コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
強烈なガンマと雷龍で疲弊し切っているみんなを連れて守護の国へ行こうと提案は出来なかった。
「ヤマト……行くんですね」
「うん。カズハさんが心配だ……」
雷の神ロズさんがいたとしても、国外に出た禁忌を犯して魔力はかなり減ってしまっているはず。
未だ謎の氷魔法のホクトも未知数ではあるが、やはりこのガンマ戦を見る限り危うい気がしていた。
「それなら、光剣を渡しておきます。万が一……」
僕は、アゲルの言葉を遮って光剣を受け取った。
「一人ででも逃げろ、だな」
「本当に……お願いしますよ……ヤマト……」
そして、いざ向かおうとしたその時、
「ヤマトくん、守護の国へ行くのか……?」
僕の足を止めたのはヴェンドさんだった。
「ルビーが心配なんだ……俺も行っていいか……?」
魔力は殆ど残っていないはずだけど、心配になってしまう気持ちはすごく分かる。
僕は二つ返事で答え、二人で守護の国へ向かった。
「ここが中央の騎士団本部です」
僕は一番見覚えのある騎士団本部へと神威で飛んだ。
しかし、戦闘の音は全く聞こえなかった。
「……って……え……?」
一緒に着いて来たヴェンドさんは、
「ねー! 何ここ! どこだよ!」
子供になってる!?!?
ど、ど、どう言うことだ……?
守護の国で何が起こっているんだ……?
「やっと来た」
そこに現れたのは、
「剣豪ホクト! よかった、普通だ……!」
剣豪ホクトは子供になってはいなかった。
「ど、どうなってるんだ? これは……」
「私にも分からない。ただ、一緒に来ていた雷の神は消えた。岩の神もいない」
「それじゃあ……龍長は……?」
すると、無表情で指を差す。
「え……?」
他の子供達と遊んでいる中に、確かに龍長カエンの面影を感じる子供が一人混じっていた。
「カエンも……子供になってるのか……?」
「そう。争いは起きてない」
よく周りを見てみると、大人は誰一人いなかった。
僕と、ホクトだけがありのままで、神の姿はない。
「やっと来たようじゃな、異郷者よ」
僕を待っていたかのような物言いを見せ、不躾にも欠伸をしながら横たわっていたのは、寅の仙人ディムだった。
「ディムさん……! リオラさんは……」
「この国に入ると子供になってしまうからな。巣に置いてきてある」
ディムさんは子供になる原因を知っている……。
「あの……この国では何が起きてるんですか……?」
ディムさんの口からとんでもない言葉が放たれる。
「龍長カエンの仙術魔法 神螺によるものじゃな」
「カエンの…… “仙術魔法” ……?」
頭を整理したい。
仙術魔法は、ディムさんやガロウさんのような、僕と同じ異郷者が生み出した七属性のどれでもない魔法。
会得するには、僕みたいな異郷者でなければ不可能。
行き着く答えは……
「龍長カエンも…… “異郷者” ……」
「そうじゃ。ようやく分かったのか」
ディムさんは今更感のように話しているが、”龍長” と呼ばれるからには、この世界の人間だと思う……。
でも、そう考えると繋がることは数多くある……。
「取り敢えず、子供のカエンは無邪気に遊んでいるし、無害であれば……この国は問題はないのかな……?」
「それはどうでしょうね……?」
僕の背後から現れたのは、今まで見てきた龍長カエン。
「うわあ!!」
「人をバケモノみたいに……そんなに驚かないでくださいよ」
いつもの調子だが、殺気はない。
戦う意志がないことはなんとなく分かった。
「これは……一体どうなっているんですか……」
すると、ハットを脱いで空を仰いだ。
「私も困っているんですよ、ヤマトくん。この龍長である私ですら、惑わされてしまった……」
惑わ……される……?
龍長カエンの言い草に、嫌な予感が過ぎる。
次第に、守護の国を覆うように、黒い影がどことなく地面を覆い始める。
「黒幕のお出ましですよ、ヤマトくん」
そして、次から次へと、自由の国にいた、アゲル、カナン、セーカ、アズマ。
風の神ヒーラさん、炎の神ゴーエン、水の神ラーチ。
龍族の一味である、フーリン、ルークさんまでもが、全員困惑した表情を浮かべて守護の国に送られる。
「カエン!! これは一体どうなってるんだ!!」
「ヤマトくん、まずは覚悟を。もしまた会えたら、全てお話しましょう。どうやら、私よりも恐い思想を持った人たちが何やら企んでいるようですので……」
そして、まさに一瞬の出来事だった。
みんながゾワゾワ黒い地面から出て来たかと思えば、辺りは真っ暗な空に荒野が広がっていた。
ーー
「な、なんだ……ここは……」
「 “もしまた会えたら” が早かったですね……」
「龍長……カエン……!」
僕の側にいたのは、龍長カエンだけだった。
「ここは……どこなんですか……」
カエンは、辺りを見回し、僕に向き合った。
「どうやら、私たちは辺境に飛ばされたみたいですね」
「辺境……?」
そして、僕を鋭い目付きで見遣る。
「ここは “冥界の国” 。闇の神のいる、地獄です」
「地獄……」
僕はその言葉に、唖然としてしまった。
しかし、そもそもアゲルからは七神に会うと言う旅をさせられている訳だし、ここには来ることになってたはず。
問題は、一緒にいるのが龍長だけと言うことだ。
「異郷者、あなたは、天使族から名前を付けられたはずです。普段呼ばれない方はなんて言うんですか?」
え……ヤマト・エイレスと名乗れ……だったか……。
全く下の方を名乗る機会がないから忘れてた……。
「エイレスです……」
「エイレス……なるほど。エイレスくん、ここでは上の名前は絶対に名乗らないでください」
「どうしてですか……?」
「魂を取られてしまうからですよ……。本来、地上の国々であれば必要のない名前を渡しておいたのは、この冥界の国へ来るからだったはずです。まさか、天使族もこんな形で来ることになるとは想定外だったでしょうが」
そう言うと、カエンはふふっと笑った。
「あ! カエンさーん!」
すると、遠くから見覚えのある金髪が手を振ってきた。
「げ……」
正体は、嬉々として駆けてくるルークさんだった。
「やあ、無事で何よりです。ここではあなたはルーフと名乗ってください」
「ええ、なんでですか……。ルックとか……ルクとか、変えるにしても他にあるのに……」
「あなたは伸ばし棒がないと、あなたらしくないですよ」
何やら緊張感のない話を二人は繰り広げているが、ルークさんも冥界の国のルールは知っているようだった。
「やあ、異郷者くんも揃えてね! 君はなんて名前?」
「エイレスです……」
「エイレスくんか! いやー、俺、エイレスくんに敗けちゃったんですよねー! 今度は協力して、この国から脱出しないとだね!」
なんなんだこの二人は……緊張感がなさすぎる。
しかし、恐怖心に包まれるよりかはマシに思えた。
どうやら、二人の目的はこの国からの脱出。
その為には、僕たちで争っている場合ではないようだ。
「そう言えば……カエンさんはそのままなんですね……」
「えぇ、私には名前がなかったので。私の名付け親は、エイレスくんのパーティメンバーですよ」
カナン……!
カナンが名付け親だったのか……。
名前の語感とかすごく似てると思ってはいたが……。
暫くすると、藁の住居がちらほら見え始めた。
「家がある……」
「地獄と言っても、国ではありますからね。住んでいる人は皆さんまともではないでしょうけど」
そう言うと、またふふっとカエンさんは笑った。
「まずは闇の神を探さなければなりません。家の人たちに聞き込みをしましょうか」
こうして、僕と龍族の一味二人の、理解し難い冥界の国の巡りが始まるのだった。