テラーノベル
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「久しぶりに会ったんだ、少し外に出ようぜ」
久々。…それはそうだ。
国は持ち場を離れる訳にはいかないから、会えるのは年に一度。以前は俺の都で集まっていたが、少し前から金の都に集まることになっている。
ここは都にするには寒い。周りの国と寒い寒いと言いながら門をくぐったのが数日前のことだ。
出迎えてくれた金からは「お前は寒いのに慣れてないだろ」と幾つか上着を貰った。それをざっと被り、男二人街に出る。他の国は用事があるようで、誘ったのだが断られ、手をひらひらと振って送り出してくれた。
…逃げやがったな。
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「やはりこの都…」
言いかけた時、金はそれに被せるように、
「似てるだろ。お前のところと。」
と言った。
少し頷けば金は続けた。
「初めてお前の都に行った時から、こんな感じで作りたいと思っていた。」
「何故…」
理由など、既に分かっているのに聞いた。
「人が賑わって夜でも明るい。俺は昔からそんな街見たこと無かったからな。」
髪の毛をくるくる弄りながら金は言う。昔は言葉も通じないながら見るもの全てに興味があるような、まるで子供のように振舞っていたのを思い出す。
今ではこうだが、前はもっと素直なやつだった。
…少なくとも遼と俺を殺すまでは。
「かつての俺の都はどうなっている?」
「一応残っている。」
一応という言葉に引っかかるが、ひとまず形は残っていることに安堵した。川のほとりにあるのだ、河に沈んだりでもしたら大変である。
しばらく他愛もない話を続けたあと、金は少し止まって「ここで待っていろ」と地面を指さした。
犬みたいに扱うな、と心の中で呟く。
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それにしても人の数こそ劣るが似ている。
街の風景や雰囲気、人も。開封の設計図が全てあいつの手に渡ったのだ。それを考えると当たり前か。
漢人もいるにはいるが訛りが強く、あまり聞き取れない。それに、この都に行き交う人は殆どが他国の人間であり、元より何を言っているのか分からない。そのため、買い物や人との会話は全て金が行っている。
そんなことを考えていたら金が戻ってきた。
両手に何かをもっている。
「やる。」
「何だこれは…」
食べてみれば分かる、と言うので食べ物だろう。ここでは人通りが多いので路地に入る。
包み紙を開けると中は餅のようなもので色々中に挟まっている。
…そういえば、朝から何も食べていなかった。
礼を言い一口食べる。
金はそれを観察するかのように見て「美味いだろ」と笑った。
「ああ。」
否定はしなかった。寒空の下、街に出ている身であるので、温かいものは何でも美味しく感じる。
あっという間に食べ終わると金と目が合う。
「少し歩こうぜ。色々話したい」
「室内でも出来るだろう」
「…つまらないやつ」
ぐっと腕を引っ張られる。
先を行きたい子供が母親の手を引くようだ。
時折触れる手は手袋越しながら温かい。
振りほどく調度良い理由が見当たらないのでそのままになった片手は寒空を撫でる。
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街路を少し抜けると城内を通る川に出る。
掴まれていた手がパッと離れる。
さあさあと緩やかな音を立てて流れる川は、頬に当たる突き刺すような北風とは別の世界を生きているようだった。
「そういえば、お前は寂しくないのか?」
「…は?」
変な声が出る。
「いや、ここに都を移すあたりから人との距離が遠く感じてな。お前もそんな感じなのかと思って。」
「別に何とも思わないが。」
と述べると、金は期待はずれだと言わんばかりの顔を見せ、川面に目線をずらした。
───くだらない価値観で俺とお前を一緒にするな
喉まで出かかったが、やめた。言ったところでどうにもならないし、今は言い争うほどの気力はなかった。
「なら、昔に戻りたいと思うか?」
「…そう考えているように見えるか」
ムッとした顔。俺は大して金の事を知らないし、これからも知ることはないだろう。
それならこの「無関心」を貫くほかなかった。
「…国というものはそういうものだ。時は戻らないし、間柄も1度変わったら元には戻らない。」
これは国と民というよりも、国としての「俺」と「お前」にも言えることだと思ったが、果たしてこいつに伝わっているのかは分からない。
「…だよな」
分かっているのか分かっていないのか、俺には区別がつかない。どちらにもとれるような表情を見せた金だったがすぐに、
「良い時間だし、そろそろ帰るぞ」と踵を返した。
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街から少し逸れた場所にある宿へ着いた。
個人的に泊めてもらうことも出来たが、金の住んでいるところには幾つか寝泊まりのできる空間はあるものの、今回来た者がある程度人数がいるので無理そうだった。
故に各々が適当な宿を見つけて暫く泊まるということになっている。
「明日は何をするんだ。」
「行事も特に無いから他の国には好きに過ごせと言っている。」
いかにも君主らしい、偉そうな言いぶりだ。
しかし、その後に声小さく
「…だが、良ければ、明日はお前の描く絵が見たい」
と、一言を添えた。
上に立つ者にしては小さすぎる頼み事だ。
「道具さえ用意してくれればな。」
勿論だ、と少し嬉しそうな声色で返事をする金に別れを告げ宿屋の門をくぐる。
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…何かあった訳ではないのに長い1日だったような気がする。
元々1日外に出る方ではないこともあるが、相性の悪い人間とずっと一緒にいたのだ。
それは疲れるに決まっている。
あの金の見よう見まねでとる傲慢な態度は誰の入れ知恵か知らないが、少なくとも俺が関わっていることは明々白々であろう。
こんなことで解決などしないのに、一人ため息をついた。
するりと髪の毛をほどき、する事もなく横たわった寝台の上で、明日何を描いてやるか___などとつまらない事を考えながら眠りについた。
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