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「ヴィオラ、踊ろうか」
暫しヴィオラはレナードとアランとの談笑を愉しむ。相変わらず周囲からの視線は変わらないが、2人のお陰で気にならない様になっていた。
「レナード様、私ダンスは……」
「レナード、幾らなんでもダンスは無理だろう」
困り顔のヴィオラと、呆れ顔のアランはレナードを見遣る。
「心配はいらないよ」
「お、おい」
そう言うが否やレナードはヴィオラを抱えながら、曲が始まったタイミングで広間の中央へと歩いて行く。アランはレナードに声を掛けるが、完全に無理された。
「レナード様っ、私はどうしたら……」
「君はただ笑っていてくれたらいい……ほら、ターンするよ」
レナードはそう言って笑うと華麗にターンをし、それと共にフワリとヴィオラのドレスと銀色の髪が靡く。ヴィオラの視界にはこれまで体感した事のない世界が映し出された。
ゆっくりと曲に合わせて揺れる視界には、レナードの優しい笑みと光輝く世界だけが映る。まるで御伽噺のお姫様にでもなったようだ。自然とヴィオラの顔には笑みが浮かんでくる。
「綺麗だよ、ヴィオラ。今夜の君はこの広間の誰よりも輝いている」
レナードの甘い声と言葉がヴィオラの中に浸透していく。
レナードから目が離せない。いや一瞬でも離したくない。レナードの事しか考えられない……。
ヴィオラは無意識にレナードの頬に触れると、レナードは妖艶に笑う。心臓が煩いくらいに、高鳴る。この胸の高鳴りの意味はなのだろうか。今のヴィオラには分からない。
「レナード、さま」
自分でも驚く程甘く声が洩れた時だった。
「王太子殿下っ‼︎‼︎‼︎」
その瞬間、広間中に女性のがなり声が響き渡り、音楽は止まり、広間は水を打ったように静まり返った。招待客達は、一斉に声の方へと視線を向ける。
レナードはピタリと動きを止めゆっくりと声の方へと振り返り見遣る。ヴィオラも釣られる様にして声の主である、女性に視線やる。
そこに立っていたのは、烈火の如く怒っているだろうと思われる1人の令嬢がいた。顔を真っ赤にして、目を吊り上げ鋭い目つきでコチラを睨みつけ、ワナワナと怒りに震えている。ヴィオラは目を大きく見開き呆然とするしかない。
誰……どうしてあんなに怒りに震えているのだろうか。
「殿下っ‼︎どういうおつもりですか⁈その令嬢は一体誰なのですか⁈」
「カトリーヌ嬢、貴女には関係ない」
スッとレナードから笑みが消え、表情は抜け落ち、そう冷たく言い放つ。
「関係ございますっ‼︎私は殿下の婚約者なのですよ⁈」
婚約者……?
その言葉に瞬間、ヴィオラの思考は止まった。
頭が真っ白になり、上手く言葉の意味が理解出来ない……。
あの人は何を言ってるの?婚約者?誰の?
殿下の婚約者?それって……。
ヴィオラはゆっくりと、レナードの顔を見遣った。そこには、いつも優しい表情のレナードなどはいない。無表情で冷たい瞳を婚約者へと向けているレナードがいた。
「レナード、様……」