︎ ︎︎︎︎︎ 『 ドス黒い感情を愛と呼ぶ。 』
⚠️usに乱暴なプロポーズをして欲しいなと思ったのが事の発端。そこから思い立ったら即行動で描きました。
※展開ハチャメチャ・急に始まって急に終わる・ただただ黒い※
「……怠。」
短く息と共にそう吐き出した長身の男__キヨは最近の”悩みの元凶”を床へ投げ捨てた。そう、彼の悩みの元凶とは「いや、普通に犯罪だろ」って思うほどのストーカー行為。隠し撮りが投函されるのは当たり前、最近はそれに加え相手の精液・髪の毛・食べ物等々が同封され始めた。どうも面倒くさいソレに頭を掻き毟る。警察に言ってもいいけどその後面倒だしな。でも外歩くだけで舐め回すようなジメジメとした生温い視線を感じるのはもう懲り懲りだった。そんな中、助け舟を出してくれたのは彼の友人__牛沢だった。
「隈ひでぇな、ちゃんと寝てんの?」
「んー……ゲームに没頭しすぎて。」
「馬鹿。寝ること優先だろ。お前寝るの好きなくせに。」
「だとしても、だよなー。」
「どう足掻いても”だとしても”には収まらねぇぞ。」
「ちぇー。」
「拗ねるとこ間違えてるし。…ま、取り敢えず寝れるなら寝ろよ。」
元々よく面倒を見てくれていた牛沢は時折こうしてキヨと夕食を共にすることがあった。キヨもキヨで牛沢を兄の様に慕い、甘えきっていた。そんなキヨは牛沢とのこの時間によってストーカー行為を忘れ去り凝りきった肩を休めていた。
蝶番が音を立てては扉が閉まる音がする。一戸建てで一人暮らし…いつ侵入されてもおかしくない──実際物が無くなっていたし既に侵入されている可能性があるが──この空間に戻ってきた途端ぴり、と空気が張り詰める。即座に靴を脱いで安全地帯…基リビングへと足早に身を引いた。
「ッ……、」
キヨは目を見開いた。窓の外から貼られた写真。それは牛沢の顔に罰印が書かれており、その隣にキヨの写真。「僕だけの女神。誰にも渡さない。此処に来てくれれば彼は許す。」なんてご丁寧に住所と共に書かれている。キヨに対するこのような仕打ちは慣れっ子だったが牛沢の写真を貼られていたのには驚いた。流石に牛沢に迷惑かける訳には行かないと思ったキヨは踵を返し玄関へ向かった。それと同時になるインターホン。ひゅっ、と息を飲んだ。何故かドアを開けるとストーカーが居るような気がして、でも開けなければならないという使命感があって、それでもこの先は危険だと脳が警鐘を鳴らす。震える唇を隠すように片手で口元を抑えればもう片方の手をドアノブに掛けた。
ガチャ…キィ……__
「…キヨ?」
「うっ…し……」
見覚えしかない顔に安堵を覚えてはその場にへたりこみそうになった。口元を覆った手はずるりと力が抜けたように垂れ下がった。
「……で?これは何?」
「エットー…、ワカリマセン……」
只今、牛沢尋問会が開かれております。それもそのはず、明らかにおかしいキヨの様子に牛沢は首を傾げるも吃りっぱなしのキヨに痺れを切らし家に乗り込んできた。そして見つかったあの写真。牛沢はしばらく立ち尽くせば無理やりチェアにキヨを座らせ、ローテーブルを挟み牛沢も腰を下ろしただただ冷えきった目でキヨを見てはこの言葉。勿論、ストーカーのことなんて知らないキヨは目を泳がせながら曖昧に答える。長く大きい溜息を吐く牛沢にびく、と肩を跳ねさせては思わず牛沢に目を向けた。それが合図だったように牛沢が立ち上がった。キヨは防衛本能でコンマ単位で立ち上がっては牛沢から距離を取ろうと1歩引いた。そんな様子も何処吹く風。牛沢はズカズカとキヨと距離を詰めれば空いてる部屋に突き飛ばす。運良くその部屋は寝室でベッドに身を沈められる。馬乗りになった牛沢は狂気染みた目をキヨに向けた。その様子に本格的にまずい、と息を詰まらせた。インターホンと同時になり始めた脳内の警鐘は强間違いじゃなかったな…、なんて関係ないことを考えていれば乱暴に頬を捕まれ視線を支配される。
「なぁ、誰なの?」
「知らな…い」
「本当に知らないんだな?じゃあ俺が徹底的に調べあげて其奴をこの世界から消し去っても困んねぇんだな?」
「っ……何言って、」
「好きなんだよ!お前のことが。こんな下衆い事をしてお前と近付けてると思ってウハウハしてる馬鹿みたいな能無しとは別なんだよ。俺ならキヨを幸せに出来る。俺ならキヨをずっと笑顔にしてあげられる、なぁ、なぁ、!振り向いてくんねぇのかよ!こんなストーカーに悩まされてお前から笑顔が消えていくのがどれだけ辛いことか、増してやお前に精液も送り付けてたらしいなぁ?」
「ッ……なんで、そのこと…」
「お前のことなら全部知ってる。心配しなくていいぞ…お前のことは、ちゃんと護ってやるからな……」
キヨは背筋を凍らせた。言ってもないことを知ってる彼に、狂気に満ち溢れた声色と目とは打って変わって優しくキヨを抱き締めるその行為に。キヨは何も言葉が出ないままはくはくと口を開閉させた。
「俺ん家に暫くは居ろ。流石にここまで来れば心配だ。」
「……、」
反芻しても尚処理しきれない言葉たちに何も考えず頷くことしか出来なかったキヨ。それを見て満足気に微笑んでは再びキヨを抱き締め首筋に顔を埋めた牛沢。そんな2人はこの日、この時から同棲生活を始めた。
牛沢は寝起きが弱くぽわぽわしたままキヨに抱き着き朝ごはんを待つ。キヨはそんな牛沢をいつも通り頭を撫で顔を洗っておいで、なんて促す。漸く言うことを聞いた牛沢は歯を磨きに洗面台に立つ。するととある事に気がついた。
(……歯ブラシない。)
はて、と首を傾げては「もう毛羽立って居たから捨てたっけな」なんて自己完結し、新しい歯ブラシを取り出し歯を磨いた。出来たよー、と廊下に響く声に短く返事をしては愛しき人が待つ部屋に足を進めた。
今日は少し変わったことがあったもののそんな日々を繰り返していた。
同窓会に赴く牛沢を見送ったキヨは1人のんびり映画やドラマを見て一人の時間を楽しんでいた。そこで少し気になることが脳裏に過ぎる。
『この部屋は入っちゃダメ。動物たちが居るから驚くと大変。』
なんて言い付けられてきた部屋についてだ。アニマルセラピーも兼ねて会いたいと言っても頑なに拒否され続けたその部屋を今になって気になり始めた。牛沢が不在の中、ペットへの餌は誰が担当するのか、そう思ったキヨは考えるよりも先に動いていた。扉の前にたったキヨは何故か酷く鼓動を早くしていた__緊張していたのだ。初めての部屋に入る興奮と緊張、そして秘密という背徳感。様々な感情に襲われキヨは少し息を荒らげていた。
ガチャ……
「……は?」
キヨは目を瞬かせた。可愛らしいペットが居ると思ったその部屋に生き物の気配がない。その代わり真っ暗な部屋に廊下から差し込んだ光が照らしたのは数も分からないほどの紙……否、写真だった。キヨの体は固まった。まじまじと見詰めて見ればその写真は全てキヨだったのだ。そして机に置かれた瓶やケースの中に入れられた無くなったキヨの私物。思いもしなかった光景に冷や汗が背筋を伝った感覚を覚えた。
「あーあ、見られた。」
「ッ……!」
背後から聞こえた低い声に肩を跳ねさせた。キヨよりも小さい背丈の彼だが圧やらなんやらはキヨよりもあった。背の高い身体を縮こませ防御態勢に入ったキヨは目を瞑った。これから来る悪夢に備えて___。
悪夢とは本当に酷いものだった。忘れもしないあの夜…思い返すだけで身を捩ってしまう。そして誓った──誓うまで辞めなかったから仕方なく頷いた…という方が正しいが──言葉。
「うっしーに、、ぜんぶっ、あげる、!あげるからっ、ごめっ、なさ、んぁあっ!!」
「俺の言う通りになる?従う?」
「したがっ、したがう、したがいま、っんう、!」
……
キヨの肌が粟立つ。身震いしては忘れようと首を振った。そんなキヨが今立っているのは己の家。久しく来た自分の家に懐かしさを感じる。そして閉ざされた扉、家に人を招くことは少なかったが来たとて誰も入れなかったこの部屋の扉を久しく開けた。キヨはニヤリと口角を上げた。
電気を付ければ壁にびっしりと貼られた牛沢の写真、そして棚に並べられた彼の私物──彼が失くしたと言っていた歯ブラシも勿論キヨの手中にある──に目を細めた。牛沢の言う通り名前が消えたあのストーカーは元からキヨに気があった同級生でその好意に気付かぬ振りして優しく対応して居ればストーカーになった男だ。これもまぁ、牛沢に振り向いてもらうためである。彼が牛沢の存在を知ったことと牛沢もキヨのストーカーだということには驚きが隠せなかったが。
「……俺のもの」
ぽつりとそう呟いては1番お気に入りの写真に口付けを落とす。そして1枚ずつ丁寧に剥がして行く。……そう、この家ともお別れなのだ。今日からは牛沢の家で生活を共にする。そしてキヨは念願の牛沢のものになったのだ。それはもうルンルンに家の片付けを進めた。