テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
月咲やまな
431
#恋愛
十色
257
二つめの角を曲がると、すぐに自宅の外灯が目に入った。
犬のリードを玄関の支柱に繋ぎ、特にチャイムを押すこともなくドアを開ける。
「ただいま」と呼びかけると、台所から母親が顔だけ出して言った。
「遅かったじゃない。おじさんもう来てるわよ」
それは玄関に男物の靴があるから知っている。
リビングへ向かうと、叔父がソファにもたれかかりながら、ワイシャツを着たままビールを飲んでいた。
「おじさん、ガリレオ散歩させてきたよ」
「おー、すまんな。ありがとう」
ガリレオはもともと叔父の犬である。
ここ一週間出張で家を空けていたので、叔父の姉である母が預かっていた。
「ほら、お礼だ」と言って出張先の名産であるカスタードまんじゅうを渡してきた。
椅子に座ってもぐもぐと食べている途中で、母親が追加のビールをもう一本持ってきた。
叔父はビールの栓を抜きながら言った。
「どうだ、マー坊、友達百人ぐらいできたか? 好きな子のひとりやふたりいるんだろう?」
唐突な質問に心臓が跳ねる。
四月に新しい学校へ転入してきて二ヶ月経つけれど·····、残念ながら叔父を喜ばせる回答はできそうにない。
返事を詰まらせていると、会話を横で聞いていた母が突然割り込んできた。
「ちょっと、忠晴。マー坊ってやめてって言ってるでしょう」
「ああ、すまんすまん。つい、呼びやすくて」
「呼びやすいとか、そういう問題じゃないでしょう。変なことばっかりこの子に言わないで」
「別に、マー坊でいいよ」
自分の呼び名で争われるのも居心地悪くてたまらず口を挟むが、母親は苦い顔をして首を振った。
「あなたが良くても、やっぱりマー坊なんておかしいわ。あなたは·····、真咲はちゃんとした女の子なんだから」
途方に暮れたようなその響きに、真咲も叔父もそれ以上反論することはなかった。
口の中のカスタードまんじゅうの味が急に分からなくなった。
コメント
1件
読みました〜。カスタードまんじゅうの味が急にわからなくなるところ、すごく胸が痛くなりました。母親の「ちゃんとした女の子」っていう言葉と、真咲の居心地の悪さがじわじわ伝わってきて。家族の小さなすれ違いって、こうやって心に刺さるんだなって思いました。続きがすごく気になります!