テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あの地獄のような夜から、さらに数ヶ月が経った。
中也は首領が用意したさらに強力な、心臓を削るような新型抑制剤で身体を無理やり叩き起こし、ポートマフィアの幹部としての任務をこなしていた。
太宰が突然組織を去り、自分の前から消えてから、もうすぐ四年が経とうとしている。
「——おい。そこで何してやがる、糞太宰」
薄暗い裏路地。
敵組織の残党を片付けた中也の前に、その男は平然と立っていた。
かつての黒服ではない。
砂色のコートを羽織り、どこか垢抜けた雰囲気の男——太宰治だった。
「あぁ、マフィアの犬の遠吠えが聞こえたかと思ったら⋯君だったのか」
太宰はいつもと変わらない、軽薄で人を食ったような笑みを浮かべる。
だが、その目は笑っていなかった。
太宰の鋭い嗅覚は、目の前の中也から放たれる「不自然に押し殺されたフェロモン」と、その奥にある致命的な渇きを一瞬で見抜いていた。
「……手前、よくもぬけぬけと俺の前に面わせたな」
中也は怒りで肩を震わせ、重力の赤光を微かに纏う。
勝手に消えたくせに、なぜ今さら現れる。
だが、中也の身体は持ち主の怒りを裏切り、本能的に叫んでいた。
あれほど求めて、焦がれて、自分を地獄に突き落とした本物のαが、すぐそこにいる。
どっと溢れ出そうになるフェロモンを、中也は奥歯を噛み締めて必死に抑え込んだ。
「おや、凄む元気はあるようだけど……ずいぶんと痩せたじゃないか。」
太宰が歩み寄ってくる。
一歩、また一歩。
その瞬間、太宰から微かに漏れ出た、冷たくて心地よいαのフェロモンが中也の鼻腔をくすぐった。
「っ、う、あ……!」
中也の膝が、がく、と折れかける。
化学物質のレプリカではない、本物の、自分の番の匂い。
それだけで中也のΩの身体は歓喜に震え、数ヶ月前のあの狂おしい熱が背筋を駆け上がった。
太宰はそんな中也を冷徹な目で見下ろし、ふっと目を細める。
「……ふうん。その首筋、ずいぶんと汚い傷跡があるね。自分で掻きむしったのかい?」
太宰の指先が、中也のチョーカーの隙間、かつて自分が刻んだ「番の痕」の傷跡に触れようとする。
中也はそれを、残った全ての理性で叩き落とした。
「触るな……ッ!!」
息が荒い。
これ以上こいつの傍にいれば、マフィアの幹部ではなく、ただの「太宰のΩ」に成り下がってしまう。
「手前が勝手に消えてから、俺がどんな……っ、どんな思いで……!」
「分かっているよ、中也。君が他のαの匂いを猛毒として拒絶していることも、私の匂いだけを求めて泣いていたことも」
太宰の言葉に、中也の目が見開かれる。
番の絆は、物理的な距離を超えて太宰にも伝わっていたのだ。
自分が中也を置いて去ってなお、中也が自分の「目に見えない首輪」に縛られ続けていることを、太宰はすべて確信していた。
太宰は拒絶された手を引くことなく、今度は強引に中也の顎を掴み、顔を上向かせた。
「可哀想に。本当にボロボロだ。……でもね中也、私がいないからって、他の薬なんかで私の痕を誤魔化そうとするなんて、悪い犬だね」
自分から置いていったくせに、どこまでも傲慢で、理不尽な独占欲を孕んだ瞳が中也を射抜く。
再会は救いなどではなかった。
ここからまた、太宰という名の終わらない歪んだ支配が始まろうとしていた。
コメント
1件
太宰さん独占欲強いのいい、、!!
敦芥推し
11
#文スト中原中也夢
茉莉(まつり)
9,099
トロール
53
かいじう🦖
3