テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
琥珀色の雨
なべさんが夢に溺れてしまう話
雰囲気重視で書きました
高校生設定
「僕たち腐nowMan」には関係ありません
他のメンバーは出てきません
だてさんに何度か彼女ができます
ブロマンス寄りかもしれません
【カプ要素】
だて(→?)←なべ
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これを”恋”だと確信したのは、高校生の秋。
俺には、3歳の頃から一緒の幼馴染がいる。そいつは無口で、人見知り。でも芯は強くて、すごく優しい。言葉にすることが苦手な彼の気持ちを声にするのが俺の役目だった。毎日一緒に学校へ、毎日一緒に家まで。お前とは何をするにも一緒だった。俺の隣にお前がいることが当たり前で、お前の隣に俺がいることが当たり前。俺はそれを、ずっと信じていた。
ある日の放課後、いつも俺を迎えに来るお前が来ない。委員会とか、やってたっけ。それとも日直?いや、日直は来週だった。俺は鞄を持って、教室を出た。
あいつの教室の前。なんだろう、もやもやして、よくわからない。この扉を、開けてはいけない気がする。それでも、俺は教室の扉を開ける。
「あ、」
お前の瞳が俺を捉えた。横には、お前にぴったりとくっつく知らない女。そしてお前は、その女の腰を抱いていた。
「…だれ?」
「…あー、彼女」
時が止まる。耳元で風船が弾けたように、キーンという音。あいつ、あとはなんて言っていたっけ。聞こえないし、覚えてもない。
「そっか、邪魔しちゃ悪いから帰るね」
平然を装って、俺はお前から逃げるように、教室を後にした。
「おかえりなさい」
「ただいま」
出迎えるママの声。俺はちゃんと返事ができていただろうか。
「少し、寝てくる」
背中から、ママの声が聞こえた気がした。階段を1番早く歩く。自分の部屋のドアを見つける。手をかける。開ける。部屋に入る。閉じる。瞬きすら、できなかった。呼吸が妙に荒い。鞄が手から床に落ちた音でハッとなる。
“あー、彼女”
ああ、俺の場所ではなかった。俺はその場にしゃがみこんだ。
「あぁ…」
お前のあの言葉が、何度も頭の中を反響する。なのに水に飛び込んだ時のように、音が遠い。胸の奥が呼吸を忘れる。何なのか、もうわかっていた。
ママが開けてくれたであろう窓の隙間から風が吹き込み、レースカーテンが揺れ、夕陽が射し込んだ。外からは子どもたちの笑い声が聞こえる。俺の部屋は、随分と寒く感じた。
次の日、いつも迎えに来るあいつは現れない。俺はひとりで学校へ向かった。ひとりで歩く通学路は、いつもより長く感じた。
「今日ひとり?あいつ休みなの?」
お昼休み。同じクラスの友だちが言う。
「知らない」
「ええ、お前らいつも一緒じゃん」
そうだね、俺もそう思ってた。
「別に、そんなことねぇ」
「つめてー」
へへ、と笑いながらそいつは俺の目の前で弁当を広げる。
いつも全部を打ち明けてきた仲と信じていた。俺もそうだったし、あいつもきっとそうだった。でも、違った。なにも、言われなかった。それが、すべてだったんだ。
何日か過ぎた放課後、あいつは俺の教室にやって来た。
「帰ろ」
「…彼女とは帰らないの?」
「別れた」
「…は?」
1週間も経ってないのに?まぁ、お前は少し頑固で、正直すぎるところがあるからな。どうせ愛想尽かされたんだろ。高校生の恋愛なんて、そんなもんだ。
世間はすっかり秋めいており、紅葉も少しずつ頬を紅く染めていた。俺たちはいつものように、俺が少し前を、お前は少し後ろを歩く。これと言って何も話さない、苦痛ではない沈黙。誰よりも近く、誰よりも遠い、俺とお前。でもその沈黙が、今日はいつもより重く感じた。
あれからあいつとは毎日一緒に登下校。前の形に戻った。やっぱり俺だったんだ。ほらみろ、俺じゃないと面倒くさいお前の相手なんてできねぇんだよ。
そう思ったその日の放課後、あいつは教室に来なかった。俺は席に座っている。肘をついて、外を見ていた。なんとなく、そうなのかな、と。
“あー、彼女”
そう言われるのが、いやだから。俺は鞄を持って教室を後にした。
家への道のりは、永遠にも感じた。子どもたちの声、立ち話の声、犬の鳴き声。あれ、もう冬だったっけ。陽だまりの中にいるのに、俺の手は、なぜか冷たい。
ある日の放課後、お前は俺を迎えに来た。
「帰ろ」
「……ん」
また、別れたのかな。なんか機嫌悪い。だから、余計なことは言わない。俺がそういう時も、お前は余計なことを言わないから。ただ、一緒にいるだけ。
帰り道、珍しくお前は口を開く。
「別れたんだよねぇ」
「ふーん」
「なに、冷たくない?」
「別に、いつも通り」
「あ、そ」
前よりは、浮かび上がらなかった。
「…あのさ」
「なに?」
「…同性愛って、どう思う?ほら、男同士とか、女同士とかさ」
「んー」
お前の長い睫毛が揺れる。
「いいとは思うけど、俺は無いかな」
「…そっか」
そっか、と言った自分の声が、少し遠かった。それ以上、何も浮かばなかった。夕陽がやけに眩しい。
次の日、今までの形に戻る。この日の帰り道は、お前が”クレープを食べたい”と言った。お前は料理が好きだから、食べることも好き。甘いものも、辛いものも、全部。
「美味しい!」
「ん、うま」
クリームたっぷりのクレープを美味そうに頬張る、お前がかわいい。
「一口頂戴」
「ん」
俺はクレープを差し出した。そしてお前は、遠慮無しに美味しそうに頬張る。
「んー!こっちも美味しい!」
「おい、少しは遠慮しろ」
軽く睨みつけるが、お前はケラケラと笑うだけ。俺のもいる?と聞いてきたが、俺はいらないと言った。どうしても、他の影がちらついて離れない。笑い声は、どこか遠い。
いつもと変わらない日常。お前との距離。でも俺の手は、冷たいまま。
日曜日は好きだ。白を見つめるだけでいい。でも今日は少し、苦しい。俺はガラケーの画面をぼんやりと眺める。
「夢…小説…?」
“好きな人物の恋のお相手に、自分を当てはめる”
「ああ、そっか」
俺の場所は、ここだった。簡単じゃないか。頭の中でなら、お前は俺だけを見てくれる。夢の中でなら、お前は俺だけを愛してくれる。
「もう、」
見なくていいんだ。
放課後。教室は夕焼け色に染まっている。
「翔太」
“お前”が、俺を呼んだ。
「なに、涼太」
いつも通りの、返事。”お前”は俺の前の席の椅子に腰掛ける。そして俺を見つめて、何も言わない。感情は、読めなかった。
「帰ろっか」
俺から切り出した。立ち上がって鞄を持つ。”お前”は、去ろうとする俺の手首を掴んだ。
「ねぇ」
熱い。
「…なに」
“お前”を見ずに、答えた。
「翔太がいい」
音が、止まった。”お前”の視線が俺の肌を焼く。振り返れない。静かなのに、五月蝿い。
「…そっ、か」
そこから先は、よくわからなかった。
天井が見えた。外は暗い。俺はむくりと起き上がる。
「はっ」
虚しかった。でも、そこにいた”お前”は優しかった。俺を、見てくれた。それは、俺を静かに蝕む優しい毒。優しくて、温かい、猛毒。月が明るい。胸が高鳴る。俺の手は、冷たいままだった。
「おはよ」
「ん、おはよ」
いつものように、お前は俺を迎えに来る。目を合わせないまま返事をし、俺の少し後ろを、お前が歩く。そう、これが日常。けれど、今日は少し違う。俺の胸は、ほんのりと、確実に熱を持っていた。
「…?」
お前が俺を見つめて、少し首を傾げる。お前は、俺の後ろを歩いている。視線を感じて振り返り、目が合う。でも、俺はすぐに前を向いた。夢の中で掴まれた手首が、まだ少し熱い気がした。
「帰ろ」
放課後。少し、寒い。薄手の毛布を出した方がいいだろうか。”お前”は、俺の手を握ってくれるだろうか。
「ねぇ、翔太」
少し眉間に皺を寄せて、お前は俺の横に立っていた。
「え、あ、ごめん」
俺は鞄を持って立ち上がる。
「帰ろっか」
俺は無意識に微笑んでお前を見て、そのまま教室を出る。俺の後ろには、不安そうに眉毛を下げたお前が歩いていた。
“また明日”
それだけを交わし、俺は家に入る。そして、いつものように過ごす。でも今日は少し違う。肌寒いから毛布を出した。そして、虚しいと嗤いながら、”お前”を望んで目を閉じる。
「翔太」
放課後、黄昏時。うつしよとうつろよが交わる時。夢と現実が、曖昧になる場所。
「翔太」
“お前”は目の前にしゃがみ、俺の名前を何度も呼んだ。擽ったくて、甘くて、あたたかくて、凍えそうになる。
「翔太聞いて。俺は、」
絡められた指が、妙に熱い。欲が揺れる黒い瞳。”お前”の唇が、動いた。
気が付くと、天井。その先を受け止める勇気は無かった。馬鹿馬鹿しい。
「はは…」
両腕で顔を覆う。こんなにも愚かなのに、こんなにも愛おしい。今日はやっぱり、外がよく冷えている。口が歪む。でも視界が歪むことは無かった。
「おはよ」
顔に、熱が昇った。
「…おはよ」
今日も俺は、お前の少し前を歩く。少し紅く染まったお前の耳を見て、ああ、冬が来てたのかと、そう思った。
ある日の帰り道、お前は俺の少し先を歩く。いつもと違う、ほんのりと汗ばむ、そんな暖かい日だった。
「彼女できたんだよね」
お前は、振り向かずに言った。影が、ずれる。
「…そっか」
冬にしては珍しい、晴れ渡った灰色。青々とした木々の枯れ色。大きく歪む、はっきりとした視界。
「今度はちゃんと、大事にしろよ」
お前は振り返り、嬉しそうに眉を下げて笑った。
「うんっ」
俺はすぐ、バレないように目を逸らす。 愛おしくてたまらない、俺の大嫌いな笑顔だった。
「…寒くないの」
いつも通りを装って、そう聞く。
「今日はあったかいけど」
笑い声が、少し弾んでいる。ああ、そうか。俺の知らないところで、お前の世界はちゃんと動いている。俺はマフラーを巻き直す。頬に触れた指先は、やけに冷えていた。
「そっか」
それだけ言って、
歩幅をほんの少しだけ広げた。
お前に並ばないように。
お前に置いていかれないように。
そのどちらでもない距離を、
必死に探すみたいに。
陽だまりの中で、
母親を探して凍えている子どものように。
「ただいま」
どう帰ってきたのか、それは覚えていない。ママと少し言葉を交わした後、俺は部屋に入る。マフラーを外し、制服を脱いで、部屋着に着替える。
“うんっ”
不意に、お前の笑顔がフラッシュバックする。
「はぁ…っはぁ…」
お前の笑顔が頭から離れない。恐ろしく鮮明に、何度も何度も、頭の中を反響する。
「助けて、」
上手く、息を吸えない。
「りょう、た」
“お前”ならきっと、救ってくれるから。
放課後。”お前”は俺の指に”お前”の指を絡めた。春のように、俺だけに微笑むお前。
「泣かないで、翔太」
頬は、濡れていない。
「翔太」
甘くて、低くて、俺の全部を包む声。あたたかい。
「俺ね、翔太が」
ほんの一瞬、世界が止まる。
「すきだよ」
俺は、”お前”の隣で目を閉じた。
「おはよ」
お前はなぜか俺を迎えに来た。
「…おはよ」
「…?」
俺はお前の少し先を歩く。お前が首を傾げたことなど、知らない。
放課後。俺は鞄を持って教室を出る。足取り軽やかに廊下を歩く。
「翔太」
お前に名前を呼ばれて振り向いた。
「なに?」
怪訝そうに眉間に皺を入れて、お前は答えた。
「なに?って…一緒に帰らないの?」
なぜそう言ってくるのか、理由はわからない。
「…彼女と帰らないの?」
「いつも翔太と帰ってるじゃん」
「彼女と帰れよ、初々しくよぉ」
お前は不安そうな顔で俺を見つめる。
「翔太なんか、」
「…なに?」
お前は、何かを飲み込んだ。
「ううん、なんでもない」
無駄に干渉しない、それが俺たち。
「はは、なにそれ」
じゃあな、と俺はひとりで歩き出した。お前は、不安そうな顔で俺の背中を見つめていた。
何度目かの放課後。”お前”は俺の頬に触れる。
「翔太」
優しくて綺麗な、”お前”の手。
「りょ、う、た…」
涼太…?
「しょ、うた」
ノイズが走る。
「翔太」
気のせい、だろうか。
「翔太」
視界の端が、歪んでいく。黒いクレヨンでぐしゃぐしゃ塗りつぶしたみたいに、”お前”の顔が潰れる。
「だ、れ…?」
俺のその一言で、世界は一気に色を失った。黒く染まった”お前”は、俺の首を両手で掴み、お前の声でこう言った。
「欲しがれ」
指先は、冷たいままだった。
次の日も、お前は俺を迎えに来た。
「おはよ」
「…おはよ」
一瞬、お前が止まった。すぐにいつもの位置に戻る。俺が少し先を歩いて、お前が少し後ろを歩く。
「ねぇ翔太」
俺は振り向かずに答えた。
「なに」
少しの沈黙。歩く足は止まらない。意を決したように、お前は切り出した。
「その、翔太」
声と、衣擦れの音と足音しか聞こえなかった。
「辛い?」
「…辛い…?」
俺は立ち止まった。お前は俺の隣に立つ。
「辛いわけない」
「でも」
「お前は、俺が不幸に見えんの?」
今にも泣きそうな顔で俺を見る。嫌だ。俺は、お前にそんな顔をさせたいんじゃない。
「だって翔太…」
「そんな笑い方しないじゃん」
あぁ神様、
僕はどこで間違えてしまったのでしょう。
“欲しがれ”
あの言葉の残響が消えない、俺の部屋。目を閉じるのが恐ろしい。戻れない場所まで来ている。お前を求めて目を閉じるはずなのに、こんなにも俺の心は凍えている。
放課後。クレヨンで塗り潰した世界。”お前”の顔はもうわからない。
「翔太」
お前の声に、モザイクがかかったような声。でも、”お前”だとわかってしまう声。
「翔太」
“お前”は俺の頭を撫でる。なんて、冷たい指だろうか。涼太の手は、もっとあたたかいはずなのに。
「…ちがう」
「翔太」
「ちがう…ちがう…っ」
「翔太」
「お前は…っ」
黒が、漆黒に変わる。
“お前”は、信じられない力で両手で俺の両肩を掴んだ。
「涼太は、っこんなことしない!」
一層、力が強くなる。
「っいた、い…」
「お前が望んだ」
ここは、どこだろうか。
次の日も、お前は俺を迎えに来る。
「おはよ」
「…ん」
「ねぇ翔太」
「…な、に?」
「もう、やめよう」
「な、に、を…?」
理解ができなかった。何を?俺は何をやめたらいい?それ以前に、俺は何をやっているの?
「その翔太の抱えてるもの、全部」
「抱えてる、もの…」
俺から、涼太を奪うの?
「や、だ」
「翔太」
「だ、だめ、これが無くなったら…」
「翔太」
「おれ…なにもなくなっちゃう…」
そこから先は、よく覚えていない。
視界ははっきりとしている。放課後。見えるのは教室の天井。そして、俺を見下ろす”お前”。
「翔太」
いつもより甘く、そして欲を孕んだ声。
「翔太、頂戴」
“お前”は俺の制服のネクタイに手をかけ、シュルリと音を立てて解いてしまう。
「え、なに…?」
カッターシャツのボタンを、下から1つずつ、そして確実に外していく。
「翔太」
嫌だ、嫌だ。触らないで。そんな手で、俺に触れないで。
「やめて!」
手の大きい”お前”は、いとも簡単に俺の両手首を片手で制止してしまう。そして”お前”の右手は、ボタンを外すことを止めない。
「嫌だ…っ!嫌だっ!涼太ぁ!」
「ふふ、可笑しいこと言うなぁ」
「たすけて、りょうたっ!りょおたぁ!」
ずいっと俺に顔を寄せて”お前”は囁いた。
「お前が願ったんだ」
漆黒が、闇に飲まれた。
嗚呼神様…俺は、こんなにも。
次の日の朝、外は雨が降っていた。
「おはよ」
「……」
返事もせず、傘も持たずに歩き出そうとする俺の腕を掴み、濡れないよう、お前は俺の腰を抱き寄せる。抜け殻のようになってしまった俺に、お前は何も言わず、ただ寄り添って歩いた。自分の肩が雨に濡れようとも、俺と歩幅を合わせて、ただひたすら、寄り添っていた。
放課後、その日はずっと雨だった。
「翔太」
教室の扉が開いた。
「……」
お前は俺の前の席に座る。
「少し、話そうか」
お前は、ゆっくり、確かめるように、俺に語りかける。
「翔太」
「俺は、翔太が何をしたいのか、はっきりとはわからない」
「でも、俺が翔太と同じ立場だったとしたら」
「俺も同じことをしたと思う」
俺を真っ直ぐ見つめる瞳の中に、紅い花弁が舞った。
「それで俺は、今の翔太と同じようになるだろうね」
「そしたら翔太はきっと、いや、絶対、俺に向かってこう言うんだ」
「”ひとりで抱えてんじゃねぇ”って」
机の上に置いてあった俺の手に、お前はお前の手を、指ごと絡める。
「翔太は、たとえ俺がどん底にいても、同じ場所まで、堕ちてきてくれる」
「翔太は、そんな人だよ」
お前は眉毛を下げて、俺の大好きな顔で笑った。
「っでも…」
「うん、教えて」
「おれは…っ」
「ゆっくりでいい。翔太の言葉で、言いたいこと全部」
「わかんない…っわかんないよぉ…!」
「うん」
「突然そんなに…っ優しいの…わかんない…っ」
「うん」
「おれ、汚い…っりょうたに嫌われちゃう…っ」
「うん」
「誰にも、渡したくないって…そう思っちゃうのが…嫌で、嫌で、嫌で…っ」
「うん」
「涼太が、大好き、だから…っおれが我慢すれば…ずっと、一緒にいれるって…っ」
「うん」
「ごめんなさい…ごめん、なさい…っ」
「翔太」
お前は立ち上がり、俺の前に跪いた。改めて、俺の手に指を絡め、真っ直ぐに俺を見つめる。
「綺麗だね、翔太」
夕焼けが、教室に射し込む。雨はまだ降っていた。目を逸らさずに、涼太は続ける。
「翔太」
「俺は、翔太の選択を尊重する」
「でも」
「俺は翔太の側を、離れる気は全く無いよ」
「りょうた…っ」
「翔太が自分を赦せないのなら」
「俺が翔太の全部を赦すよ」
「あぁ…りょうた…っ」
いつの日からか凍りついたままだった心が溶けていく。俺、涼太を好きでもいいの?涼太を求めてもいいの?
「なんで…っ赦してくれるの…?」
「ふふっ、可笑しいこと言うなぁ」
視界が歪む。
「あなたが、”渡辺翔太”だからだよ」
「りょお、た…っあ」
枯れたはずだった涙が溢れだす。涼太は静かに、俺の頬に手を添えて、涙を指で拭う。
嗚呼、なんてあたたかいんだろう。
「うぅ…っうぁ…っ」
今まで抑え込んでいた想いが溢れて止まらない。
「りょうたぁ…りょうたぁ」
「なぁに、翔太」
「っ大好き…だいすきぃ…っ」
「ねぇ翔太」
「俺も、翔太が大好きだよ」
子どものように泣きじゃくる俺に、涼太はずっと愛を囁き続けた。
ひとしきり泣いたあと、俺は頬に添えられた涼太の手に、己の手を重ね、指を絡めた。そして少しだけ、体重を預ける。涼太は少し目を丸くする。でもすぐにいつもの優しい顔に戻る。
「翔太」
「なに?」
「翔太の瞳、琥珀みたい」
「…なんだそりゃ」
「そのままの意味」
「琥珀ってね、”愛”って意味があるんだって」
顔に熱が集まる。なんでこんなこっ恥ずかしいことをサラッと言っちまうんだろうか、この男は。でも。
「…ばーか」
君の瞳に浮かんだ涙に夕陽が反射して、美しい琥珀色の雨になる。雨に濡れ笑う君は、恐ろしいと感じるほどに、綺麗だった。一瞬だけ、俺の胸の奥が時を刻むのを忘れる。俺はそれの正体を、今は理解できない。けれど、君と同じだったらいいなって、心からそう思う。誰よりも気高く、美しく生きる君。でもその翼は硝子細工のように脆いから、俺が、君の側にいて、翼を休めるための止り木になるよ。だから、俺が君の隣にいることを、どうか赦してほしい。
帰り道。でも、いつもとは違う。歩幅を合わせて、濡れないように、ゆっくりと並んで歩く。
「涼太さ」
「ん?」
「彼女は?」
「あー、別れた」
「お前なぁ」
「はは、だって」
「翔太が1番大事って、わかったから」
琥珀色の雨は、まだ止みそうにない。
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なべさんが夢に溺れ、翻弄され
壊れかけたところをだてさんが
すくい上げるお話でした
どうしても「琥珀」を使いたくてですね
琥珀には他にも「時間を閉じ込める」
という意味もあるみたいで
「時を超えた愛」と解釈できるそうです
前世も来世も、多分一緒だと言った
そんなお2人にぴったりの石なのかなと
なんかちょっと
だてさんが遊び人みたいになっちゃいましたけど…
まぁ高校生の恋愛なんて
そんなもんですよね(適当)
思春期の心情というか
恋愛のちぐはぐさみたいなものが
少しでも表現できていたら嬉しいです
閲覧ありがとうございました
筆者
コメント
3件
好きです🙈✨💗

表現が素敵すぎて見入っちゃいました…✨️ だてなべ最高です😭🫶
いやめっちゃ好きっす