長らく更新出来ておらず申し訳ありません。
knkzです。🔞ではありませんが、匂わせる描写はありますので、苦手な方はお控えください。
『』叶
「」葛葉
叶side
時刻は昼の1時。朝昼兼用の食事をとり、心地よい眠気を感じながらソファにもたれ、なんとはなしにテレビを見る。海水浴に訪れた家族連れを背景に女性リポーターが笑顔で話している。
リポーター「海に来るとやっぱり夏を感じますね〜」
・・・海かぁ。
元々海にめちゃくちゃ行きたいかと言われればそんなこともない。人混みもすごいし暑いし海水で髪も肌もべたべたするし。
でもなぜか今の僕は海にいる自分の姿を想像していた。もちろん1人ではなく、葛葉と。
葛葉はまだ寝ている。もうしばらくしたら起きてくるだろう。
そんなことを思いながら重くなってくるまぶたを半分くらい開けてテレビの画面を見つめていた。
ガチャ
「・・はよ」
寝起きの低めの声がする。まぶたを上げて振り向くと、Tシャツを着て大あくびをする葛葉がいる。
『おはよ、くーちゃん』
ドカッと音がするくらいの勢いで僕の隣に座る葛葉。顔はまだ眠そうだが手にはアイスを持っている。
「・・あつそーだな」
葛葉の目は画面に向いている。海水浴場のことを言っているのだろう。
『ね、でも見てたらちょっとだけ行きたくなるかも』
「・・人混み嫌いなのに?」
『うん、でも行ったら暑いーって文句言いそう』
「じゃあ行くなw」
『・・涼しくて混んでない海があればいいのに』
「・・・」
そんなのねーよとつっこまれると思っていたら、珍しく考えこんでいる様子の葛葉。アイスをくわえて床に視線を落としている。
「・・夜?とか」
『夜?』
「深夜の海なら、混んでねーし多少は涼しいんじゃねーの?」
・・・
葛葉side
数日後、俺たちは珍しく車に乗っていた。あのまま勢いでレンタカーを予約し、今こうして海沿いの暗い道を走っているのだ。
「なんか悪いことしてる気するw」
『わかるわ、今何時?』
「1時。朝の。」
『やばw』
叶はそう言いながらもいたずらっ子のように目を輝かせて運転している。叶がこの顔をする時は決まって本気で楽しんでいる時だ。
叶side
『この辺でいったん降りてみる?』
車のドアを開けると生暖かい風が頬をなで、磯の香りが車内に舞い込む。
「うわっめっちゃ海の匂い!」
葛葉はそう言いながらくしゃっと笑う。
足元がアスファルトから砂浜に変わり、サンダルと足の隙間に砂が入り込む。
「叶こういうの嫌なんじゃねーの?」
葛葉がニヤニヤしながらこっちを見る。
『今日はいいよ、どうせ海に足浸かるし。』
ザザー
夜の海は本当に静かだった。人っ子1人おらず、広大な海を照らす月の明かりだけで、地上と海の境界線も曖昧だった。
「叶、この辺いいじゃん」
葛葉はそう言い、後で足を拭く用のタオルを砂浜に置くと、いそいそとサンダルを脱ぎ始める。
そんな葛葉を笑いながら僕もサンダルに手をかける。
「つめてーー!!」
声のした方を見ると葛葉は片足を海につっこんでいる。
『待ってよ葛葉』
僕もそういい追いかける。夏なのに海の水は確かに冷たい。足首まで水につかりながら僕は沖の方を見つめる。
月が海面に反射しキラキラしつつゆらゆらとゆれている。
『・・綺麗』
気付けばそんな言葉が口から漏れていた。
パシャパシャ
激しい水音がして振り向くと、えらく遠くの方から葛葉が走ってくる。
「見ろ叶!カニ!」
左手に小さなカニを持ち、 嬉しそうにこっちに来る葛葉。
僕は笑いながら葛葉に近づいた、時だった。
「うわっっ!!」
『えっ?!』
葛葉の足が縺れ、僕の方に倒れ込む葛葉。僕は咄嗟に抱えたが、もともと海の中なのだ。バランスを崩しそのまま僕は後ろに尻もちをつく。
バシャン!!!
「かなえっごめん!!大丈夫か?!」
『びっくりした、、下が砂だしそんな痛くないや』
「ごめん、服まで濡れちゃって、」
『いいよ、誰もいないし。ところでカニは?』
「あっ、、カニどっかいった」
コケた時に咄嗟に離したのだろう、いなくなってしまったカニをきょろきょろと探す葛葉。
『・・葛葉、あの』
「なに?」
『ちょっと、どいてもらってもいい?』
後ろ手に尻もちを着いている僕に覆い被さるように膝をついている葛葉。
「・・・」
『・・葛葉?』
ぱっとどくかと思ったのに、意外にも動かず僕の顔を見つめる葛葉。葛葉の大きな瞳に月の光が反射しあまりに綺麗で吸いこまれそうになる。人間離れした美しさにやっぱり葛葉は吸血鬼で人間じゃないんだなと思い直す。
ちゅっ
『・・え?』
僕が驚いたのも無理はない。あの葛葉が急にキスしてきたのだ。こんな状況で。
僕は恥ずかしさと驚きで葛葉から視線を逸らしてしまう。葛葉は何も言わずにさらに僕に体重をかける。
『葛葉、待って、葛葉ってば!』
僕は倒れそうで焦って声を出すが葛葉はお構い無しだ。
『うわっ!!!』
僕は耐えきれず、上半身を両肘でなんとか支えた。背中も濡れてしまうが妙に水温が心地良い。
『なに、してんの、』
あからさまに動揺する僕を一瞥して、葛葉は月の光に目を向ける。
「・・お前、月似合うな」
『・・え?』
「・・・」
『・・・』
普段の照れ屋な葛葉はどこに行ったのか。夜の海が彼から羞恥心を奪ってしまったのかわからないが、目の前の葛葉はこれまでにないくらいじっと僕の瞳を凝視する。
「叶、、」
葛葉は優しく僕の名前を呼ぶと僕の首の後ろに腕を回す。僕はだめだと思いながらもゆっくり力を抜き、完全に海の中に横たわってしまう。浅瀬なのでもちろん顔までは浸からないものの、髪も濡れ頭の後ろに水の冷たさと葛葉の肌の温かさを感じる。
月の光に照らされる整った葛葉の顔を眺めながら僕も口を開く。
『・・葛葉も、月似合うよ』
僕のその言葉を皮切りにどちらからともなくキスを重ねる。葛葉の白い首からしたたる水滴が月に照らされ、この世のものとは思えないくらい綺麗だった。
どちらも息がもたなくなり、顔を離す。
『・・葛葉も横になれば?なんか気持ちいいよこれ』
「・・やだ」
そう言いながらもごろりと隣に横たわる葛葉。
葛葉side
なんでかわからないが自分からキスしてしまった。月に照らされる叶があまりに綺麗で美しくて、気づいたら海の中で押し倒してしまった。怒られるかと思ったが意外とそんなこともなく、叶は海の中で横たわっている。叶に言われて俺も横たわってみると、たしかになんとも言えない心地良い冷たさを感じる。
「・・これ寝れるな」
『寝たら明日には沖に流されてるよ』
「やば」
『ふふ』
「・・なんだっけ、海と月って書くヤツ」
『くらげ?』
「・・お前海も月も似合うから海月でいいじゃん」
『やだよ、どうせならもうちょいかっこいいヤツがいい』
「あーそんなわがまま言うやつはこれから海月に刺されまーす」
『えっやだ!!!!』
バシャっと水音を立てて勢いよく叶が起き上がる。
俺も笑いながら身体を起こし、水を含んで重くなった服を絞りながら砂浜に戻る。
『あーあ、服どうすんのこれ』
「・・車に着替えある」
『えっ?持ってきてたの?!』
「うん」
『こうなるってわかってたのか、葛葉のえっち』
「ちげーよ!濡れたらやべーなって、レンタカーだし、、」
『ふふ』
葛葉が持ってきてくれていた2人分の服に着替え、足とサンダルも洗って車に乗り込む。
時刻は3時を過ぎたところだが、まだ暗い。
乾ききらない髪をかきあげながらハンドルを握る叶をぼーっと見ていると、
『帰ったら、続きしようね?』
そう言い叶はちゅっと軽く口付ける。
俺はとんでもないことをしてしまったと思いつつ、半分期待している自分に気づく。そんな気持ちを誤魔化すように窓を開けて外を見る。
顔に当たる潮風がなぜか行きよりも優しい気がした。
おしまい
コメント
1件
このシリーズ全部みてます!!続き楽しみにしてます