スミスの使ったサイレンサーは海の底だし、消炎反応がでないようーー傘に穴を開けたものをあらかじめ積んでおいた。
最も、それも海の底だし、公安部にきちんと回収させた。
「なにが?」
それだって自分がやるはずだったのに、あの女ときたら……一緒に乗り込んでしまった。
だが、と思う。あのときーー【彼】が見ていたとしたら、自分だけ乗り込み彼女をーー置いていくのはたしかに不自然だ。
「あれ」
スミスは停泊した船に乗る前に指差した。「ブツのにおいがする」
「間違いないだろうな…」にわかに信じがたくて、降谷はじわりと汗をかいた。スミスは降谷にふっ、と笑う。「お魚好きなの」と。
「…」
「バーボン」
「はい」力なく、まるで子供が怒られたような声が出る。
さすがに種類が多すぎて2日では無理だと彼女は言い、やり方を変えた。
魚。肉。慣れたにおい以外のものから見つけ出すなんて…醤油には苦戦していたようすだったが。
「いいわ。迎えにきてくれる?」
「どこへ?」ばたばた、と海風にシャツははためき顎へ当たる。
海辺の貨物庫はシャッターが閉まり、彼女がいるのがどれかわからなかったが。目の前からヴヴン!とバイクが出てきて、まっすぐに向かってくる。
わかる。あの金髪の流れ方でーー
こんこん、と窓が叩かれ、バーボンは助手席を見ずに窓だけ開けた。
「キールを病院へ…」と言わればっとベルモットを見た。
まさかーー
ヘルメットが開く。「なあに?その顔…」
まるで、死んじゃったって聞いたみたいじゃない…
「…っ」可能性はあるだろ、と思ってしまい、じ、と目の前の夕焼けを睨んだ。
「あー」ベルモットは腕をくむ。落胆したように。
「あなた…顔は悪くないけど、実際にはそんなにモテないでしょうね」
「余計なお世話ですよ…」ハンドルを握り直し、きっ、と目だけで助手席を見る。「キールはどこにーー」「普通」とベルモットはヘルメットを閉じた。
「病院へなんて言ったら…真っ先に聞くわよ?具合が悪いのか、って……」
「……!」
「優しくないのねぇ…あなたって…バーボン……」
ベルモットは走り去った。
忘れていた呼吸を、バーボンはしだす。「はっ…」どくどくと流れていく、心臓からの血液を感じて唾を飲んだ。
目の前に出てきたキールが、こちらへ歩いてくる。
勝手に助手席に乗り込み、こちらを見た。
「病院へ行ってくれる?」
「具合が悪いのか……」芝居のようだと感じて、ふっ、と肩が揺れた。
キールは微妙そうな雰囲気を醸し出す。
なにが不満なんだい、君たち、女はいつも。
「血液検査」とキール。とんとん、と自身で腕を叩く。「昨日のあれで、バイクがパンクしたの。わたし、ピル飲んでるから」
「そうかい…」
車が走り出すと2人とも黙っていたが、信号が赤になりーーバーボンはシートベルトを外し、キールのサイドバーを引いていた。
がたん!と車内が揺れ、キールが下で「見くびらないでくれる」低い声をだし、バーボンをぐいと押し退けて座席を戻した。
「盗聴はされてないし、そんなの調べたわよ」
バーボンはまた座席に戻る。信号は青になった。
「昨日の夜」とキール。「アタッシュケースを投げたの、あなたじゃなかった」
「…根拠は?」バーボンも話し出す。
「バカにしてるわけ!?」がん、となにかが鳴り、バーボンはふと目だけで音を見た。なんだ?
「船から船に飛び込んできたとき」キールは早口になる。
「ーー4メートル上の橋の上にいるわたしに!!女が飛びかかってきた!」
髪がなびいていたーー!
がっ!と後頭部を引っ張られ、天井を向かざるを得ない。
「あれは……あれは絶対に女だわ!誰!?そのまますぐ船が橋を通過してまた飛び降りた」
「あぁ…」バーボンはくっくっと笑い出す。キールは気色悪くなって、すぐ手を離す。
「参った……」「なにが」「まるで…」
狐にでも取りつかれているんじゃないのか……スミスーー
垂直に?4メートルだって?
「たしかに……ふっ…くっく……」
「あの女、何者なの?」
追い続けろーー亡霊をなーー
刑事に囁く唇を、バーボンは思い出していた。
「そんなのは……俺が1番知りたいんだよ……キール……」
キールはす、と窓に身を寄せた。
なんだ?気色悪い、と素直に。
「いいわよ別に」
ポイと投げられたスマホに、さっきの音は自分のスマホをがつんとやった音か、とバーボンは思った。
「別に……いずれわかるから…」
あぁ、と病院の中へ行くキールを、力なくハンドルに寄りかかり見つめた。
そうだといい。と。
「お願いします!」園子と蘭が頭を下げているところに、降谷は出くわした。
「…え、と…」スミスはちら、と古谷を見た。なんだ?
「あっ安室さんも!」
「え?」がし、と園子に腕をとられ、なぜかぎくっとした降谷はエプロンが落ちた。
「文化祭でわたしたちっ」
「ヒールダンスするんですーー!」
「ヒールダンス?」
きょとん、とした降谷に、不服そうなコナンが言った。「ポールと。高いヒールをはいて」「男女で踊るのっ!」
はあ!と園子は胸に手を当てた。「これで学校のマドンナはわたしにきまりねっ!」
「だから名前さんと安室さんに協力してほしいんです!振り付けっ」
蘭がスミスの手をとった。
「なぜわたしなのかしら」スミスの顔がこわばる。
「哀ちゃんがねー」歩実が椅子から降りた。「西洋人と東洋人は、歩き方が違うって」「なんでも、西洋人は膝から下を動かして歩くようで」光彦は言った。「東洋人は踵から足をつくからね」
降谷は頷く。「だからっ、ヒールでうまくダンスできそうな名前さんに!白羽の矢をたてたのよっ」となぜか満足そうな園子に、降谷は「待った」と素直にスミスを見た。
できるに決まってるだろ……ヒールダンスかなんだか知らないが、そういう動きに慣れているんだ、この女ーー
とても高校生に見せるような代物じゃ
「…ポールがあれば」とスミス。
「ポールがあれば、動けるけど…」
ああ、だめだだめだーー
「名前さん!お願いします!」蘭は珍しく熱心だ。
「し、新一が戻るかもしれないから!そのとき一緒にできるように…!」
「あはっ。ひろーい!」歩実がくるりとまわる。
「劇団部の部室よー」と園子がいう前には、全員がうつる鏡。とポール。
「曲はあれなの?」車の中で聞いた。とスミス。「はいっ。流行りの歌手だから知ってますよね…」蘭がさらにいいかけて、「でもあの歌の男」
灰原がマスクしたまま、降谷を見上げた。
「最低だけど」
「あ…じゃ、ほら。借りてる時間もあるだろうしはじめようか」降谷は上着を脱ぐ。
「えっと…」と歩実がタブレットを叩く。元太と光彦がのぞき混んだ。
「俺食べ物以外興味ねーよ」
「元太くんたらぁっーー」
「古谷さん、これ」蘭がたたんである服を差し出す。「衣装」「名前さんはこ…」と園子は胸元を見た。
「無理矢理いれるからいい」名前はばさっ、とそのワンピースをもぎ取る。
「そこの彼」と壁の向こうから言われ、光彦は顔をあげた。「え?」「動画を撮るのはよしてくれる」「あ、でも」蘭は食い下がった。「私たち何回も見ないと覚えられないかもーー」
「大丈夫だと思うよ」とじと目のコナン。
「え、昴さん?」
コナンは昨夜の夕食の味噌汁を片手に、ごはんつぶをつけたまま蘭を見た。
「えぇ?」蘭はそれをとり、自分の口にいれる。コナンは赤くなった。
「男子が恥ずかしがっちゃって、踊れる人が足りないの。ダンス部員の男子は元々少ないから…」
「昴さんに協力したの?」
「えぇ」蘭は小五郎の一升瓶をさっと背中に隠した。
「そうよ。だから、わたしは昴さんと踊るの。最も…」と今度は蘭が赤くなる。
「新一が…いれば新一に頼んだけど」
たぶん、参考にできないから。
灰原がコナンを見ている。「なんだよ」コナンは呟く。「べつに」
「あれー?」歩実が首をかしげる。「なんか、音楽かからない」かんかん、と何度もタブレットを叩く。
「ほんとだ」降谷もスマホを見せる。「電波が悪い」
「ほんと」
「ここ、旧校舎だからねぇ」
「あ、でもっ」歩実はタブレットを見せた。「カラオケならかかるー!」
ダウンロードしたの!と歩実は嬉しそうにコナンを見たので、「なんで?」と素直に聞いた。
「あ、だって…」ぎゅ、とタブレットを抱く歩実。
「英語の歌が歌えるようになれば」灰原がポケットに手を突っ込む。
「誰かさんと歌えるかもしれないしね」
「ふうん?」コナンは同じようにして首をかしげた。
す、と出てきた古谷がネクタイに苦しそうに指をいれる。
「わあーー!」園子がぱん!と手を合わせた。イケメンはなにを着てもイケメンなのね!と。
「園子さん、これは少し動きづらいよ。踊るなら、肩のまわりとか、もう少し大きくしたほうがいいかな」
「はい!伝えますっ」園子はうきうき答える。
「なんで動画を撮らないかって」カツ、とスミスが出てきて「うわーー」コナンは聞こえないようにしたが無理だったらしい。「ガキ」灰原がそう言ったからだ。
スミスが着ている白いドレスは、ぴったりとからだに張り付いて線が惜しげもなく出されている。
驚くほどの曲線ーー「セックスしてるときと、踊ったら同じ顔をするからよ。恥ずかしいの」
セッ…と皆は肩を引き締めた。
「せっ…?」歩実は首をかしげてコナンを見るが、「あ、あぁ。とりあえず恥ずかしいんだって。動画はよしたほうがいんじゃないか、光彦……」
「わかりましたぁ」
「あとこれ」とスミスはドレスのスリットに指をやる。
「もっとここまで」と腰の横を指差し、「そ、んなに?」蘭はきょとんとした。
スミスはちら、と降谷を見る。
げ、となぜかコナンも同じ動きをするので2人で目だけを合わせた。
「これじゃ」にや、とするスミス。「足がうまく…開けない」
「あ…」蘭が固まっていたが、「じ、じゃあ」「とりあえず最初は」降谷は口を出す。「アドリブでいいのかな?」「あ?えぇ、はい…でも」
「歌えるから。車内で覚えちゃったよ」
だろ、とスミスを見れば肩をすくめる。イエスの合図だ。
「それでリズムをとるほうが覚えやすいだろ?」
「あ、はい…」
「じゃあ、証明は部員に頼んであるからーー」と離れた位置で園子が言う。
ポールに片足をかけたスミスが頷いた。
コナンにはやな予感しかしなかった。
ふ、と証明が落ち、歩実がタブレットを叩く。
「あなたの心を奪いたいーー」
あなたの心を……
すっ、と明かりがつく。皆息を飲んだ。
「あなたの心だけを……」
スミスはきゅう、きゅ、と鉄の棒を鳴らして、するすると腰を下げていく。
「ちょ…」真っ赤な園子だが、もう遅い。
ぱ、と違う位置の証明がつき、降谷が出てきた。
なぁ、どうしたんだいーー
2人はポールを間に手を合わせてがっ、とスミスは足を降谷にかける。白い太ももがスリットからはら、と見えた。
どこへ行くの…
もう遅いんだ
どうかしたーー
帰らなきゃっていったわ
理由が必要かい、僕のせいだ
そういう男なんだーー
2人は窓を拭くように合わせていた手を握りしめ、ぐる、とポールを一周する。
スミスは手を離し、ほとんど天井を掴み、両足巻いていた降谷をぐ、とポールに押し付ける。
おいおい…と古谷はそれを見上げて内心思う。
本気でやるなよ…。と。
「いったいなぜこんなことに」
歌詞と降谷の声が重なる。
堂々巡りを3週間もーー
スミスはゆっくり下がってくる。
「いっそのこと…」
降谷はスミスの腰を引く。
「別々のほうが…いいのかも……」
ぱっと手を離したスミスがずり、と下がるのを引き上げる。
「きみを愛してしまうまえにーー」
はっ、と蘭が息を飲んだ。叫ぶように歌う降谷に、なにを感じたのかはわからないが、とコナンはそれを目だけで見た。
「きみから離れるよ……」
きゅ、とポールがまた鳴る。ぐる、と軸に回転すると、もう降谷の首の辺りにあるポールは吐く息で白くなっていた。
スミスの首にすうっ、と頬を寄せる。
置き去りにされるくらいなら…
カッ、とスミスは両足を開いて立つ。
ぐい、と降谷の頭を掴み、またぐる、とまわる。
あなたを傷つけてもーー自分を守る…
きみを愛してしまうまえに…
きみから離れる……
2人はキスしてしまうんじゃないかと思うくらい顔を互いの顔を引き寄せるが、なんだか、優しさは互いにないように見えた。
「ここからいなくなってもーー」
あなたの心だけは、欲しいのーー
「ちょ、ちょっとちょっと…」園子はまだ踊る2人と蘭を交互に見る。
「ま、間違えちゃったかも…」
先生。という蘭は、舞台から目を離さなかったが、わなわなと口元に手をやった。
子供らも口が開いたままだ。
「やるじゃない」という灰原に、コナンはそれこそ縮み上がった。
ガタン!と音をたて降谷が仰向けに倒れる。カン!と股がる彼女がゆっくりゆっくりネクタイを引き上げる。
心だけは……
ぎゅ、と握りゆっくりゆっくり引き上げるネクタイに、降谷は「うあ…」と言いかけたが、その顔が歪んで逆さまに見えたので女性陣はひゅいっ、と息を飲んだ。
わざと力を抜いているせいで、余計スミスがーー
「女って、怖いわね?」灰原がふ、と髪を揺らして笑った。
まるで、ゆっくり糸を絡めるようだ。
間奏に入る前に思いきり足を開いたまま腰を下ろす。
音楽に合わせ、古谷の頭を掴み、左右に振り回す。
きみを愛してしまう前に…
(そんなの……)スミスはされるがままの降谷を見て思う。
許さないーー
「きみから離れるよーー」
ここからいなくなっても……
ずずず、とスミスは倒した降谷の上を、片腕でのぼっていく。くい、と尻をあげて、もう片腕と上体ものぼってく。
まるで蛇だ。
「心だけは……欲しいんだーー」
はあーっ!とスミスを息を吸って、降谷の顔に噛みつくように見えた。
(やったな)と古谷が呟いたので、スミスは少しむっとする。
「運命ってやつかい、僕らが振り回されているやつは」
降谷はからだを起こす。
それともーーぐぅっ、とスミスの首をつかんで引き上げる。
「自業自得かい?」
はあ、っと息をつきスミスをポールへ押し付け、尻をつかんだ。
「ひ…」後ろのほうから声がしたが無視した。
いったいなぜこんなことに
すーっ、とスミスがポールをつかもうとあげる手を掴む。ぐる、とポールを軸にまわり、わざとスミスの顔が見えるよう、ぐ、と髪を引いた。「うあ」
別々にいれば、いいのに……
「ねぇ、これっ」蘭が震えている。恥ずかしさからだ。
「なんか安室さん怒ってない?」園子も同じように震えていた。
置き去りにされるくらいなら
はあっ、とポールがまた白くなる。きゅっ!と音がしてスミスは一気に膝の力を抜いた。
がし、と股を支える。
きみを傷つけても自分を守るーー
「んあっ」スミスは素直にからだをポールに押し付けられ、そのまま引き上げられていく。
きみを愛してしまう前に…
きみから…離れるよ……
スミスは後ろに頭を預ける。降谷がそれをのぞき混む。
(きみはーーどこにもやらない)
スミスは見えるように、降谷の頭をばさっ!と鳴らす。
ぐるん、とまたポールを軸にスミスは回され、床に倒れ混む。
「あ」ぐあ、と顔をあげたとき見ているやつらが後ろに下がった。
無理もない。スミスは自分がどんな顔なのかわかっていた。
きみを愛してしまう前に……
降谷が同じように股がる。
きみから……離れるよーー
はぁっ、とした息をつき、スミスがやったのと同じように、頭を掴み左右に揺らした。
同じように片腕ずつ背中を這い上がる。スミスが片腕を伸ばすごとに、掴んで、引き戻す。
「きみの心を奪いたい」
ここからいなくなってもーー
ぐっ!と足を開いたまま腰をおろす。
きみの心だけは……
引き上げられたスミスは、胸をわかりやすく上気させた。
「ほしいんだ……」
キスする寸前、明かりが落ちた。
「やりすぎ」暗い中で、灰原の声がして明かりがつくと、2人は離れて座っていた。
あは…と降谷が頬をかく。スミスはもう呼吸が整っている。
なにも誰も言わないので、「その…」と言う降谷に、ようやく口を出したのは子供たちだった。
「「「エロい!!」」」と。
「だから歩実ちゃんまで…」とコナンは視線を感じ、そちらを見る。
にや、とした灰原に汗が流れる。
「小さな探偵さんには、刺激が強かったわね?」
「な……っ!」
「「全然参考になりません…っ!!」」
蘭と園子が指差す。その指は震えている。
もちろん、恥ずかしさで、だ。
「takeaway」灰原は歩実に言う。「意味を?」とすくめた肩に、歩実はえっと?と天井を見て素直に考える。
「…奪い去る」
「え?」
とても物騒な言葉よ。
灰原はなにか怒っている彼女の圧力に両手をあげる安室を見て、たじたじしているのをじっ、と見た。
渡された紅茶に、スミスは蘭を見上げた。後ろから体育館で、バスケをするシューズとボールが叩かれる音がする。
「…どうも」スミスは受け取り、缶に口をつける。
さあっ、と夜風が流れた。
「あ、歩実も……」と歩実はまったいらな胸元を覗いた。
「名前さんみたいになりたい!」と、横からがば、と見上げられる。
「…どうかしらね」
殺さないでくれーー!
木に縛ったエドワード・グリーンが写り、スミスは自分が持ったペンチの感触を思い出す。
目の前のテニスコートをぼう、っと見つめた。
「でもほんと」園子が首を振る。「逆に新一くんいなくてよかったかもよ?」蘭はさっと赤くなった。
あの日の会話を思いだし、スミスは目の前を見たまま続けた。
「セックスは?」
いっ!と2人の高校生はまた縮み上がった。
「なっ、名前さん!歩実ちゃんと」
いまだなにも喋らない灰原は、くいと飲み物を飲んだ。
こいつは話せそうなガキだ、と思う。
「関係ない」
歩実はまた首をかしげる。
「女だろ。わたしはその年には…」続けそうになって呟く。
いろんなもんを挿れられたんでね……
「え?」
「何度も言わせるの?」からん、とゴミ箱へ缶をぶん投げるスミス。「寝たかと聞いてるんだ」蘭はばっ!と両手を下に下げる。
「っし!新一とはそういう仲じゃありません!」わなわな赤くなり震える女に、スミスは肩をすくめた?
「男と女が?そんな仲じゃない?」
はあ?と口にすると、学生2人はふっとのけぞる。
「ならなんだ?付き合わないと……」スミスは2人を見る。
「いけないのか?」にや、と笑ったスミスに、2人は決める。
絶対に、新一(京極さん)には会わせない……!
「欧米にはね」灰原が喋りながらごみ箱へ歩きだした。
「デイティングって文化があるの」
ころ、と缶を背伸びして転がす。「デイティング?」「そっか。哀ちゃん」
アメリカにいたことあるもんね!と歩実は足を揺らして言う。
風が吹き抜けた。「なぁに?それ…」「複数人の男と同時にデートすることだ」スミスは灰原を見つめる。
この年だ、アメリカにいた記憶などほとんどないだろう……
ないほうがいい。と思う。
「なにそれー!」選び放題じゃない!という園子に、蘭はもう!とぐいぐい腕を引っ張った。
「お互いがお互いに、複数人デート相手がいる。それが普通。知らない日本人の留学生は、よくそれで…」とん、と胸に手をやる灰原。「傷ついてぼろぼろになるわ」
「たしかに…」と蘭は上を向いた。「日本なら、デートする相手はだいたいひとりよね。それに…」はっ、と蘭。「そのあと付き合うもんねー?」と園子がにやにやしている。
「なら」ふー、と灰原は手をあげて、スミスを見た。
「余計…問題ないじゃないか」
スミスも彼女を見つめたまま言う。そのまま立ち上がった。
「男も女も同じだ服を…権力を。きれいな飾りをとれば。脱げば……」
残酷な真実しか、残らないんだよ。
「名前さーん?」歩実が首をかしげる。「え」あ。とスミスは振り向く。「とにかく…相手はガキだ。余計簡単だろ」
「なにがーー」ひゃあ!と蘭は全身を熱くさせて硬直させる。
胸を片方、スミスに鷲掴まれたからだ。
にや、とまたあの笑み。
「いいもんあるじゃないか」耳打ちされて、からだはさらに蘭は強ばる。
「げぇっ!」園子が離した缶が、からからと転がった。口元は悲鳴をあげたいのを押さえている。
「誘惑しろ。か弱く見せて……涙を流して……抱いて、と言え……それだけだ」蘭はびりっ、と耳に電気が走ったようになり、指まで硬直させた。
ぱっ、と後ろ手を振る。目の前を歩いてくる、降谷とーーガキたちにふ、と笑って。
「最もーー武器だと自覚するならなおさら……な」
「まじで!」と元太はもぐもぐしながら顔をあげた。
降谷が自分の持っていた栄養バーをやったのだ。
1番、彼がつまらなそうだったので。
いいな、子供は。素直にあぐらをかいたまま頷く。
女子らがいなくなった部室は静かだった。
「すっーーごかったです!安室さん!」
「えぇ?」と力なく光彦を見る。目がきらきらと輝いていて、思う。
僕みたいには、ならないでくれ。と。
「なんだっけ?」と言う元太に光彦はぐらつく。「セクシーです!」満足そうにふふん、と人差し指をたてる。「色っぽいーー」「性的に魅力的ーー」コナンは古谷を見上げた。
「…名前さんだったから」
あんな顔してたの?
「…あんな…かおって?」
にや、とコナンを見下ろせば、コナンは不服そうに目をそらした。顔が少し、赤い。
そう。彼女は……
イク瞬間のスミスが、髪を振り乱すのを思い出す。
「すっげーな。安室のにいちゃん」
「はい!だから女性に人気なのも頷けます!僕もーー」
安室さんみたいになりたいです!
しん、となった部室で思った。色んな匂いがするな、と。
わたしを恐れる……
墓の前の幽霊のように立つスミスが浮かんだ。
す、と降谷は立ち上がる。「さ、女性は待たせちゃいけないから…行こうか」
一段ずつ、階段を抜かして駆けていく2人。「あぁ、危ないから…」と言ったがもう笑い声は下のほうだった。
「安室さん」
コナンの声を聞きながら降りる。
「屋形船の事件」
「うん」
コツ、コツ、と一歩ずつ。
「爆発物を見つけたんだよね。縄の下から」
「そうだよ」
「安室さんなら、どれくらいの爆発規模かわかるはず」
そうだよ、と再び言う。「船が吹っ飛ぶくらいは…」「じゃあなんで?」
きら、とコナンの目が光った。
なんで名前さんと、爆発物と一緒に船首へ行ったの?
「それはね…なにかあったとき、そばにいないと……守れないじゃないか」
わたしは、わたしはニトロ。苦痛と安寧をもたらす……
「僕はしない」コナンは踊り場で止まった。降谷はそれを見上げる。
シルバーブレッドーー日本の……
「僕はーー僕ならーー大事な人が爆発に巻き込まれるような危険性があるなら連れていかないよ!命をかけたって!」
降谷は目を見開いた。月が出ていた。
「命をかけたって、殴ったって泣いたって、置いていくさ!!あのときーーあのとき……名前さんに守られたのは、安室さん!」
コナンは指差す。
「安室さん!そうなんでしょーー!」
「コナンくん」
「彼女は誰なの?何者なんだーー!」
答えてーー!コナンは怒鳴った。
「答えてよ、ねぇ!!花火が鳴ったとき、僕にはバイクの音が聞こえたよ!安室さん、それを証言してない!おかしいよーー」
ゼローーーー!!!!
びり、とした空気が充満した。息がしづらくて、この空気は吸えない。
コツ、と降谷は背を向けた。「…待たせるよ……みんなを」
「安室さん!!!!」
苦痛と安寧を……
スミスが上から、目を閉じて口づけてくる。
いいんだ、コナンくんーー苦痛を感じるのは……「僕だけで……」目の前を歩いてくるスミスを見た。
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