フロントに重々しい足音が近づいてきた。
振り返った華の瞳が大きく揺れる。
「……お父様」
桜坂グループ会長・桜坂泰三が立っていた。
スーツの胸元まで隙のない姿。厳しい眼差しがフロントを一瞥し、すぐに華へと向けられる。
「華、まだこんな有様なのか」
その声音に、周囲の空気が一瞬で張り詰めた。
「……有様、って……」
思わず言葉を返す華に、泰三の視線はさらに鋭くなる。
「藤井くん」
今度は律に向き直る。
「君にかかっているんだ。華を一人前にできるかどうかは、教育係である君の責任だ。
君が甘ければ、この子はいつまでも立派な大人になれない」
その一言に、華の胸が強く抉られた。
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