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「 No.1ホストと幼馴染」 ― ya × et
ゆあんくんが店を辞めてから、部屋の空気はがらりと変わった。
夜に煌めくスーツ姿も、甘い香りのシャンパンタワーもない。
代わりにそこにあるのは、くたびれたシャツに、コンビニのビニール袋。
「ただいま……」
玄関に立つ彼の声は、少し掠れていた。
前みたいに華やかで堂々とした姿じゃない。
でもえとは、その声を聞くだけでほっとする自分に気づいていた。
「おかえりなさい。今日も遅かったね。」
「……ああ。バイト先、シフト増やしてくれって言われてさ。」
ホストを辞めたゆあんくんは、夜の世界での稼ぎを一気に失った。
生活のために始めたのは、飲食店や配送のアルバイト。
前みたいに“お金を気にせず遊べる”毎日は、もうどこにもない。
それでも、えとには彼の背中が少し頼もしく思えた。
派手さは消えても、こうして必死に生活を繋いでくれているから。
だけど――ふとした瞬間に、不安はよぎる。
ある日、疲れてソファに沈んだゆあんくんが、ふっと呟いた。
「……なぁ。俺、ホストじゃなくなったら……価値なくね?」
えとは思わず顔を上げた。
「そんなこと、思ってたの?」
「だって……稼げねぇし、カッコよくもねぇ。ただの男だろ、俺。」
苦笑する彼の横顔は、どこか影を落としていた。
胸がぎゅっと締めつけられる。
えとは迷わず彼の手を取った。
「私は……ホストのゆあんくんが欲しかったんじゃないよ。」
「……」
「夜の光の中で誰にでも笑うあなたじゃなくて。泣いたり、弱音吐いたりする……“本当の”ゆあんくんが欲しいの。」
しんと静まる部屋で、その言葉は真っ直ぐに響いた。
ゆあんくんの目がわずかに揺れ、ゆっくりとえとを見つめる。
「……お前、強ぇな。」
「強くない。……ただ、ゆあんくんが必要なだけ。」
彼は小さく笑って、ぐっとえとを抱き寄せた。
体温が重なり合う。
夜のネオンよりも眩しい温もりがそこにあった。
これからの生活は、きっと楽じゃない。
お金で困る日も、すれ違う夜もあるだろう。
でも――手を離さなければ、きっと大丈夫。
「……俺、ちゃんと守るから。」
「うん。私も一緒に守る。」
二人の声が、薄暗い部屋に小さな光を灯した。
現実は甘くない。
だけど、確かにそこには“本物の愛”が息づいていた。