【美玲視点】
うちの両親はいわゆる毒親と呼ばれる部類。
特に母親は弟を溺愛して、あたしのことは放置していた。
なぜならあたしは父親似だから。
父親はあたしが生まれる前から不倫していたらしく、母親はあたしに「お前を妊娠したせいであの人の心が離れた」とよく言っていた。
弟が生まれたら母親の心はすべて弟に向けられた。
母親の中ではあたしの存在はなかったことになった。
寂しくてたまらないあたしは似た境遇の子を見つけて同じ気持ちを共有したいと思うようになり、少しでも不幸な子がいたら近づいた。あたしより不幸な目に遭っていたら優越感に浸れたし、ちょっと優しくしたら相手があたしを頼ってきて、それがあたしの存在価値になった。
社会人になってあたしと似たような境遇で育った子と出会った。
それが紗那だった。
紗那とあたしはいわば同じ世界の人間で、他人は絶対に入ってこれない領域にいた。あたしと紗那は同時期に彼氏ができたけど、あたしたちの絆は絶対に変わらないはずだった。
あたしにとって彼氏は遊び相手のひとりにすぎない。本命は紗那だ。
紗那さえいればあたしは生きていける。
紗那が優斗とあまりうまくいっていないことを知ったあたしは紗那を彼と別れさせてあげようと思った。
まずはあたしの遊び相手の中で優斗と仲のいい男に依頼して、優斗を女遊びに誘い出してほしいと依頼した。もちろん金は払った。
その男はうまく優斗をガールズバーへ連れていき、そのまま女と不貞をさせることに成功した。
優斗は自分がモテると勘違いしている男だから、この計画はすんなり成功した。
紗那がどうしてこんなダメンズを見抜けなかったのか理解できないけど、そんな従順で素直な紗那があたしはたまらなく好き。
あたしは紗那を飲みに連れ出し、優斗に女の影があることをさりげなく伝えたけど、ほろ酔い状態の紗那は聞く耳を持たなかった。というよりは、優斗の忠実な彼女である自分に酔いしれているようだった。
目を覚まさせてあげなきゃだめだなって思って、あたしは次の計画を実行した。
派遣社員の乃愛はパパ活しまくってる子だった。あたしは彼女に接触して、優斗と関係を持ってくれたら金を払うと約束した。彼女がすんなり応じることも計算済み。だって彼女が結婚詐欺をしていることだって知ってる。警察に通報されたくないでしょ、と脅すと簡単に応じた。
乃愛に自分のSNSに匂わせ写真を投稿するように指示したけど、彼女は予想以上の働きをしてくれた。優斗の体の一部までアップしてくれるなんて、彼女も相当楽しんでいたようだ。
うざいと思ったのは乃愛が優斗と会うたびにあたしに金銭を要求してくること。いいセフレを与えてあげたのに彼女は貪欲すぎてこっちがびびるくらいだったけど、結婚詐欺なんてしてるくらいだから想定内。一時的なものだし、ここは割り切ることにした。
紗那は優斗と乃愛のことをあたしに相談してきた。
ようやく紗那が気づいてくれた。《《親友のあたし》》は紗那に寄り添って、彼女の悩みを聞きながら内心にやけが止まらなかった。
紗那は毒親にやられ、彼氏に裏切られ、失意のどん底。
彼女にはもうあたししかいない。
紗那は一生あたしを頼って生きていけばいいのよ。
そう思っていたのに、事態は思わぬ展開を迎えた。
いつの間にか紗那に新しい男が近づいていた。
月見里千秋。何なのよあんた。あたしの紗那に近づかないで!
紗那は千秋にいろいろ助けてもらったのだと言っていた。少し照れくさそうにする紗那を見て、あたしは直感的に感じた。
すでに紗那は千秋に心が傾いている。
なんて卑怯な男。あたしが綿密に計画して紗那を優斗と別れさせたというのに、まるであいつは自分の手柄だと思ってる。
許せない!!!
あたしは紗那の心を取り戻すために乃愛に再び依頼をした。乃愛はしつこく紗那に嫌がらせをしてくれて、いい写真まで撮れた。
紗那が乃愛に詰め寄って、乃愛が泣いているところ。ほんと乃愛はいい演技をしてくれるわ。
あたしはその写真を帰宅後に自室で加工して、いかにも紗那が乃愛をいじめているように演出し、匿名で社内の人が繋がっているSNSにバラまいた。
案の定、その写真は拡散して、紗那は社内で肩身の狭い思いをすることになった。今度こそ、紗那を救ってあげられるのはあたしだから。
絶対に千秋に邪魔させてなるものか!!!
紗那は酷く落ち込んで仕事に支障をきたしているようだった。
でも大丈夫。もし紗那が仕事を辞めて住む場所に困ったら、あたしが保護してあげるから。
紗那は家事も料理も得意だから、あたしが仕事をして紗那を養ってあげてもいいと思ってる。幸い、あたしは仕事がうまくいってて出世街道まっしぐら。
紗那はバイトでもしてあたしが帰宅するのを待つ暮らしでもいいのよ。
一生をともにするのは何も異性でなくてもいいの。紗那の苦しみを理解してあげられるのはあたしだけ。
そう思っていたのに、あの男がまたしゃしゃり出てきた。
しかも、今度は社内の人間が多数いる中で堂々と宣言したのだ。
「俺と彼女は付き合っている」
は!?
バカじゃないの。
自惚れんなよ、月見里千秋。
紗那のことを一番理解して、紗那のすべてを受け入れて、紗那の人生を守っていくのはこのあたしよ!!!
怒りで爆発しそうになったけど、とりあえず冷静になって考えた。
再び乃愛を利用するしかないと思った。
乃愛に金を渡して千秋を誘惑してもらうことにした。すると千秋は簡単に乃愛に堕ちてホテルに行った。
あははっ、やっぱり男ってみんな同じ。優秀な皮を被っていても女の色気ですぐに陥落するんだから。
ほんと、単純すぎて笑いが止まらないわね。
紗那にあたしのことがバレてしまった。偶然乃愛に金を渡しているところを紗那に見られてしまった。
でもいいわ。この際だから紗那にはすべて打ち明けることにした。今まであたしがどれだけ紗那のことを想っていたか、紗那のためにどれほど邪魔者を排除してきたか、彼女ならわかってくれる。
だけど紗那は泣いていた。あたしのことが理解できないなんて言って。
いろいろあったもの。すぐに受け入れることはできないでしょう。でも、大丈夫よ。時間が経てばあなたもわかる。あたしがどれだけあなたのことを考えているのか。あなたを幸せにできるのはあたしだけ。
紗那は仕事に支障をきたし、上司からの信頼を失った。少し可哀想だけど、これはいい機会なのよ。紗那は仕事を辞めてあたしと一緒に生きていけばいい。
このプロジェクトを成功させればあたしは出世する。
そうしたら紗那と一緒に暮らすの。
すべて完璧な計画通りで、あたしと紗那の未来はすぐそこまで見えている。
そんな理想を頭に描きながら、重要なプレゼンに臨んだ日。
会議室になぜか、月見里千秋が現れたのだった。
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