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***


(意外なことがわかりすぎて、言葉にならない――)


宮本の熱い語りが終わり、ファミレスを出て車を少々走らせたのちに、コインパーキングに車を停めてから、ファッションモールまで歩いて行った。


「この間、バードストライカーズのメンバーと飲みに行ったんですけど――」

「おう」


橋本と出かけるのが嬉しいのか、いつもより饒舌に喋り倒す宮本の話に、やっとという感じで返事をした。

どうしてやっとなのか。一緒に並んで歩いても歩幅が違うため、少しだけ小走りにならないと追いつけないという、おかしな事態に陥っていたのである。


「店長にいきなり、年上の彼女に告白したのかって訊ねられてしまって」

「あー、そういえば一緒に話を聞いていたっけ」


頭の中に過去のことを反芻させながら、宮本の隣に並ぶように必死になって足を動かした。


「店長の言葉に、周りにいたメンバーがギャーギャー騒ぎ出しちゃったんです」

「それはおまえが、車とアニメの話しか、してなかったせいだろ」

「それはそうなんですけど。陽さんと付き合ってることは言えないので、とりあえずまだ告白してないことにしました」

「俺の予想、だと、誤魔化しきれてないと、思うぞ」


途切れとぎれの橋本のセリフを聞き、宮本は足をぴたりと止めた。


「あ……」

「雅輝?」


しまったという表情をありありと浮かべて、口元を押さえる。このままでいたら隠されるかもしれないと考え、睨みを利かせながら顔を近づけてみた。


(しかしながら今は宮本の顔をしてるから、効力があるかどうかはわからねぇな)


そんなことを思っていると、沈みきった顔つきで口を開く。


「今の俺は陽さんだったのに、いつもの感じで歩いちゃってた」

「いつもの感じ?」

「すみませんでした。足、速かったですよね。陽さんの歩くテンポに合わせて、いつも歩いていたので。車での移動が多いから、こうやって並んで喋ることって、滅多にないじゃないですか。遮りたくなくて、いつも急ぎ足で歩いていたんです」


衝撃の事実を知り、寄せていた顔を遠のかせた。


「そうだったのか、全然気がつかなかった。悪かったな」


肩を落としてしょんぼりした橋本に、宮本は慌てふためいて弁解したのだが、微妙な心境を抱えたままだと気分が乗らず、ショッピングモールを短時間滞在したのちにコインパーキングに向かい、お互い無言で車に乗り込んだ。

バケットシートに座り、手慣れた感じでシートベルトを締めた宮本が、インプのエンジンをかける。そのときにアクセルを二度踏み込むのが、宮本の癖になっていた。

耳に響いて聞こえてくるエキゾースト音に導かれるように、重たくなっていた橋本の口がやっと動く。


「雅輝、どこか行きたいところあるか? スーパーで食い物の買い出しとか」


橋本がシートベルトを締めながら訊ねると、宮本は腕を組みながら車内にある時計に視線を飛ばした。


「むぅ、そうですね。この時間帯なら、三笠山に行ってみたいです。久しぶりに峠の頂上から、夕日を眺めたいなって」

「あー、そうだな。俺もしばらく見てない」

「じゃあ決まりですね。今日は雲が少ないから、綺麗な夕焼けが見られるかも」


宮本は弾んだ気持ちをそのままアクセルに乗せて、インプを発進させた。


(姿かたちは俺なのに運転の仕方が宮本なんだから、インプは不思議に思ってるだろうな――)


カーステレオから流れてくるラジオを聞きながら、他愛ない会話を楽しむ。お蔭でショッピングモールに出かけたときよりは、それなりにいい雰囲気になった。

車内はいい感じになったというのに、週末の公道は適度に込んでいて、向かう先々で渋滞に巻き込まれる。


「夕焼け、見られないかもしれないですね」


唇を尖らせながら呟く宮本の横顔を見て、このリアクションは自分の顔でしちゃいけないと悟らされた。


「なぁ雅輝」

「はい?」

「運転の邪魔になるだろうけど、肩を貸してくれ」

「いいですよ。眠くなっちゃいました?」


嬉々として答えたのを聞くなり、遠慮なく頭をのせる。


「ちょっとだけな。こういうダラダラした流れを見てたら、眠くならないか?」


喋りながら目を閉じた橋本。こうして宮本の肩に頭をのせるときがあるので、その違いがよくわかった。自分の躰の薄さに、ちょっとだけガッカリする。


「確かにそうですね。だけど眠くなったときは、前に写した陽さんの怒ってる顔を見るので、絶対に大丈夫です」

「そんなところで、大活躍してるのかよ」

「他にもバッチリ、目が覚める方法があるんですよ」


肩にのせた橋本の頭に、宮本がすりりと頬擦りをした。


(――雅輝の髪の毛って結構剛毛なのに、そんなことして平気なのか?)


そんなことを考えつつ、上目遣いで顔を見やる。車が流れ出したのか前を見据えて、運転に集中していた。


「陽さんのイク瞬間の顔を思い出したら、そりゃあもう、バッチリ目が覚めるんですよ~!」

「あっそう。違うトコロも、ついでに目覚めそうだけどな!」


言いながらのせていた頭を退けて、シートにしっかり座り直した。


「あれ、もう終わり? イチャイチャしたかったのに」

「おまえのお蔭で目が覚めた」

「ムクれる俺の顔、すごく子どもみたいな表情なんですね。格好悪い!」


カラカラ笑い出す宮本につられて、橋本も笑うしかなかった。


そんなやり取りをしているうちに、三笠山の頂上に到着。ちょうど日が傾いて、太陽が残り3分の1というタイミングだった。

週末だからか、いつもより駐車場に停めている車の量も多く、インプを停めるのも一苦労した。その後は車の量に比例した人混みの隙間から、夕焼けを眺めることにする。


「こういう綺麗な景色を見ると明日も仕事、頑張らなきゃなぁって思わされるな」

「ですねぇ。久しぶりに見るし、隣には陽さんがいるから、綺麗さが倍増されて見えます」

「俺の目で見てるからだろ?」


お互い、目を合わせて微笑んだときだった。


「うわぁ古臭いインプ発見! 未だに、こんな車に乗ってるヤツがいるんだな」


橋本たちの後方から聞こえてきた声に、眉根を寄せながら振り返る。声の主と思しき若い男とその連れが、インプを指差して他にも罵倒する言葉を投げかけていた。

それを聞いた宮本が、ムッとした顔のまま踵を返そうとしたので、橋本は慌てて止めに入った。

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