テラーノベル
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高木はデスクにだらりとする佐藤を見て、後ろにいる白鳥を見たが、手を振られる。いやだ。の合図だ。
「佐藤さん……」
「絶対!!」がば、と頭をあげられ、高木は素直に書類を放り投げた。
書類というか。大量の報告書を。
「仕留めるわ!」
高木に人差し指を向け、佐藤はぎらりと目を光らす。
高木が手をあげたのを、白鳥はふぅ、と息をついてから続けた。
「佐藤さん。上から…」
「関係ない!」ぐっ!とその指が白鳥に指される。
「上ってなに!」
公安でしょ!という声に、所轄は静まり返り佐藤は座る。
公安に言われたからなんだというのーー
きっ、と目の前にはいない……名前をにらんだ。
これでは、マトリの捜査官だって浮かばれない。彼らは命懸けだったはず。
最も、私達だって……。
「でも僕ら、屋形船の爆発物事件から外されてしまったんですよ?」高木が力なく言う。「名字名前さんの件で…」
「そう」白鳥も同じような声を出す。
「むしろ、それが外にでないのも…」
「公安のおかげだって言いたいの…」佐藤は低い声を出した。「いや、そうは言わないが……事実だ。マスコミが飛び付きそうな話題には間違いない。逆を言えばーー」
佐藤は思い出す。公安部、という文字を背にする男を。
「いつだって…リークできるってわけ…」
それで操られると思ってるの…佐藤は呟き、白鳥はデスクに近づき強めに囁く。
「名字名前が公安とつながっているのだって、証拠がないーー!あれはコナンくんの憶測の域をでないんだーー」
「でも実際に、公安がもっていった全ての事件にはーー」
狂え
「全て!彼女が関わっているというのにーー!」叩いたデスクにあるコップが、かたかたと震えているのを高木は見る。
「なぜっーー」
なぜたどり着けないーー!
「佐藤さん」高木の声に、佐藤ははっとした。離れた場所に立っていた。
「…幽霊を」
「は?」佐藤は苛立ちながら聞き直す。
「幽霊を……見たことありますか?」
「なに言ってるのよ?」
だって…高木は目を泳がせた。
「だって…そうじゃないですか。見たと思ったのに、さっきまでいたのに。そうやってるうちに、自分がおかしくなったのかって思うじゃないですか……こんなに……彼女に執着してる。もはや」
「また見たいとすら…」白鳥はす、と佐藤を見る。
追い続けろ
佐藤は椅子を倒す勢いで立ち上がり、「そうかーー!」皆はぎょっとする。ばん!と両手でデスクを叩いた。「わかったわーー!高木くん!」がばっ!と抱きつかれ、高木は固まった。
「はい!?」所轄の目がだんだん冷たくなるのを、高木は感じる。
「わかったわーーわかったの!」
「な、なにが!?」
「佐藤刑事!」
「幽霊よ」
はあ?と今度は男らがぽかんとする。
「幽霊よーー」佐藤は確信に頷きだす。
「幽霊よ、私達はーー」
佐藤は振り向いた。「幽霊を追っていたのよーー!だから!だから見つかるわけがないーー…!」
暗い部屋で、降谷は立ったままだった。
久しぶりに着た警察制服に、違和感を感じながら。
ヴン、という音と共に目の前は青白い光が灯る。
顔をあげる。公安部ーーという文字の後ろで、桜が咲いていた。
敬礼したのは本当に久しぶりだった。
画面から笑い声がした。「やめろ、似合わんよ」「…お元気ですか」
降谷は頭を軽く下げたまま言った。「監理官ーー」
ギイ、と椅子の音がする。
「ああ。いつも画面越しで申し訳ない」
「いえ…」
「直接は会えないのが残念だ」
「…私もです」降谷は顔をあげる。「常日頃報告をありがとう…中国との外交も君のおかげでうまくいっている」はら、となにかめくれた音がした。
「気になっていたが、無事に見つけたようだな」
1,804
「はい」
アメリカからのプレゼント。と監理官は続ける。
最も、国会で答弁するような、顔の知れた人物ではない。【違う】監理官だ。
降谷は顎を引いた。
「彼女は日本国民です」
「ちがう」という言葉に、降谷は息を吸い込む。
「彼女はアメリカのーー」その先が聞きたくなくて、降谷はかぶせた。
「二重国籍です」ですが、と言うために吸った息は吐けなくなる。
「だからだよ…ゼローー」
彼女は兵器だ。
「なぜ彼女を日本に亡命させたと思う?」
降谷はまた下を向きかけたが、目だけは離さない。
「…アメリカとの……」口が動かしづらくなっていく。「友好条約だろ?」舌を出したいほど嫌いな台詞だったが、降谷は我慢した。そんなものあるか。
見られているかもしれないと思った。
平静を装う。
「レディ・スミスーー兵器でなければ、いい女だな」くっ、と笑みを噛み殺す声がする。
「はい」素直に言う。「彼女は公安部の協力者として、こちらで身柄を確保、監理しています」
無論、わたしが自ら。と付け加える。
「だから安全だと?」「ですから、彼女はーー」「FBIがなぜ、スミスを日本へやったか…わかっているだろう」
降谷は黙りこんだが、静かに言った。
「……喧嘩を売るなと言う意味です…そして、自国の…安全確保……」
ん、と深く頷く声がした。
「我々日本は敗戦した。今や国民は忘れているが、アメリカが国内にあるのは負けたから。ただそれだけなんだよ」
それだけ、では。時効にしてもいいんじゃないのかい…
「ではアメリカの死を望みますか、監理官」
国民と引き換えに。古谷は画面を見上げる。「繰り返しますか。核兵器の使用を許すと?無論ーー」と降谷。「あなたが望めば、監理官……」低い声を出した。
「君は…」
「わたしは日本人です。監理官ーー」
「あぁ。気を悪くしたなら謝る。そこまでは言っていない。わたしだって日本人だ。血はもう流したくない」
だが。と監理官。
「彼女がテロリストならどうだ?」
「監理官!あまりにーー」ぶわ、と腕をふってしまう。
「あまりにも……!国民に敬意が見られません!発言をーー発言を慎んでいただきたいーー!」
「降谷。君は…兵器は人間が作るとわきまえているのか」
はっ、と降谷は固まる。
「小学校の教科書にも載っているよ。パーツをつなぐだけなんだ」
パーツ……だと……
降谷はついに、画面を睨みあげた。
喉奥が見えるほど泣き叫ぶスミスの下からーー血が広がっていくーー
「至極簡単だ。降谷」
兵器は人間が人間をーー殺すためにあるんだ。
「それ以外、使い道はないんだよ。それに……なぜ彼女が日本籍とアメリカ籍を残したと?」
「彼女が……彼女がテロを起こす可能性があるとおっしゃるのですか…」
「なくはない。頭のいい女だな、これでは…どちらに転ぶかわからんよ。アメリカは彼女についての全情報は開示しない。当然だ」
テロリストなら、自国に置いてはおけないし、と監理官はまた紙をめくる。
「【プレゼント】ならーー」
紙を破いて……喜んで見せるのが礼儀だろう?
しん、とした室内で降谷はなにも見ていない目で言う。
「23602ですーー」
「ん?」
「彼女は……」
髪がなびく。古谷の顔に当たり、スミスは振り向いた。
「我々が守る日本国民であり、公安部の協力者ですーー我々公安部はーー」
我々は死んでも、彼女を守り抜く…
「それが……」はあっ、と降谷は息を吸い込んで、頭を下げた。「現在ご報告できる……全てに…なります……」
じー、と電子機器特有の虫が飛ぶような音に時間が過ぎる。
震えるな、怒るな、憤るなーー…
頼む。降谷は自分に願っていた。
「わかった。時間をありがとう」
「いえ…」
「ぬかるなよ。次の相手も、わたしの【友人】だからな……」
ゼローー
降谷は顔を上げない。ぶつ、という音がして部屋は真っ暗になった。
「ラ・カンパネラ?」蘭はストローから口を開けた。
「あぁ」降谷はキッチンから言う。「なんか聞いたことある」園子も振り向く。
スミスは横でまた、殺人事件を起こしていてーーなにも言わない。
「リストのピアノクラシック曲だよ」
コナンが口を挟む。
「あぁ!」園子がぽん、と手を叩いた。
「すごいやつか!」
すごいやつーーコナンはずり落ちそうになる。
まぁ、知らなければそれくらいの認識か。と。
作曲家リストのラ・カンパネラ……
「ピアニストでも避けて通りたい、難曲中の難曲だよ」
「それを?」蘭はスミスと古谷を見た。
「そう」とスミスはパンを見たまま言う。
「弾かなきゃなの。だから、あなたたちには」にや、と笑うスミスに蘭は縮み上がって赤くなる。「貸しがある」
「だからピアノを少し借りられるかな?」降谷は言う。「どちらがうまいのか……ブライングテストしてほしくて」
僕とーーふ、とスミスを見た。
「日本銀行頭取ーー織田宏は」と公安刑事は言う。ぱ、と画面が切り替わる。
「隠し子がいます」
「それで?」検討は?と言いたそうな古谷に、風見が続けた。
「それが…何人かは戸籍で調べがついていますが……」
なるほどな。と降谷は顎を撫でる。
「検討はついていますが、何人か」
「全部そうかもしれないじゃないか」と風見を見る。
「いえ…実はーー」
園子ははぁーっ!とからだを伸ばす。「気持ちいいースポーツカーって!」
「園子ねえちゃんち」コナンは少し嫌みそうに言う。「リムジンだからね」
「そうそう」ぱん、とドアを閉めて園子はコナンに肩をすくめる。「あたしあれ、あんまり乗らないのよーー閉塞感あるしーー」
「あれ?」蘭は玄関にいた女子学生に駆け寄った。「今帰り?世良ちゃん」「ん?」あ、と世良もしゃがんでいた顔を上げた。
「ポアロの」「どうも」「と……」世良はスミスを下から見上げる。
「あ」コナンはスミスの手を引いた。
「名字名前さんだよ、新しく喫茶店に入ったんだ…あっちは、世良真純ねえちゃん」
「蘭くんたちとは同じクラスで」と言う世良に、降谷はスミスの肩を引き寄せた。
「そう。さ、遅くなるから行こう」
そのしぐさで理解したらしく、世良はちょっと赤くなった。「な、なんだよ…」見せつけて。とコナンに耳打ちしたので、コナンは乾いた笑いを見せた。
「じゃあ」と音楽室から顔だけ出す降谷。並んでいる全員を見る。「名前と僕、ひとりずつ言わずに弾くから」
スミスは教員室、と書いてある部屋の前にいた。
「よかったほうを…」
皆が頷く。ぱた、とドアが閉まると、鍵までしまって、コナンはそれを目だけで見る。
鍵までしめて……ただピアノを弾くだけじゃないのか?世良を見上げた。ただ頷いている。
教員室が空き、出てきた風見にスミスはピアノを見た。
降谷がピアノに座る。譜面を並べ、風見は横に立った。
「わ」園子が演奏にドアを見る。「リストのラ・カンパネラはーー」世良が言った。「技巧曲といわれるほど難曲なんだ。並みの人間では、半年かかっても半分も弾けないよ」肩をすくめる。
それこそ、才能でもないと、ね。
「(う)」古降谷は顔をしかめる。
ああ、指がつる……風見を見た。す、と譜面を差し替える。
「これ…安室さんだったらさ」と園子。
「あのイケメン、できないことないよね?」と。
「いや」とコナンは首を引く。「これは安室さんじゃなくて名前さんだ」
「どうして?」とコナンを覗きこむ蘭に、世良は言う。
「あとでわかるよーー」と。
ふら、と椅子から立ち上がり古谷はピアノの肘をついてはあっ、と息をする。
「次いくよ」と叫ぶ。風見が座った。
名前が譜面を差し替える係りに変わる。と、風見は首を振った。
まさか……スミスは風見に目を見開いた。
す、と風見は息を吸いーー鍵盤を撫でるように動かし始める。
なにーー降谷はピアノから離れた。目を閉じたままだったからだ。
スミスは譜面を片付け、胸に抱く。
「あぁ」世良は言う。「こっちはまったく…癖がないな」
「え?」わからない、と園子は首をかしげる。「楽器はね」コナンは呟く。
「弾く人の性格が出ちゃうんだよ…でもね、プロはそれを感じさせない。作曲家の意向と離れちゃうことはしないから」
「前のほうが…」
感情的だ。と世良と声が揃う。
スミスはだんだん顔を斜めに引いていく。あぁ、赤くなってるな……と降谷は思った。
風見……と左右に揺れるピアニストを見た。
「その隠し子は男、ピアノを習っており、名前は颯真」の、はずですが。と風見は書類を見る。あぁ、と刑事たちはざわつきだす。なんだ?
「ただ、ピアノを習っていたようで…」
「それなら勘づくかもしれませんが…」
「だからなんだ?」降谷は少し苛立つ。ならピアノを弾かせて様子を見ればいいだけだろ。
「リストの生誕祈年祭で優勝するほどの腕前で」
「そのときは中学生です。神童と」
「無論、優勝しました」
ぶっちぎりで。と誰かが言う。降谷は考えた。
「誰かそれが弾ける者は?」
無論、神童の名にふさわしいほどの。
ざわざわして皆が首を振り合うのが見える。
「わ、わたしは小学生でやめましたし…」
「わたしもです。それに」ぎ、と椅子に落胆したように寄りかかる捜査員。
「ラ・カンパネラなんて……」
「降谷さん、無理です。無論、素人が練習して弾けるようになるには…」
100年かかっても……
「あぁっ!」と誰かがパソコンを見る。画面にそれが写る。
「生誕祭のーー大会の2位は……!こ、これは……」
皆振り向いた。
「ん?」古谷は視線を自分ではなく、隣にいる風見が集めているとわかった。
ばっ!と手をあげる風見。「無理です!」降谷を見る。「わたしはたしかにーーピアノを3歳から習っていましたが、その大会を境にやめたんですよーーもう指が動きません……!」
がっ、と降谷はその出ている手をつかむ。「っふ…!」ブンブン首を振る風見。「い、1ヶ月は、いやもっと……」
「いや」降谷はきら、と目を光らせた。
「1週間だ」
「く…!」盛り上がる場所で風見は口を噛み少し腰を浮かせてペダルを踏む。
音が変わる。上から押さえつけるような力に変わる……
「すごい」蘭はただ言う。「あぁまるでこれじゃ…」
「抱かれてるようだわ」とスミスはふ、と笑った。
「どうやったらこんな強弱がつくの?」蘭は検討もつかない、といった感じだった。
「たぶん、少し立ったり前のめりになってるのさ」世良は前を見たまま言う。
「あぁ、プロってたしかに前後してるよね」園子は頷く。「あぁーー」
からだじゅうで弾くのさ、ピアノは。
「でもなかにいるの、安室さんと名前さんだよね?」
最後の差し掛かりに、風見は本当に苦しそうにする。
これは……とスミスを見た。完全に敗北だ。
ガーン!という鍵盤の音に、ふっ!と息と共にそれを真上に離す。
外から雨のような拍手がした。風見はふら、と立ち上がり頷いて教員室へ戻っていく。
「すごすぎたー!」「鍵あけてー!」
「レディ」という低い声にスミスは鍵を開ける前に肩越しに言う。「えぇ」
すごく……「よかった」にや、と笑う。
この女……
「な、どっちがどっちだったの!?」と園子が入ってくる。「1番最初」す、とコナンは指差す。
「名前さんだよね?」
「えぇ」スミスはあっけらかんと嘘をつく。「カンパネラはね」世良が言って手を開いた。「最大で親指と小指を、このくらい」と思いきり開く。「あぁ、まだ足りないくらいだ」「そんなに開くの?」と蘭。「うん。実際そこ、届かなくて音が外れてた」コナンは降谷を見上げる。
「手の大きな男性じゃないと……どうやってもうまく弾けない箇所があるんだよ」と。
「その点、2番手は完璧だった」
「うん……あと」
「撫でるようだったねぇ」世良が目を細くする。
「なのに最後は、まるで頭を掴むみたいに激しかった…」蘭が顔を赤くする。「あんなに強弱がつけられるのに繊細で淀みがない…優しくて…悲しくて…やられちゃったよ。さすが安室さん」
だよね?と世良は彼を見た。
「じゃあ」降谷は無邪気に笑った。「僕の勝ち、かな?」と教員室をみる。
「ねえ、それをでもどうするの?」
「あぁ。あとごめん、一瞬練習させてもらいたいんだ、いいかな?」と困った顔をする降谷に園子は蘭を見て頷く。
「え、えぇ…2時間くらいなら許可とってるし…」
「ちがうちがう」古谷が言うと、スミスが後ろから出た。
「ポールよ」
がちゃ、と鍵を開けて明かりをつけた部室には数人しか映らない。
「いいかな?内緒だけど…」
「明日部長に言えばいいだろ」世良が荷物を置く。
「っていうか…」とスミスを見た。「今度は…安室さんだけなの?」と。
「てかさ」と耳打ちする園子。「安室さんて、喫茶店以外でも働いて…」「不思議じゃないでしょ、夜のほうがお給料っていいし…安室さんて」
「イケメンだし」コナンはじと目だった。
どう考えてもなにか捜査のあれなんだろうが……と。
「ごめんーー」と降谷が普通にポールを握る。「すごい恥ずかしいな…見られなきゃだめかい」
「でしょうねーー」スミスは離れた場所でいつのまにか、足を組んで座ったままだ。まるで監督。
「あ、あんなダンス2人でしておいて?」と蘭はちょっと目を細める。ん?と言う世良にコナンは首を振った。
「女になってね、透」
「は?」と園子。「あなたは女、安室透」と叫ぶ。
「みんながあなたを見てるーーあなたを……あなたを……」にや、とスミス。「抱きたくて仕方ないーーあぁ、なんて女なんだーー!自分のものにしたい!」
高校生は皆、一歩下がる。
「って、いうふうにしてね」にこっ、と笑うスミスは首をかしげる。
「な、名前さん…」
「たぶん無理。入れたことしかない男にはね」ふーっ、と彼女が真顔で言うので、コナンは彼女をただ見上げた。
音楽がかかる。す、とポールに足をかけた降谷に、スミスは叫んだ。「それは【ナニ】といっしょなのーー!そんなふうに扱ったら、ただ痛いだけよ」いっ…!と世良とコナンは縮み上がる。
やばくねぇか?
え、うんでも……
「はいはい!」と同じように叫ぶ降谷。
無理だろ、と。んなもん自分のしかさわったことがないし、とスミスを見る。
指をひとつずつおりたたんで握る。
きゅっ!と音を立てて上を見上げる。
しゃがんでいきながら、また怒号が飛んだ。
「もっとからだを押し付けて!ちゃんと誘惑してよーーそれじゃ勃たない!」
こんにちはーー降谷は歌い出す。
あぁ、最悪な監督だ、と思った。
あなたと…踊りたいのよーー
フフフフ、と怪しげに笑って見せる。そういう歌なんだよーーと引き下がる高校生に思う。ごめん。
「立ち上がってポールを軸に離れて」
きゅっ!と同じ動きをする。もう汗だくだった。
「ポールダンスはな」世良が小さく言う。「かなり体幹が必要なんだ。あとは」「からだの柔らかさ」コナンは舞台から目を離さなかった。
男女はからだの筋肉のつき方が違う。腰からあがってくるようなウェーブも、男性には厳しい。
「ゆっくりまわるーー」
灯りが落ちるたびに……あなたと踊りたくなる……「胸元張って」遠くに行きたくなって……「逆回り」公衆の面前で…
見えた安室の顔に、高校生らは「ひ」あまりのーー「えっろ」世良だけは素直だった。
「手を伸ばす!」
わかりやすく愛を見せて……
まるで…ふたりきりで部屋にいるみたいにするのーー
「繰り返す!片手は後ろ!!」
夢中になっちゃおうか?
みんながいる前でーー
「腰あげてーー」「んっーー!」降谷は瞼を震わせる。
盛り上がっちゃおうか……
「張り付く」
見られっぱなし…
にやぁ、とする。
コナンは思った。安室さんて、スイッチあるよね、確実に。と。
あれはもう、仕留めるときの……
蘭が真っ赤で口を押さえていたのが気に入らなかった。
ぐるん!と蛇みたいにポール前に出てくる。
やらしいことして、みんなが写真を撮りっぱなしで言うわ…
人混みから聞こえるのーー
ばたん!とからだを前に倒す。
「もっとーー」髪を振りあげた顔に皆がはっ、と息を吸う。
「もっともっとーー…!」
ずるずるとからだを後ろへ戻し、背中を後ろから手で登らせる。
もっとーー
スミスをす、と見る。黙ったままだ。いいんだな、と。
「もっともっともっとーー…!」ポールをなであげながら立ち上がる。
「あなたは抱かれてるのよ透!叫ばないでーー!」
あぁ!くそくらえ!ちっ、と舌打ちしてしまう。
ちょうだいーー!ちょうだい……ちょうだい……
「うわっ」と高校生らは天井を片手で掴み、ばっ!と手を伸ばして「ふっーー」ポールにしがみつく彼を見た。
ちょうだいーーって声がね…
きゅるきゅるとまわり降りてくる。
注目の的は……ば、と立ち上がり肩越しに、あの笑みをする。
いい気分でしょう……
「ね、ねぇ」園子が目を離さないで言う。「あ…安室さんて…男……だ、よね……?」「な、なんでわたしたち」
ドキドキしてるのよ……と。
「性別っていうのはね」と世良。「日に日に変わるって言われてるんだよ」「え?でもーー」
「男の中に女もいるし、女の中に男もいるんだ…あの人、まるでそのスイッチがあるみたいだ」
抑えられないのーー
がば、と顔が逆に向いてきて、また皆縮みあがる。「だから…」
ぐるん!と頭をまわす。
もっとみたい?ならーー
「見せてあげるーー」すっ、とポールを挟んだまま腰をおろす。
ちょうだい
がたん!と床に仰向けに倒れる。
ちょうだい、ちょうだいちょうだい!
すーーっと足で挟んだままのポールにからだを引いていく。
ちょうだいーーもっとよーー!
小さくなっていく音楽に、降谷はよれよれ立ち上がった。息があがって仕方ない。
これは重労働だし、なにより見られているのはたしかにかなり……なんだか品定めされてるみたいで、気分が…
「あ…」丸めた背中で舞台下を見る。
「きっ……」うわ、とコナンは耳を塞ごうとしたが遅かった。
「きゃあぁぁああああーーーー…っ!」
コメント
2件
いつもどうもありがとうございます♡キーボードが涙で見えないです。また来てくださいね♡
ああ…終わった(?) 今回も最高だった!次も楽しみにしてるね~♪