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ももは
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足将軍
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11
#能力
五月も終わりに近づき、校内にはどこか落ち着かない空気が漂い始めていた。
「中間テストまで、あと一週間だからなー」
担任教師の声が教室に響く。
「赤点取ったやつは補習だから、ちゃんと勉強しろよー」
その瞬間、教室のあちこちから悲鳴が上がった。
「終わった……」
「数学ほんと無理……」
「誰か助けて……」
騒がしい空気の中、華は窓際の席で静かに頬杖をついていた。
(補習……)
成績不良者への再教育制度。
裏社会にも、似たようなものはあった。
失敗した者への再訓練。
情報の再暗記。
判断力の矯正。
だが、高校の補習は命を落とすことはないらしい。
(……平和だな)
「朔晦さんって、テスト強そうだよね」
突然、隣の席の女子生徒が話しかけてくる。
華は小さく視線を向けた。
「……そうでしょうか」
「だってノートめちゃくちゃ綺麗じゃん」
「字もすごいし」
別の女子も会話へ混ざってくる。
華は少しだけ目を伏せた。
こうして自然に話しかけられることに、まだ慣れていない。
「ていうかさ」
女子の一人が、こそこそ声を潜める。
「朔晦さんって、佐々木くんと仲良いよね」
「あー分かる」
「昼休みとか毎回来てない?」
「他クラスなのに馴染みすぎでしょ」
その瞬間。
「師匠!!」
教室後方の扉が開いた。
噂の本人――佐々木莉音が、当然のような顔で一年一組へ入ってくる。
「また来た……」
「ほんとに別クラス?」
クラスメイトたちが笑う。
莉音はそんな視線など気にも留めず、真っ直ぐ華の席へ向かった。
「師匠。今回、俺は本気です」
「……何が…ですか」
「中間テストです」
真顔だった。
「学年一位取って、師匠に相応しい、優秀な男だって証明するんで」
「動機が不純すぎるって」
男子生徒が笑う。
だが莉音は真顔のまま言葉を放つ。
「補習になったら、放課後師匠と帰れないじゃないですか!!」
「重っ」
教室が笑いに包まれる。
華は小さくため息をついた。
「自分の教室へ帰ってください…」
「はーい」
返事だけは素直だった。
だが去り際、莉音は振り返る。
「師匠。今回はマジで負けませんから」
「……そうですか」
莉音は満足そうに去っていった。
その背中を見送りながら、女子生徒が笑う。
「なんか佐々木くんって、大型犬っぽいよね」
「分かる」
「朔晦さんにだけ懐いてる感じ!」
「……そう、なんでしょうか」
華にはよく分からなかった。
だが、不思議と悪い気持ちはしなかった。
***
放課後。
ホームルームが終わった直後。
「ねぇ、今日このまま残って勉強会しない?」
クラスの女子生徒がそう言い出した。
「えー、いいかも」
「一人でやると絶対寝る」
「ていうか誰か数学教えて……」
教室の空気が、一気に勉強会ムードへ変わっていく。
そんな中。
「……私も、参加していいんですか」
華が静かに尋ねた。
その瞬間、数人がきょとんとした。
「え? もちろんだけど?」
「むしろ朔晦さん来てよ」
「絶対頭いいじゃん」
華は一瞬だけ言葉を失う。
“輪に入って当然”という反応。
それが、少し不思議だった。
「……分かりました」
小さく頷く。
すると――
「じゃあ俺も参加します」
当然のように、莉音が教室へ入ってきた。
「なんでいるの!?」
「佐々木、お前クラス違うだろ!」
総ツッコミが飛ぶ。
だが莉音は真剣だ。
「師匠が勉強するなら、弟子も当然付き添います」
「付き添いって何」
「ていうかもう一年一組の住人だろこいつ」
「先生より見かける」
笑いが起きる。
莉音は当然のように華の隣へ座った。
「師匠。分からないところあったら聞いてください」
「……多分ないです」
「そんなぁ」
***
勉強会が始まってしばらく。
教室には、シャーペンの音と雑談が混ざり合っていた。
「うわ、英語わかんない……」
「そこ現在完了じゃない?」
「え、マジ?」
そんな中。
華だけ、問題集を解く速度が異常だった。
ページをめくる音がやけに早い。
「……朔晦さん…もう終わったの?」
女子生徒が固まる。
「あっ、はい」
「えっ!? まだ三十分しか経ってないよ!?」
答案を覗き込み――停止した。
「……全部合ってる」
「は?」
周囲もざわつく。
莉音まで目を見開いた。
「師匠、なんなんすか?」
「なんなんすかと言われても……」
華は少しだけ困ったように視線を逸らした。
幼い頃から、知識だけは徹底的に叩き込まれてきた。
語学。
地理。
計算。
記憶。
生き残るために必要だったからだ。
だが、それを説明するわけにもいかない。
「……少し、慣れていただけです」
「少しのレベルじゃないって……」
その時。
「ねぇ、朔晦さん」
クラスメイトの女子が、おずおずとノートを差し出した。
「この問題、教えてもらっていい?」
「……私が?」
「うん。なんか説明上手そうだし」
華は一瞬だけ言葉を失った。
誰かに、“教えてほしい”と頼られることなど、今までほとんどなかった。
「……分かりました」
ぎこちなくノートを受け取る。
「ここは、公式に当てはめる前に……条件を整理した方が解きやすいです」
静かな声。
だが説明は驚くほど分かりやすかった。
「えっ、すご」
「めっちゃ分かる」
「先生より理解できたかも」
次々と声が飛ぶ。
華はわずかに目を見開いた。
胸の奥が、妙に落ち着かない。
だが——どこか暖かい気持ちだった。
***
気づけば、窓の外は夕焼け色に染まっていた。
「疲れたぁ〜……」
クラスメイトが机へ突っ伏す。
莉音も珍しく静かだった。
華は問題集へ視線を落としたまま、小さく息を吐く。
昨夜の任務。
性別変化の負荷。
慣れない学校生活。
疲労は、思っていた以上に蓄積していた。
(……少しだけ)
その瞬間。
意識が、ふっと沈んだ。
***
真っ白な空間。
遠くに、小さな少女が立っている。
こちらへ向かって何かを叫んでいた。
だが、聞こえない。
足元から、赤が滲む。
白を汚しながら、ゆっくり広がっていく。
少女の声だけが、遠く響いた。
(――どうして……)
***
「……さん」
柔らかな声。
「朔晦さん!」
華はゆっくり目を開けた。
視界に映ったのは、夕焼け色の教室だった。
「起きた?」
女子生徒が安心したように笑う。
華は静かに身体を起こした。
その瞬間。
肩から、制服の上着が滑り落ちる。
「……これは」
「あ、クーラー寒そうだったから!」
周囲が笑う。
「朔晦さん、すごいぐっすり寝てたよー」
その言葉に、華は小さく目を伏せた。
(……しまった)
(敵地ではないとはいえ、人の多い場所で眠るなど……)
(完全に緊張感が抜けている)
殺し屋としては、失格に近い。
それなのに。
手の中にある制服の温もりが、妙に胸へ残る。
誰かが、自分を気遣った。
ただ、それだけのことが。
どうしてこんなにも、落ち着かないのか。
「……ありがとうございます」
小さな声で呟く。
その言葉に、周囲は優しく笑った。
***
そして、中間テストが終わり、慌ただしい試験期間は幕を閉じた 。
「順位出てるぞー!」
誰かが叫ぶ。
廊下は騒然としていた。
「見たくない……」
「赤点回避しててくれ……!」
そんな中。
順位表を見上げた莉音が、固まる。
「……は?」
一位。
朔晦華。
「師匠……」
莉音の肩が震える。
「俺、三日徹夜したんすよ……?」
そのすぐ下。
二位。
佐々木莉音。
「惜しかったなー佐々木!」
「二位でも十分すごいだろ!」
「惜しくないっす!!」
莉音が叫ぶ。
「師匠、なんで勉強まで最強なんすか!!」
華は静かに順位表を見上げた。
そして、小さく目を細める。
「……手、もう少し抜いとけばよかったな…」
コメント
1件
え〜〜〜!!!華ちゃんまじで学年一位とったの!?!?😭💕しかも江國時代の知識フル活用ってダサかっこよすぎるでしょ…! 莉音くんとの師弟関係もほっこりするし、クラスの子達が自然に華を輪に入れてくれてるところがもうね、沁みた…「教えてほしい」って頼られるシーンとか、上着かけてもらって起きた時の反応とか、全部エモすぎて胸がいっぱいになったよ…📚✨ でも最後の白い空間と少女のフラッシュバック、気になる…!次回も絶対読むね🌸