私たちは謎の箱から出てきた白い欠片を、呆然と眺めていた。
そんな中、最初に口を開いたのはエミリアさんだった。
「――神って、いたんですね……」
「……え?」
それは、思い掛けない言葉。
生涯を信仰と共に生きようとする彼女の口から、まかさそんな言葉が出てこようとは――
「……あ! 違いますっ!
そういう意味ではなくて……っ!!」
「……え?」
私はつい、同じ言葉で聞き返してしまった。
「もちろん、神の存在は信じていますよ! それは絶対です! いないわけが無いじゃないですか!
……でもその存在は、どこか抽象的な、概念的な、そんな感じで伝わっているんです。
だからこう……こんなにも具体的なものとして、目の前にあるのが信じられなくて……」
確かに神様の骨なんていう代物、混乱してしまうのも無理はない。
そもそも神様に骨なんて……いや、人間のような姿をしているのであれば当然あるんだろうけど――
……骨。
普通はそこまで、連想がいかないというか。
「――それに、ですよ?」
「はい」
「『神の骨』……というのであれば、その神はどうしたのでしょう?
既に亡くなられている……。神が亡くなる……? そんなことは、あり得るのでしょうか……?」
例えば腕だけ斬り飛ばされて、その骨だけがこの世界に残されている……とかもあるかもしれない。
そうすれば神様本人は生きているし、骨だけが人から人へと伝えられている、ということも、もしかしたら――
そんなことを考えながら、鑑定結果を改めて確かめてみる。
──────────────────
【神の骨・肆】
第四神の骨。
聖遺物のひとつ
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……読み返したところで、やはり捉えどころのない説明文だ。
もう少し詳しく鑑定をしてみても、これ以上の情報はまったく出てこなかった。
アイテムとしての格が高いためなのか、はたまたその希少性のためなのか。
レベル99の鑑定スキルでここまでの情報しか得られないのであれば、そもそもこれ以上の情報は存在しないのかもしれない。
「――でも正直、このアイテムがどういったものかは分かりませんよね。
今のところ、世界は上手くまわっている? ……のでしょうし、神様が死んだなんてことは無いと思いますし……」
実際のところ、神様どころか、その眷属の竜王も、さらにその眷属の竜でさえも、私たちはまだ会ったことが無い。
もしかしたらこの『骨』は、ルーンセラフィス教が信仰する以外の神様のものかもしれないし……。
……まぁ、今の時点では何とも言えないか。
「とりあえず貴重そうは貴重そうなので、アイテムボックスに入れておきましょう」
白い欠片を手に取って、それをアイテムボックスに入れる。
「「え?」」
「え?」
突然、ルークとエミリアさんに驚いた顔で見られてしまった。
「あ、あれ? アイナさん、平気なんですか?」
「え? 何が……?」
「さっきアイテムボックスに入れようとして、失敗していませんでしたか……?」
「……あ、そういえば……?」
ルークの指摘を受けて、二人に驚かれた理由を把握する。
いつものクセでアイテムボックスに入れてしまったけど、さっき試したときは失敗していたのだ。
……とりあえず収納スキルを使った右手を開いたり閉じたりしてみるも、特に何が起こるということも無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
──────────────────
【封印】
魔法効果の一種。
内包物への接触が認められた際、抵抗値を得る。
他の封印に対する抵抗値を得る
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「――もしかして、これかなぁ……?」
今までの情報を確認しながら、不明だったものを鑑定で調べていくと、ようやく原因になりそうなものを発見できた。
「『他の封印に対する抵抗』……ですか」
「はい。収納スキルもある意味では封印のようなものじゃないですか。
特に時間が止まるレベル50以上なら、封印される……本人? からでは、どうしようも無いですし」
「時間が止まってしまえば、そもそも動けなくなりますからね。
……ということは、最初は骨の方に抵抗されたのではなく、箱の方に抵抗された……ということですか」
「一瞬、骨が意思を持ってるのかと思っちゃいましたよ。
仮に神様のものだったとしても、骨が意思を持ってるっていうのは……ちょっと怖いですからね。箱の方で良かったです」
「あはは……。
うーん、それにしても、骨……。……やっぱり気になるので、明日にでも図書館で調べてみたいですね」
「図書館に、何か分かりそうな本はありますか?」
「期待はあまり出来なさそうですけど……うーん」
「でも今まで、こんな話は出てきませんでしたし、慌てなくても問題は無いような?」
そもそもこれを気にするのであれば、他にもそういったアイテムはあるのだ。
『疫病のダンジョン・コア』やら『神魔の書・漆』やら。ここら辺の、意味不明に強そうなアイテムたち。
前者は錬金術の触媒になってくれるから助かっているけど、後者は未だに意味が分からないものなんだよね。
……ん、あれ?
そういえばこの本の鑑定結果って――
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【神魔の書・漆】
第七神が創造した魔法を記した書。
魔法暗号文字によって記され、誰も読むことができない
※付与効果:情報操作Lv98
※付与効果:呪いLv10
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「わっ? アイナさん、これは……あ、メルタテオスで押し付けられた本の鑑定結果ですか」
「はい。これの説明文にも、神様のことが書いてあったなって思い出して」
『神魔の書・漆』は第七神の魔法を記した本。
『神の骨・肆』は第四神の……骨?
でも、本の方は『聖遺物』とやらでは無いようだし、いわゆる本当に本なのだろう。
これを見る限り、第七神も死んでいるか生きているかは分からないけど……。
そんなことを考えていると、壮大な神話を垣間見ているような気がしてきた。
ただ、気にはなるけど私には関係が無さそうだし――
「……よし、忘れましょう!」
「「え!?」」
私の提案に、二人は驚いた。
「これが何かしら危険なものだったとしても、私が持っているのであれば大丈夫ですよ。
私はそんなに、ガツガツしていませんし」
「そうですね……。
仮に世界征服ができる力を持っていたとしても、アイナさんは放っておきそうですもんね」
「……それは信用なのか、何なのか……」
「あはは♪ でも実際のところ、これが本物だとしても……アイナさんとルークさんは、特に関係がありませんよね。
わたしの場合は信仰が関係するので、色々と気にはなりますけど……」
「確かに。……さて、それでは綺麗さっぱり忘れましょう。
――1、2、3……はい! 忘れました!!」
「は、はい……。忘れました!」
「アイナ様、私も忘れました!」
ルーク君。そんな真面目に報告するのも、何だか違和感があるよ?
……ってまぁ、それは置いておいて。
「――ところでアイナさん、何故か天井に穴が空いていますね」
「本当だ。……何ででしょうね?」
天井の穴があるのは、今しがた忘れたものが原因だった気がする。
しかし原因を忘れたとしても、残念ながら結果は残り続けるのだ。
……はぁ。
さっさと穴は埋めておかないと……。
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