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fw「めっちゃうまかったな〜」
『ね! まぐろフェア最高だった』
akn「ほんまに。ピックらぼんめっちゃ当たったし」
店を出ると、外は群青や紺を通り越して真っ暗だった。
こっちが近道なんだよね、と、明那と顔を見合わせて入った路地は、街灯が少ない。
空に浮かぶ満月が、私たちの影をつくっている。
私たちが行った店には、食べ終わった皿の枚数でガチャを回せる
ピックらぼんというシステムがある。
景品は月替わりで、今月はかわいくデフォルメ化された動物のキーホルダーだった。
ネコは明那に渡した。
帰路の今も、その話をしているところだ。
fw「実はな、菜央ちゃんめーっちゃ驚くかもしれんけど……」
と、ふわっちさんが切り出す。
ネコのかわいさについて熱く語っていた明那は、続きを察したようで
「え! その話……いやまあ菜央ならいいか」と呟いた。
「菜央、めっちゃいいリアクションしそう」
『え、なに? すごいハードル上げるじゃん』
fw「俺とアキナも景品になるんよ」
『え!?!!?!?』
慌てて手で口をおさえる。夜なんだった。
明那は「やっぱり」と言いながら、げらげら笑っている。
『ピックらぼんの!? なんで!? あ、だから今日ついて来てくれたの!?』
視察的な!?
声を抑えて尋ねる。
fw「んや、今日来たのとは全然関係ないけど、ピックらぼんの景品やね。」
「俺とアキナと、他にもいるんやけど、配信者とコラボみたいな」
そういえばこの人たち配信者なんだった と、すとんと飲み込む。
夜だったのを忘れていたのと同じように、二人が私とは違うことを忘れていた。
そのくらい楽しい時間だったから。
『なるほどね……これもうファンは知ってるの?』
fw「俺は昨日告知したけど、アキナはまだやんな?」
akn「したした。今日、5限終わったときに」
そうかこの二人にはファンがいるんだ……
と、自分で言っておきながら、その単語の重みに心がぐらつく。
なるほど。なるほどね。
頭で唱える。何回も。そのうち、ぷつりと言葉が途切れて、
そうすれば、その言葉が本当になっているから。
ふわっちさんに、ぐい、と顔を覗き込まれる。
行き道は明那分の距離があったけれど、帰り道は私が真ん中になっていたのだ。
少し、どきりとする。
『っえ、』
fw「菜央ちゃんに、俺を当ててほしいな」
微笑みが近い。
え!? と、私がのけぞると同時に、明那が私とふわっちさんの間に入った。
akn「はいふわっち営業禁止〜〜〜〜」
fw「んはは、ごめんごめん」
akn「俺が真ん中歩くから。菜央はこっち歩いて」
もう……営業ってどの営業なんですか……
出るまで食べ続けろってこと……?寿司屋の回し者……??
と、わあわあ言いながら明那に従う。
『あの……ふわっちさんって……』
fw「うん?」
『ホスト?』
fw「うん!よぉ分かったなあ菜央ちゃん」
そのやりとりを聞いた明那が「いやマジでおもろい」と笑う。
月に照らされた明那のメッシュが、一瞬、一筋の光のように見えた。
『二次会したいなぁ……』
ぽつりと私が呟くと、二人は「二次会?」と繰り返した。
『私の家とかでさ』
fw「菜央ちゃんの家?」
akn「だーめ。まだスーパー開いてるし、そこ寄って俺んちで飲むか」
そして、夜がもう少し続くことが決まった。