テラーノベル
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「…問、まだ消えたいって思う?」
久しぶりに言の家に泊まっている夜だった。
何となく眠れなくて本を読んでいたところに近付いてきたと思ったら、この発言。
聞き覚えがあった。
いつだったか。
__そうだ。遠い昔に、僕が言に愚痴をこぼしたのを思い出した。
まだ覚えていたのか、と驚きつつも質問の答えを探した。
「…言、消えたいって思うことある?」
中二の冬休みだった。
2人で学校の課題を解いていた。
理由も無いのにどうにも辛くて、つい口走った言葉だった。
今なら、思春期特有の気分の落ち込みだったと割り切れる。
でも、当時の僕にそれは到底無理な話だった。
言はしばらく黙って、消えたいの?と目を合わせないまま聞き返した。
「いや、そういう訳じゃないけど」
「…本当に?」
椅子に座ったまま、今度は目を合わせて怪訝そうな顔をする言。
人間として生きる以上幾度もついてきた嘘が、こんなにも下手だったのは後にも先にもこの時しかない。
「…ごめん、嘘。なんていうか、生きる意味無いなら消えた方がラクだなと思って」
そう零した途端、鼻の奥がツンとした。
「無くはないだろ」
予想していた通りの答えが返ってきて、鼻の奥の痛みが増した。
「…皆そう言うよ。でもそういうのじゃない」
「いや、そうじゃなくて。双子でいるためだけじゃ駄目なの」
え、と思わず声を洩らした。
照れ隠しなのか、言は直ぐに机に向き直って勉強を再開した。
端的に言えば、凄く安心した。
特に人間関係で苦労していた訳でも、褒められなかった訳でも無い。
でも、何となく独り取り残されたような気がしていたから、救いの手を差しのべられたような感覚だった。
「…ありがとう」
ぼやける視界はそのままに、小さく呟いて僕も課題に向き直ったのだった。
「…懐かしいね」
お互いに成長して、ある程度の理不尽への耐性もついて。
悩む暇なんてないような、そんな日々が続いていた。
「質問してるんだけど」
いつもより真剣味のあるトーンで確信した。
きっと今の言は、あの時の僕と同じだ。
「そう思うの?」
「…うん」
あの時は僕の方が弱かったけど、今は逆なんだな。
なら、あの時の言と同じように助けたい。
言にはそんなつもりが無くても、僕は本当に救われたんだ。
「…言ちゃんみたく格好つけたことは言えないけど、僕が消えないで欲しいから生きててよ」
座り込んでしまった弟に、体重をかけないように寄りかかる。
「……っ充分格好つけてるだろ」
笑いながら言ったつもりだろうけど、震える声が隠せていなかった。
それを代わりに隠すみたいに、僕も笑ってみせた。
一緒に寝る?とからかってみると、頷かれてしまってそのままベッドに連行された。
珍しいなと思いつつも頼られたのが嬉しくて、決して狭くは無いベッドの上でくっ付いて目を閉じた。
暫くして寝息が聞こえてきて、心底安心した。
さっきは大人になってから辛くなったんだろうと思ったけれど、もしかしたらあの時からずっと辛かったのかもしれない。
そう思うと、成長しても心の弱い場所は変わらない弟の頭を撫でずにはいられなかった。
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