「ねぇ。オレ、今日どれだけ胸痛めたと思ってる?」
あまりの自覚の無さに思わず透子の身体を掴んで、顔を覗き込む。
「ごめん・・・」
「わかってる?」
「うん・・・」
オレだってこんな小さなことでこんな必死とか馬鹿みたいって思うけど。
でももう透子のことになるとどんなことでも必死になって余裕が無くなってしまう。
「ホントは違うってわかったからよかったようなものの・・・。これからオレ以外の男の存在は認めないし許さない」
だからこの気持ちを透子にも押しつけるのはどうかとも思うけど。
でも透子にもちゃんとわかっていてほしいから。
「いや・・そこまで大袈裟に思わなくても・・・」
だけど案の定素っ気ないいつもの反応。
「は?大袈裟とかじゃないから。現にそういう話になるってことは、その時飲み会とかそういう場が多かったってことでしょ?」
さっきの話聞き逃してないから。
飲み会やらめんどくさいことって、多分そういうことだよね?
オレが想像したくないやつだよね?
「あぁ。うん、それはまぁ。元々私そういうのあんま得意じゃないからそんな行かないしさ」
「そういう問題じゃないでしょ。実際は合コンとかそういう感じのもあったんじゃないの?」
「あったような・・なかったような・・?」
何?それで誤魔化してるつもり?
「・・・あったよね?」
誤魔化して逃げようだなんてそうはいかない。
そこはちゃんと問い詰めないと。
「あり、ました・・・」
「はぁ~。だよね?」
すると透子は素直にそれを認める。
だけどそれを認めると同時にモヤッとするオレの感情。
この時ばかりは認めてほしくなかったような気もするけど。
「でも、ほらだから今はそういうの行ってないし!」
「行ってたら困る」
今行ってないのは当然でしょ。
今誘われたらなんとしてでもオレが阻止してやる。
だけど過去の透子は阻止出来ない。
ていうか、正直透子の気持ちはどうでもいい。
きっと呼ばれて仕方なく行ったのとかもあるだろうし。
だけど、そこに無防備に行って狙ってる男どもがいたって思うと、それを想像するだけで耐えられない。
そんな時間を透子と過ごしたと思っただけで・・・正直羨ましい。
現にオレも昔はそんなことしまくってたわけだし。
そこからのお持ち帰りとかその場の流れの関係とか、まぁなくもなかったし。
だからこそイラつく。
オレがそういう場の雰囲気や流れをよく知ってしまってるだけに。
男どもがそういう時どんな目で見てるのか、どんな対象で見てるのか、そこに気持ちなんてなくて、ただ軽いノリだけのあれこれも知りすぎてるわけで。
透子はもうすでに大人だし、分別わきまえてちゃんとしてたとは思うけど。
オレが今まで出会った軽いノリの女達とは一緒だとは思わないけど。
でも、正直昔の透子を、オレが出会う前は当然、出会ってからも全部は知らない。
オレが昔遊びまくってたように、透子にもそういうことあったかもしれないし。
いや、オレ程酷いもんじゃないだろうけど、でも押しに弱い透子だから、そういうの流れでもあったかもしれない。
それは透子が言わなければ何もわからない。
割り切った付き合いをしてたら、それは多分きっと口にもしない。
オレがその時のことを思い出しても思い出せないくらい。
もし、透子にもそんな過去があったのかもとか思ったら・・・。
「もうほらこの年齢だから誰も呼んでくれないしさ~。全然その心配はしなくて大丈夫だから~」
「は?透子は行きたいの?」
呼んでくれないとか何?
呼ばれたら行くのかよ?
ほら、そうやって呼ばれたら行っちゃうようなタイプでしょ?
きっと今までに透子はこういうこと何度もあったんだろうな。
だけどきっと透子は自覚がないからいろいろ気付いてなかっただけ。
「いや!行きたいとかじゃなくて、そもそも誰も相手なんてしないだろうしさ」
だから相手にされたら困るんだって!
その言い方だと相手してほしいように聞こえるし。
なんだよその自覚の無さ。
なんでそんな簡単に考えてんだろ。
「はぁ~。だから、なんで透子はそうなの?」
なんか心配通り越してつい呆れて溜息が出る。
「そんなの透子が行ったら男ども全員透子狙うに決まってるでしょうが」
「え?なんで?そんなのあるワケないじゃん」
「透子わかってる?透子がどれだけの高嶺の花かってこと」
「あ~!もうそれやめて!ホンットに自分で自覚がないからそれ言われてもむず痒い!」
「え?それ本気で言ってんの?」
「え?本気だけどなんで?」
「マジかぁ・・・。それは余計心配だわ・・・」
高嶺の花だと思ってそういう部分安心してたけど、案外危なっかしい人だったとは・・・。
これ逆に心配しかないやつでしょ。
「逆に透子が高嶺の花だと自分で自覚しててプライド高くいてくれる方がよっぽどよかったわ・・・」
そういう女には大抵男は苦手意識があってそこまでアプローチはしてこない。
高嶺の花ほどの相手なら仕方ないって、大体の男はそこで諦める。
だけど透子は逆にギャップがありすぎる。
高嶺の花だと思って、いざ近づいてみたら、思ったよりもハードル低くて隙があるのがすぐバレる。
そうなったらどうなる?
逆に男はそんな女を落としたくなる生き物なんだよ。
なんでそんな自分を手軽な感じにしちゃうかな。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!