無事…いや、無事ではないのかもしれないが、あの美人な警察官をゲットした。
『多分俺のことは売れないだろう』と思った上で口説いたわけだけど、流石に話しすぎたのではないか?と頭が冷めてきた今判断できるようになった。
どうしよう……これは紅上に報告したほうがいいのか…?
いや、もしも殺人が警察にバレた時に俺だけ捕まらないようする目的が紅上に悟られるかもしれない。
黙っているほうが身のためだ。多分。
ただでさえこんな状況で気が沈んでいるというのに、紅上はまた死体を燃やしにいくんだと。初めて人を燃やした時のトラウマがあれからずっと染み付いている。あまり思い出したくもない。
多分今回も俺は見張り役だろう。直接見ることはないにしろ、俺の近くでまたあんなことが行われていると思うとやっぱり気が気でない。行きたくねぇ。
まぁぼやいていてもどうしようもない、嫌々立ち上がった東本は手短に黒のパーカーを羽織り外へと足を踏み出した。
紅上の家に着くなり「遅い」とでも言うように冷たい目線が刺さる。「すまんすまん」なんて思ってもない謝罪で返しつつ車へと乗り込んだ。
今に思えば暗い夜道に車が一台だけ走っているってのも怪しい気がしてくる。昼にやるわけにもいかないんだけども。そういえばキャンプ場の場所変えたんだっけ?などとぼやっと考える。
移り変わる景色を眺めながら少しでもこれから死体を燃やす事実を頭から抜きたくて、適当なことを頭で考えてしまうのだ。
そんな少しの抵抗も無情に切り捨てられ、車がキャンプ場に停まる。
車のトランクからブルーシートを取り出しながら紅上は
「今日もお前は見張っていろ。人が来たら前と同じように知らせてくれればいい。」と俺に命令し、それからガサゴソと車から必要なものを取ってキャンプ場の奥へと消えていった。
さてさてまたやってきました、1人で待機ターイム。
真夜中のキャンプ場付近を歩いている市民は居ないだろうし、いたとしたらそっちの方が不審者だ。俺らも不審者だけど、この時間に通るとしたら前みたいに警察なんかの巡回ぐらいだ。
スマホを適当にスクロールして、たまに周りを見渡す。ただそれだけの時間が過ぎていく。
パーカーだけ羽織って出てきてしまったから、今思うとクソ寒い。風が吹いてきて、体をブルっと震わせた。
紅上の車からなんか持ってくれば良かったか……頭の中で紅上の車を描く。
流石金持ちって感じの黒い車で、こうやって死体を運ぶためなのかトランクは広い。人3、4人は運べそうだ。座席もふかふかで座り心地は言わずもがな最高。それだけ広くて高い車を所持しているにも関わらず、あいつの車はゴチャっとしている。今日だって死体を出す時にガサゴソなんて音を鳴らしていた。
今日ってそんなに死体があったっけ。
あんまりこういう時に死体だとか燃やすとか考えたくないが、こういう時に限ってそういう考えが浮かんでしまうのが人間なはず。
話を戻すけど、俺が知っている限りで燃やすのは2人…矢部ほのかと、漣斗さんが殺した殺人の目撃者である松崎信也。そのときの田中愛奈の死体は回収する前に通報されてしまったから回収できていないと聞いてた。
だけど俺の記憶だと紅上が車から取り出していた死体は3人分くらいあったような気がする。
通報もされていたし、警察とかそっち系の人に死体は持ってかれたはずだよな。紅上がこのタイミングで別の殺人を犯すとも考えられない。
どう考えたって、”警察から田中愛奈の死体を奪い返した”という結末がしっくりとくる。
紅上の家が裏で色んなものと繋がっていることぐらい俺も知ってたけど、警察に回収された死体を奪い返すなんて膨大な力があったのか?
漣斗さんだったらきっと奪い返した時に俺にも知らせてくれそうだ。きっと紅上が回収したとしても何か一言はくれる…よな、多分。
残された可能性としては紅上の親なんかもありえる。可愛い末っ子がお願いしたら……みたいな。
――それか、紅上のもう1人のお兄さんなんていう可能性もないことはない。
『2人兄がいる』とこの前ぼそっと言われたような覚えがある。一度も会ったことがなければ話を聞いたこともない人物だけど、漣斗さんみたいなブラコンだったらあっさり協力してくれそうだ。
と1人考えを巡らせていた時、スマホがブブブッと音を鳴らす。
『燃やし終わった。そっちへ向かう。』
ホーム画面の通知にそう映されていた。
それからすぐ紅上は戻ってきた。
車へ入ると下がっていた体温が徐々に温まるのを感じる。
俺は気になっていたことを紅上へと投げかけた。
「今日は何人燃やしてたんだ?」
「3人だ。矢部ほのかと、田中愛奈、その目撃者の3人。」
やっぱり、3人だったのか。尚更疑問が深まる。
「え?田中愛奈の死体は回収できてなかったんじゃなかったっけ」
「そうだ。より正確に言えば、そうだったと言った方が正しい」
ということは、警察から奪い返したという考えは間違ってなさそうだ。
「じゃあなんで死体が――」
そう言いかけている途中で、「知りたいか?」とその言葉が遮られた。
車に座っている関係でその表情は伺えない。
車のエンジンの音をBGMに、なんとなく好奇心が湧いた俺はその話を聞くために耳を傾けた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!