テラーノベル
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「遅くなっちまった…」
店を出ると、辺りは既に日が落ち暗闇に覆われていた。
数日前にものもらいになり、右目に眼帯をしていて視界が狭まっていた。
街頭のない道に入ると、月の出ていないこんな夜は闇の中を歩いているようだ。
途中の階段は気を付けて降りなければ、足を踏み外してしまいそうになる。
手すりがないこの階段は、壁に手をついて降りるしかない。
歩き慣れているはずのこの階段も、視界が窄まれると別世界に感じられる。
それはまるで奈落の底に落ちて行くような錯覚に陥ってしまう。
同時に嫌な記憶を思い出させる…。そんな深く先の見えない闇にでも落ちて行くみたいだ。
「早く帰らねぇと…」
急ぐ気持ちが足を取られ転びそうになり、その場に尻をつく。
怖い…。
急激に襲われる恐怖心が忘れていた過去を呼び起こす。
どこまでも続く闇の底は果てが見えず、彷徨い続けていたあの時の自分と重なる。
本当の気持ちを隠し、周りを騙し、自分を偽り仮面をかぶり、ただ息をしているだけの毎日だったあの頃。
この闇から光が射すことなど諦めかけていた当時の自分は嘘をつくことなど当たり前になっていた。
ありのままの自分ので生きられたらどれだけ楽なのだろう…と何度思っただろう。
息が詰まる場所から逃げ出したくて仕方なかった。
だから、地元に逃げて来た。
逃げたところでなにも変わらないとわかっていたのに。
なのに…
暗闇の底から光が射し込んだ。
「湊さんっ!」
シンだ…。
諦めかけた自分に一筋の光を与えてくれた。
信じる事を教えてくれた。
偽りの糸を切って本来の自分と向き合う覚悟をくれた。
ただ、唯一の光。
湊に駆け寄り手を差し伸べてくれる。
「遅いから心配で…」
そう言って湊の手を取るシンは湊を照らす光。
もう、自分からは逃げないと誓ったただ一人の真実。
「帰ろう…俺たちの場所(いえ)に…」
湊は、シンの手を握った。
暗闇の階段を2人で降りて行く。
あの場所(いえ)で、シンと一緒に生きて行くために…。
【あとがき】
ある、歌詞になぞって書いた作品です。
完全なる記録用です…笑
2025.2.18
コメント
8件
記録用のお話もとても素敵です💓 シンは湊さんにとっての光ですね✨
素敵ですね💕︎ シンは湊さんのヒーローですね(*^^*)
素敵ですね🥹✨ I will be thereという曲の歌詞ってことですか??🤔